第23話・蘭子のお家④

「私は、とにかく服に関わる仕事がしたいから、ファッションデザイナーになるのが夢なんだ~!」


 堂々と胸を張って、光は将来の夢を語った。

 蘭子とノーブルは「素敵な夢」だと、褒めてくれた。

 だけど、秀は違った。何か思い当たる節があったのか首を捻る。


「……それっておまえ、漫画の影響だろ?」

「は? だったら何? ダメなわけ!?」


 秀のツッコミに、光は顔を歪める。どうやら図星を突いたようだ。

 光が影響を受けた漫画は、デザイナーを夢見て頑張る高校生たちの物語だ。

 

「い、いや、別にダメじゃないけど……」

「けど、何?」

「あの漫画は俺も凄く面白いって思ったから、ただ単に影響受けたんだなって思っただけだよ。別におまえの夢がダメだとかそんなこと言っているんじゃないからな!」


 光に冷たい目で睨まれ、秀は必死で弁解した。


「ふーん、あっそ。まあ、あの漫画に影響を受けたのは事実だから、別にいいんだけど!」

「いいんかい! なら、そんなに不機嫌にならなくてもいいだろ」

「だって、しゃくに障るじゃん! 決め手になったのがあの漫画なだけで、ずっと前から洋服関係の仕事がしたいな~って思ってたんだからね‼」

 

 光はぷりぷりと怒り出す。このままじゃ歯止めが利かなくなる――と思いきゃ。


「光が影響を受けた漫画。蘭も読みたい」

「え? 本当に!?」

「本当」

「嬉しい! 明日、学校が終わったら蘭子の家に渡しに行ってもいい?」

「うん。楽しみに待っている」

「やったー! あの漫画のことについて語れる人が秀以外にいなかったから、凄く嬉しいんだけど!!」


 まるで天の声。蘭子の一言で、光の態度ががらりと変わった。

 嬉しそうな笑顔を浮かべて、女子同士の話に花が咲く。

 光は漫画が好きで、蘭子は本なら何でも好きなのだ。

 そんな中、ノーブルが水を差す。


「僕的に、ちょっと意外かな~。光ちゃんはモデルになりたいのかと思っていたんだよね」 

「はあ!? やめてよ! 私はそこまで可愛くないし!!」


 光はわずかに表情を曇らせる。おしゃれするのは大好きだ。だけど、光は自分自身の見た目を過大評価していないのだ。

 

「そうかな? テレビに出ているアイドル並みに可愛いと思うよ」


 恥ずかしげもなく、ノーブルはかっこいいことを言ってのける。

 流石はイギリスの血が半分混ざっているだけのことはある。基本的に、恥ずかしがり屋の日本人には言えないセリフだ。


「……あんた、熱でもあるんじゃない?」


 そう言いながら、光は恥ずかしさを隠すように身を乗り出して、ノーブルの左頬を右手でつねった。


「いててててっ」

「おいおい、体温を確認するなら普通おでこだろ!」


 痛がるノーブルの代わりに、秀がツッコミを入れた。

 すると、光から「うるさい!」と返ってきた。その手は未だノーブルの頬をつねったままだ。


「ていうか、あんたの夢って何なのよ? ろくでもない夢だったらただじゃおかないから!」

 

 何をそんなに怒っているのやら。言いがかりだ。なのに、ノーブルも更に水を差すようなことを口にする。

 

「あはは、痛そうで痛くない、絶妙なつねりが良い感じだよ」

「はあ!? キモっ!」


 訳の分からない発言を聞いて、光の指から力が抜けた。

 光が過剰な反応をして「キモい!」を連発させる。

 だけど、効果がない。ノーブルはへらへらと笑いながら、赤くなった頬を撫でるだけだった。

 

「俺もノーブルの夢って何なのか気になるんだけど、将来は何になりたいんだ?」


 秀が興味津々に尋ねる。特にないなら、一緒に漫才コンビを組んでくれないかな? と、秀は思っていた。


「んー、僕は……星を見る人になりたいかな?」

「へ?」

「は?」


 秀と光の疑問の声がそろった。漠然としていてピンと来ない夢だ。


「星を見る職業。宇宙飛行士。宇宙開発技術者。NASAで働く。天文台で働く。プラネタリウムで働く。占星術師。天文雑誌編集者。天文学者などがある」


 蘭子がパソコンで調べてくれた。


「へー、星を見る職業って色々あるんだな~。占星術師って、何かゲームキャラっぽくてかっこいいぞ!」

「でもノーブルがやると胡散臭そうなんだけど……」

 

 目を輝かせる秀とは対照的に、不満そうに目を細めて光がツッコミを入れた。

 この先、美少年から美男子へと成長するノーブル。占星術師という職業につけば、きっとのめり込む人が多発するだろう。もしかしたら、破産する人もいるかもしれない。そんなあり得る未来を、光は想像してしまった。


「あはは、どれも魅力的だけど……でも占い師は才能がないから選ばないよ」

「そうね。世の中のために、それがいいと思う!」


 ノーブルの言葉に、光が大きく頷いた。被害者を出さないためにも、別の職業に就いたほうがいい。


「あ、あのさ。俺、中学に入ったら動画を撮りたいんだけど、もしよかったらノーブルも一緒にやらないか?」

「……それって、youtubeeとかに投稿するのかい?」

「うん、そうだよ。おまえとなら絶対に面白い動画が撮れると思うんだ!」


 無邪気な笑顔で秀が勧誘する。

 蘭子も「いい考え。きっと面白いコンビになる」と、賛同してくれた。

 けれど――


「ん~、僕はそういうの興味ないんだ。だから、やらない。ごめんね」

 と、ノーブルにあっさり断られてしまった。


「そ、そっか……」

 

 まさかばっさり断られると思っていなかった秀は、あからさまにしゅんとする。


「ま、全ての動画が悪いわけじゃないけど。他人に迷惑をかけることもあるんだし、あんたもほどほどにしなさいよ」

 光が見兼ねて保護者みたいなことを言う。

 悪質な動画が多すぎて、光は秀の夢に対し悲観的で「もっと別の夢を持ってほしい」と思っていた。


「ネット動画で食べていくのには、最低でも一万人以上の登録ユーザーが必要と書かれている」

 蘭子がインターネットを検索して、画面を秀に見せてくれた。激しい競争の中、人気がでるまでには相当の努力が必要らしい。

 小学生の将来なりたい職業ランキング第六位・動画制作クリエイター。

 ノーブルに断られたことがショックで、秀は始める前から意欲を失いそうになってしまうのだった。


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