第22話・蘭子のお家③

 ☆★


「それじゃあ、そろそろどこの文化祭に行くか決めよっか」


 と、光が仕切る。

 落ち着きを取り戻したリビングで、やっと話し合いが始まろうとしていた。

 テーブルには、秀が持ってきたスナック菓子と麦茶が入ったコップが四人分置かれている。

 光が「次はジュースよりもお茶がいい」と言ったからだ。


「私的には、青りんごみたいな大学附属がいいと思うんだけど、みんなはどう思う?」

「んーそうだね~。別に附属にこだわらなくても、進学実績がある学校はそれなりにあるよ。逆に光ちゃんは何で附属がいいのかな?」


 光の質問に、ノーブルが質問で返した。


「え~だって、大学入試が変わるんだから附属に入っておくほうが、絶対に安全じゃない!? ニュースとかで英語入試が民間になるだのやっぱりやめるだのって言ってるし、付属に入っちゃえばこの先どうなっていくかも分からない大学入試なんか受けなくてもいいんだよ。エスカレーターで大学まで行けちゃうんだし、これは狙わないともったいないじゃん!」

「まじか! 附属ってスゲーんだな!!」


 光の主張に、秀が目を輝かせた。

 未だに中学受験の本質を分かっていない秀。

『大学附属に入学すれば、もう勉強しなくてもいいんだ!』という甘い考えが浮かんだ。

 そんな浅はかな考えを読んだのか、蘭子が眉をひそめる。


「豊臣さん、それは罠。中だるみは、留年の危険性あり」

「へ? 留年って?」

「成績不良や出席日数が足りなかった場合、同じ学年を繰り返さなければいけないこと」


 さらっとそんなことを言われても、義務教育しか知らない秀は、何のことやらピンとこなかった。頭上に『?』を沢山浮かべる。


「へ? 何で? 同じ学年をもう一回やるなんておかしくないか!?」

「……義務教育の意味は知っている?」


 蘭子が同情するような目で、秀に語りかける。


「お、おう、義務教育くらい知ってるぞ」

「良かった。小学校と中学校のほとんどが義務教育。だけど、高校は違う。今の時代、ほとんどの人が高校に進学するのが普通になっているけど、本来は年齢関係なく学びたい人が行くところ。私立も同じ。中学でも成績不良や出席日数が足りないと留年になる可能性がある。特に附属の学校にはそれが多いらしい。きっと痛い目にあう。下手したら退学」

「そ、そうなんだ……」


 おいしい話だと思ったけど――どこかの附属校に進学しようが、やっぱり勉強はしなくちゃいけないんだな……と、秀はがっかりする。

 だけど、光は違った。

 有無を言わせぬ説得力を聞いたにも関わらず、唇を尖らせて抗議する。


「デメリットがあったとしても、やっぱりメリットのほうが大きいんじゃない? 蘭子のお兄さんだって、青りんごの附属に通っているじゃん」

「お兄ちゃんは関係ない。それに、蘭は行きたい大学がある。附属の学校に行くと、系列の大学にエスカレーター式で進学できるのは魅力的。だけど、他の大学を外部受験することに対して否定的。つまり国立大学を目指す場合、全て自分で対策をしなければいけなくなる。だとしたら、国立大学の進学率が高く、尚且つ難関大学の推薦枠を持っている学校に進学したほうがいいと、蘭は思う」


 蘭子は自分の気持ちを丁寧に解説してくれた。

 不機嫌な顔で、光は口をもごもごさせる。言い返せない。この話題で蘭子に勝てる気がしないからだ。


「森の行きたい大学ってどこなんだ?」


 秀が首を傾げる。


「日本一の大学だよ」

「「へ!?」」

 

 さらっと答える蘭子に、秀と光は目をぱちくりさせた。

 日本一の大学と言ったら、興味がない秀でも分かる。日本で一番有名な国立大学だ。

 思い出したように、ノーブルがぽんと手を叩く。


「そういえば蘭ちゃん。医学部に行きたいんだよね?」

「うん、そう。医学部はお金がかかるから、国立希望」


 ノーブルと蘭子の会話を聞いて、秀は突然『ぴぴーん!』と二分の一成人式のことを思い出す。 

 二分の一成人式とは――四年生が学校の舞台に上がって、将来の夢を語ったり、歌ったり、親にお礼の言葉を述べたりと、感動させる演出が満載の行事だ。秀と蘭子はクラスが別だったが、偶然にも前後で舞台に並んでいた。


「そういえば、確か……森って、二分の一成人式で医者になりたいって言っていたよな?」

「うん、言った。豊臣さん、よく覚えている。凄い!」


 軽く視線を秀に向けて、蘭子が微笑んだ。

 些細な一言だったが――秀の好感度が上がった。


「う、うん。俺、森の後ろだったから覚えて……いてっ!」


 秀は少しだけ頬を赤くする。すると、誰かがテーブルの下から足を蹴ってきた。

 犯人は光だ。

 何故か、不満そうにむすっと頬を膨らませている。

 身に覚えがない秀は、きょとんとした。

 けれど、光は理由も話さない。しれっとしながら、蘭子に話しかける。


「蘭子の夢って医者なんだ~。ていうか、何で医者になりたいのよ?」

「蘭は、老若男女問わず美しくなりたい人の手助けがしたい。蘭にとって美容整形外科は天職だと思うのであります!」


 胸を張って、熱く夢を語る蘭子。

 どや顔の先には、医師として働く未来がある。

 秀・光・ノーブルの目に、蘭子がきらきらと眩しく映った。

 何だか悔しくなった光は、蘭子に便乗することにした。


「はいはいはーい! じゃあさー、私の夢も聞いてよ!」

「光の夢。蘭も知りたい」

「僕も知りたいな~」

「おまえの夢って何だっけ?」

 

 と、光の自己主張に、三人は興味津々だ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます