第20話・蘭子のお家①

 自転車で約五分、蘭子の家に到着した。

 普段からフリルやレースの服を着ている蘭子の可愛いイメージに、凄くぴったり合う北欧風二階建て一軒家だ。

 玄関周りや門柱に花壇があり、ちゃんと手入れが行き届いていて、季節の花々が綺麗に咲いている。


「きゃー! 何これ可愛いすぎるんだけどー!!」


 光は大興奮だ。自転車越しに、秀の肩をばしばしと叩いてくる。


「ここに、自転車を止めて」


 蘭子が指示した場所は、いつも塾の帰り道にお世話になっている車の横だった。

 おしゃれなカーポートに、全員の自転車が寿司詰め状態で止まった。

 ピーンポーン。

 玄関のインターフォンを押すと、蘭子の母親が出迎えてくれた。

 

「ただいま。今日はうちで遊ぶことになった」

「「「こんにちは、おじゃましまーす!」」」


 蘭子の言葉に続けて、秀・ノーブル・光は元気にあいさつをした。


「いらっしゃい。今日も暑いわね。だけど、うちに来るか分からなかったから、リビングのエアコンがついていないの。ごめんなさいね。蘭子、みんなのことちゃんとおもてなしするのよ」

 そう言うと、蘭子の母親は二階の自室へ入って行った。


「はい」


 蘭子は返事をして、みんなを一階にあるリビングダイニングに案内した。まるでインテリア雑誌に出てきそうな部屋だった。


「何かスゲーな……」

「蘭のお母さん、インテリアコーディネーターの仕事をしているの。だから、こだわりが強い」

「インテリア子? 何だそれ?」

「インテリアコーディネーター。快適な住空間を一緒に考える仕事を指すの」


 圧倒される秀に、蘭子がエアコンのスイッチを入れながら説明してくれた。


「へー、そんな仕事もあるんだな~。スゲーおしゃれ」

 感心する秀。世の中には、まだまだ自分の知らない職業がありそうだなと思った。


「暑い~! 蘭子ぉ悪いんだけど、もう少し温度下げてー」

「了解」


 光に言われ、蘭子は温度を下げようとボタンを押す。それを見て、秀が『ぴぴーん』とテレビで観たことを思い出す。


「そういえば、鼻高々って番組で、エアコンは温度を下げるより強風にしたほうが一気に部屋が冷えるって言ってたぞ」

「本当? 試してみる」


 蘭子は頷くと、設定温度二十六度で強風にした。すると、一気に部屋が涼しくなった気がした。


「本当に涼しくなったじゃん! テレビの雑学って意外と役に立つんだー!!」

「凄いね! 僕、あんまりテレビを見ないけど、これから鼻高々は見るようにするよ!」


 あっという間に快適な涼しさを手に入れることができて、 光とノーブルも大満足だった。


「荷物はそこに置く。まずはこっちで手洗い」


 蘭子の誘導で、四人は洗面所に移動した。

 おしゃれな白×黒のモノトーンボトルに入った液体石鹸で手を洗う。近所のドラッグストアには売ってなさそうないい匂いがした。

 汗が人一倍凄かった秀は、ついでに顔を洗わせてもらった。貸してくれた白いタオルがあまりにもふかふかで、目をぱちくりさせる。

 

