第24話・蘭子のお家⑤

「ていうか、ずいぶん話が脱線しちゃったけど、結局どこの文化祭に行こうか? 何かおすすめのところない?」


 そう言いながら、光は立ち上がった。

 黙々とキーボードを打ち込む蘭子の背後から、パソコン画面をのぞき込む。

 そこには、とある学校のホームページが開かれていた。


「九尾学園?」

「そう、九尾学園。蘭が今一番気になる学校であります!」


 首を傾げる光に、蘭子がどや顔で答えた。

 この顔をするってことは『かなり本気だ!』と、秀・光・ノーブルは思った。


「へ~そうなんだ……あれ? 九尾学園ってどこかで聞いたような……」


 おでこに手を当てて、光は少し考える――前に、はっ! となった。


「あーっ! 今川由音いまがわよしね‼」

「そう、今川由音さんであります!」


 顔を見合わせる光と蘭子。何かに通じ合ったらしい。


「えーと、今川由音って……芸能人のか?」


 秀が首を傾げる。

 今川由音と言えば、幼い頃からよくテレビに出ているから秀でも分かった。

 父親は俳優で母親はモデル、言わば芸能界のサラブレットだ。

 クイズ番組を観ている時に、母親が『この子って、あんたの一つ年上だけど本当にしっかりしてるよね』と言っていたのを覚えている。

 秀たちの一つ上と言うことは、現在小学六年生だ。

 最近はテレビの露出を控えて、小・中学生向けのファッション雑誌を中心に活動しているらしい。


 ――だけど、何で今川由音の名前が出てくるんだ?



「それは誰なのかな? 有名人?」

 ノーブルは、芸能人かさえ分かっていないようだ。

 

「はあ? 何で知らないのよ! 今川由音って言ったら、よくドラマやCMに出てる子じゃん! 今はハピぷちの専属モデルもやってて、女子の間じゃめちゃくちゃ大人気なんだよ! 知らないほうがおかしい‼」


 光はちょっと不満そうに言った。どうやら今川由音の存在は、陽キャ女子の間で知っていて当たり前らしい。

 だけど、知らないノーブルはのん気に聞き返す。


「へ~、凄い人なんだねー。で、ハピぷちって、何?」

「小・中学生向けのファッション雑誌だよ! もう! お姉さんがいるくせに、何で知らないのよ!」

「うーん……姉さんは別として、男の僕が女性向けのファッション雑誌を読んでいたら、どう考えても変だよね?」

「まあ、読んでたらキモいだけだけど……でも、とにかく‼ 今川由音は今年の二月にハピぷちで、『中学受験始めます!』って言うコーナーを掲載し始めたんだよね!」


 光は熱く語ると、蘭子が手早くパソコンで検索したハピぷちのホームページを、ノーブルに突きつける。


「見て。ハピぷちのブログにも詳しく載せているのであります!」


 ノーブルに便乗して、秀もブログに目を通す。

 

 ここは、今川由音のブログでーす。

 自己紹介しまーす。


 名前:今川由音いまがわよしね。

 あだ名:よっしー。

 生年月日:六月十二日。

 年齢:十二歳。小学六年生。

 ペット:おもち(シーズー)

 趣味:写真を撮ること

 好きな食べ物:お団子


 はじめましての人も、そうでない人も、よっしーだよ~。

 ママの出身校に入学するために、中学受験始めましたー‼

 何と! 偏差値・六十五の難関校だよ! 応援よろしくね~!

 

 簡単に書かれた絵文字だらけのプロフィールのあとは、写真やその日あったこと、成績などがアップされていた。

 ブログの内容から、仕事と学業をこなしながら、どうやって受験勉強しているのか? と思ってしまう。

 一般的な中学受験生以上に多忙そうだ。


「スゲー! 頑張ってんだな‼」

「うん、本当に凄いよ!」


 由音の頑張っているブログを見て、秀とノーブルは心の底から感心する。


「これも見て」


 蘭子がマガジンラックから雑誌を持ってきた。

 秀は雑誌を受け取ると、猫の付箋がはられたページをめくった。すると、そこは今川由音の特集ページだった。

『中学受験! やってみよっしー‼』と言うタイトルで、一ヶ月の出来事を一ページにまとめられていた。

 受験の大変さなんて感じさせない魅力的な笑顔は、益々彼女を応援したい気持ちにさせた。


「仕事をしながら中学受験って……スゲー大変だろうな~」

「絶対に大変。九尾は偏差値六十台。倍率も非常に高い。成績上位者でも難しい。かなり努力が必要。だから、蘭も応援しているのであります!」


 秀の何気ない一言に、蘭子が鼻息を荒くして主張した。

 今川由音に対して、かなりリスペクトしているようだ。


「さっ、これで今川由音の凄さが分かったでしょ! と言うことで、私たちも由音さんが目指している九尾学園の文化祭に行ってみようよ‼」


 光の明るい声に、蘭子・秀・ノーブルはすんなり賛同する。

 異議なし、だ。

 どんなに回り道をしても、決まるときはあっさり決まってしまう。

 そのあとは、もう何校か行きたいところを選んで、詳しい予定を立てた。

 門限までまだ時間があったので、残りの時間をテレビゲームをしながらみんなで楽しく過ごした。

 塾で過ごすのもいいけど、こうやって家で遊ぶのもいいなと、秀が喜びに浸っていると……玄関から声が聞こえてきた。

 と思ったら、リビングダイニングのドアが開いた。

 誰が入って来たのか確認しようと、秀たちは一斉にドアに顔を向けた。 


「おまたせー、僕のエンジェルちゃん! 忌まわしき下界へ旅立ってしまった戦友の召喚を受けしまい、寂しい思いをさせてしまったね。しかーし、もう大丈夫だよ。僕の右手に宿る聖なる力で混沌を倒してきたからね。これであとはゆっくりエンジェルと過ごすことが出来るよ」


 演技っぽく眼鏡のブリッジの部分をくいっと手で押し上げ、腕を組みながら颯爽とリビングダイニングへ入ってくる青りんごの男子学生。

 その正体は、蘭子の兄だ。


 ――へ? 今、スゲー痛い事を言ってなかったか!?


 秀だけじゃなく、光も目を白黒させて耳を疑った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます