第27話・みんなで文化祭へ②

 ☆★


 車を走らせて、数分後。ノーブルの家へ到着した。

 微妙に外観のデザインに違いがあるけど、ほぼ同じ形の分譲戸建てが八棟並んでいる。黒ベースの和モダンな感じだ。

 その中の一軒に、ノーブルの家がある。

 蘭子の母親が、織田家の前に車を停車させた。


「俺、迎えに行ってきます!」


 秀が率先して車から降りると、何故か光も続けて降りてきた。


「ノーブルのお姉さんに会えるかな?」


 好奇心旺盛な顔で、光が言った。


「んー、どうだろう?」


 秀が首を傾げながら、カメラが付いたインターホンを押す。


「はい」

「あ、豊臣です。ノーブルを迎えに来ました」

「はいはい、いまドアあけますねぇ」


 微妙に日本語のアクセントが違うので「ノーブルの母ちゃんかな?」と、秀は思った。

 玄関ドアが開くと、深緑のTシャツと七分丈ジーンズに黒のボディバックを背負ったノーブルが現れる。


「ふぁ~、おはよう……眠いね……」


 ノーブルは大きなあくびをしてから目を擦った。ふるゆわショートの髪型に、かなりの寝癖がついていて、ついさっきまで寝ていたことがうかがえる。


「ねぇ、あんたのお姉さんは? 会いたいんだけど!」


 玄関先から、光は図々しく家の中を覗いた。ちらりと見える内装は、和っぽい雰囲気が漂っている。誰の趣味かは分からないが、和が好きなようだ。


「んーとね。姉さんなら今日は学校だからいないよ~」

「えー、ショックなんだけど! 実物を見たかったのに残念……」


 しょんぼりしながら、光は一足先に車へ戻って行く。

 少し前に塾で、ノーブルから姉と撮った写真を見せてもらった。

 凄く綺麗な人だったので、光は「実物に会いたい!」と、ノーブルに詰め寄っていた。


「土曜日なのに学校って大変だな。部活か何かか?」

「うんうん、違うよ~。土曜日も普通に授業があるんだ」

「へ!? 青りんごって土曜も授業あるんだ。大変だな~」

「あれ、もしかして知らないの?」

「何が?」


 首を傾げる秀に、ノーブルは一瞬言葉を詰まらせる。


「……私立の学校は、ほぼほぼ土曜授業があるよ。ないところもあるけど、宗教系の学校が多いかな?」

「まじか!」


 秀はショックで立ち尽くしてしまう。

 区立小学校でも月一回、学校公開がある。せっかく休みの日に学校へ行くのは、結構面倒くさいと思っていた。だがしかし、私立の中学へ進学するとそれが毎週になるらしい。

 ――それはちょっとだけ、嫌かもしれない……。


 寝坊助の秀には、週六で早起きはきつい話だ。

 みんなが行きたいかは別として、家に帰ったら土曜休みの学校を探してみようかな? と、密かに考えるのだった。


「こんにちは、よろしくお願いします」


 ノーブルが車のドアを開けて、ぺこりと頭を下げてから後部座席に座った。そのあとを、秀が続けて乗り込んだ。


「何であんたが私の隣なのよ」


 光が不機嫌そうに言った。光・ノーブル・秀の並びでは不満なようだ。


「あはは、光ちゃん。今日の服装は一段とおしゃれで可愛いよ~」

「はあ!? きもっ!」


 恥ずかしげもなく発言するノーブルに対し、光は心底嫌そうな顔をした。


「あら、言われてみれば、確かにそうね。光ちゃんっていつもおしゃれだから気がつかなかったわ」


 ハンドルを握る蘭子の母親が、さらりと話に加わってきた。


「そ……そんなことないです……普段通りなんです……」


 どきっと、光は動揺する。でも嬉しそうな顔はまんざらでもない。

 いつもきれいめおしゃれな蘭子の母親に、嫌味のない言い方をされると、誰だって嬉しい気持ちになる。

 光は恥ずかしさを隠すために、顔を手で扇うのだった。

 それから、目的地まで他愛もない話に花が咲いていた。

 その中でも一番多かったのは『今川由音いまがわよしね』の話だ。

『会えたらいいな~』から始まり。もし会えたら、『握手してもらう』だの『写真を一緒に撮ってもらう』だの、最終的に『一緒に文化祭を見てまわる』と、夢のような妄想話で盛り上がった。

 そんなこんなで秀たちの住む区から、車で都心方面に走ること約四十分。


「あら、ここが一台空いているわね」


 九尾学園中学校・高等学校から比較的近い駐車場に、一台だけ空きスペースがあった。

 運がいいと思い、蘭子の母親はすぐさま駐車場に車を入れた。

 満車マークがつく。

 車で九尾学園の文化祭に行く人が多いのか、学校周辺の駐車場はざっと見た感じ満車だった。

 それでも、歩いて行ける距離に車を駐車することが出来て本当によかった。


「よし、じゃあ行きましょ」

「「「「はーい」」」」


 蘭子の母親を先頭に、蘭子と光、秀とノーブルの二列で歩いた。

 九尾学園の周辺は、有名な古書店街や皇居がある。電車アクセスも、とても便利な地域だ。

 しばらく歩いていると、同じ目的地を目指す親子が多くなってきた。


「あっ! あれじゃない」

 

 光が指をさした先には、クラシックな外観の学校が『どどーん!』と、そびえ立っていた。

 数年前、女子校から共学化する時に同じ敷地にあった短大を潰して、大幅なリニューアル工事をしたらしい。そのおかげなのか、やたら敷地が広い。

 高級感溢れる綺麗な校舎は、秀・ノーブル・蘭子・光の目をしばらく奪った。

 蘭子の母親は隆雪蘭子の兄が受験をする時に一度訪れているので、学校よりもみんなの反応のほうを眺めて微笑んだ。


「素敵」

「ちょっと、何これ。ホームページで見る以上に凄いんだけど!」

「すげー、これが学校なのか?」

「あはは、九尾は初めてきたけど綺麗な学校だね」


 立ち止まって、それぞれが思ったとおりのことを口にした。

 あまりに場違いな感じがして、光がどぎまぎし始める。


「ていうか。ここって、元々お嬢様学校だったんだよね? 共学になった今でも、私たち庶民が入ったらダメなんじゃない!?」

「た、確かに! 俺みたいな庶民がこんな学校に入ったら怒られそうだ」


 光の緊張が、秀にも移った。ふたりでガタガタと震えだす。

 その姿を見て、ノーブル・蘭子・蘭子の母親が微笑んだ。


「あなたたち受験生には、九尾学園に入る権利がちゃんとあるのよ。だから、そんなにかしこまらなくても大丈夫よ」


 蘭子の母親が優しく声をかけてくれた。


「そうなんですか!? じ、じゃあ、遠慮なく行こっか」

「お、おう……」


 秀と光は目を合わせて、同時に小さく頷いた。

 蘭子の母親が歩き出したので、そのあとを四人もついて行く。

 安心させるために蘭子が、光の手を握った。

 動揺する秀には、ノーブルが話しかけてくる。


「あはは、そんなに緊張することないよ~。今日は文化祭なんだし、肩の力を抜いて楽しもう」

「う、うん。そうだよな~。学校が綺麗な学校すぎて、ちょっとびっくりした。さすが私立。近所の中学とは大違いだぜ」

「あはは、私立でも古い学校はあるよ。ここは全体的に改築したばかりだから、本当に綺麗だよね~。校舎内を見るのが楽しみだよ」

「お、おう。外側がこれだけ綺麗なんだし、中はもっと凄いんだろうな……」


 今まで私立の学校を意識していなかっただけに、秀は外観でこんなにも格差があるとは思いも寄らなかった。

 こんなことなら、蘭子の母親からもらったパンフレットを見て免疫をつけておけばよかったと、秀は複雑なため息をついた。

 大きな校門を通り、校舎手前に設置されている受付へ。

 学校名と塾名、それから名前を書く紙を記入すると、文化祭のパンフレット「きつね祭」が渡された。

 人もいないスペースへ行ってから、みんなでパンフレットに目を通す。


 表紙に――九尾学園中学校・高等学校。キツネ祭――とタイトルが書かれていて、桜と着物を着た狐の絵が綺麗に描かれていた。

 今年のテーマは「花見」らしい。一ページ目をめくると、校長と実行委員会のコメント、そしてテーマについて書いてあった。

 学生たちが一生懸命作った凝っているパンフレットに、秀は見入ってしまう。

 絵を描くのが結構好きな秀は――俺もこんなの作ってみたい! と思った。


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