「何でこんなにもふかふかなんだ? うちのタオルなんてごわごわだぞ」

「タオルをふわふわにしたいなら、乾燥機で乾かすしかない」

「へー、でも何で?」

「ごわごわは、タオルのパイルが折れるのが原因。乾燥機は、それをふんわり起こしてくれる」

「まじか! 乾燥機ってスゲーな。帰ったら母ちゃんに言ってみよう」


 秀は「ありがとう」と言って、蘭子にタオルを返した。

 それから、みんなでリビングダイニングへ戻った。 

 改めて見ると、何から何までこだわりがある内装だった。

 小物が多すぎて、秀は「絶対に壊さないようにしなきゃ!」と、ガチガチに緊張してしまう。

 とりあえず、三人掛けのカウチソファーにちょこんと座った。

 対象的に、光とノーブルは「すごい! すごい!」と、目を輝かせてあれもこれもと小物を手に取って眺めている。

 ノーブルの家はどうなのか知らないけど、秀と光の家はお値段以上ニワトリの家具が多い。

 使い勝手が良いし、何の不便もない。だけど――住む世界が違うって、こんな時に使うんだなと、子供ながらに何となく格差を感じてしまった。

 だけど、『人それぞれ!』と母親に口酸っぱく言われ続けているおかげで、瞬時に――これはこれでありだなと、秀の気持ちは前向きへと切り替わった。


「みんな、何飲む? ジュースだと、オレンジとぶどうとりんごと桃がある」


 蘭子がオープンキッチンに置かれたフレンチドアの冷蔵庫を開ける。


「私、オレンジジュースがいい!」

「俺は断然ぶどうだな。あ、お菓子持って来たんだった」

「僕は桃かな~」


 と、三人は飲みたいジュースを言った。

 

「了解」

 返事をしてから、蘭子はそれぞれの希望するジュースの紙パック250mlを持ってきてくれた。ちなみに、蘭子はりんごジュースだ。

 みんなでダイニングテーブルの椅子に座って、仲良くジュースを飲んだ。

 光と蘭子、秀とノーブルが隣同士だ。

 外が暑かっただけに、ジュースの減りが早い。

 あっという間に飲み切ってしまい、秀とノーブルはもう一本ジュースをもらった。

 今度はふたりともオレンジジュースを選んだ。


「そうだ! せっかくだし、どこの文化祭に行くのか決めておかない?」

「そうしょう。蘭、ママからパソコンを借りてくる」


 光の提案に、すかさず蘭子が反応した。

 椅子から立ち上がると、蘭子は小走りでリビングダイニングを出て、二階へ駆け上がって行く。


「えーと、文化祭って何だっけ?」

「はあ!? あんた、何聞いてたのよ。夏期講習の時に、みんなで色んな学校の文化祭にいきたいねって話になったじゃない。忘れないでよ!」

「へ? そうだったっけ?」

「何で忘れてるのよーバカっ!!」


 秀が首を傾げるので、光が不満そうに唇を尖らせた。


 受験生にとって文化祭とは――学校見学や体験授業以上に、よりリアルな学校風景を見ることが出来る重要なイベントだ。

 国立、都立、私立のさまざまな中高一貫校で、九月と十月に文化祭が行われる。

 秀たちが受験するのは来年だが、今はどんな学校があるのか幅広く見ておけるチャンスの時期でもある。行ける時に行かないと、もったいないのだ。


「あはは、それどころじゃなかったんだよね? 秀は夏期講習の勉強で頭がパンクしそうだったもん」


 ノーブルがやんわりと助け船を出す。


「おお、ノーブル! 俺の気持ちを分かってくれるのは、おまえだけだぜ」

「あはは、それほどでもないよ~」


 と言って、ふたりはがしっと手を組んだ。暑苦しい男の友情に、光が恨めしそうに睨む。


「はいはい、確かにそうだったね。でもって、蘭子のおかげで、何とか前期確認テストの点数が平均でよかったじゃん」


 皮肉っぽく光は、秀を褒めた。

 夏期講習のうちに二回行われる確認テスト。

 後期の結果はまだ出ていないが、秀は初めて前期のテストで平均点が取れた。とはいえ、それは総合点の平均であって、四教科をばらしてみるとまだまだ実力不足だった。

 それでも、秀は成績が上がって嬉しかった。

 ひとえに、蘭子のおかげだ。

 蘭子は頭もいいが、教えるのも上手い。無駄を省いて、要点をまとめてくる。

 そのおかげで、光は夏期講習から戦国アカデミーへ参加したのにも関わらず、めきめきと力をつけた。確認テストでは、秀より光のほうがいい点数を取るまで成長したのだ。



「本当だぜ! だけど、俺はおまえにも感謝してるんだ。休みの日は一緒に勉強してくれてありがとな。おかげで誘惑に負けずに頑張れたぞ!」

 

 親指を突き立てて、秀はにっこりと笑った。


「~っ! べ、別に当然じゃん! だ、だってあんたは私の家族みたいな存在だもん! それに、今は同じ目標を持つ塾仲間でもあるんだから勉強しなきゃ意味ないでしょ!!」

 

 何故か、光が顔を真っ赤に染めながら、テーブルをばしばしと叩いた。

 手が痛そうだと、秀は思った。











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