第14話・夏期講習③

「そっか~、秀もやっぱり上位を目指したいんだね。具体的にどこの学校に行きたいとか決まっているのかな?」

「んー、まだ正直よく分かんないけど……とりあえずそれなりの上位校がいいと思っているんだ。もしよかったら、ノーブルも一緒に頑張らないか?」


 お互いに目が合う、ノーブルが秀に穏やかな笑みを投げかけてくる。


「んー、悪くはないお誘いだけど……その話をまともに聞くのは、秀が二ノ丸から出れた時でもいいかな?」

「へ?」


 秀は首を傾げる。


「単純なことだよ。秀の偏差値が五十台をキープして一の丸の教室に移動できたら、僕もまったりすることを止めるよ」


 キラキラの弾ける笑顔で、ノーブルが提案してきた。

 きょとんとしている秀に、光が呆れた。


「あんた、試されているのよ」

「へ? 試す?」

「勉強嫌いのあんたが、本当に成績を上げられるわけ? きっとノーブルも信じてないんだよ。口では何とでも言えるし」

「あ、そういうことか!」


 秀が自分の手を、ぽんっと叩いた。やっと、ノーブルの言いたいことが分かったのだ。


「そんなのすぐだって! 見てろよ。あっという間に一の丸に行ってやるぜ!」


 にかっと笑って、秀は胸を張る。

 どこからそんな自信が湧いてくるのか分からないが、秀の前向きで頼もしい姿に、ノーブルは少しだけほだされる。

 ――もし本当に一の丸へ行けたとしたら、秀のことを信じてみようかな? と、ノーブルは思った。

 

「じゃあさー、俺からも一つ提案していいか?」

「何かな?」

「もし、俺が一の丸に上がれたら、志望校を一緒にしようぜ?」


 秀の言葉に、ノーブルは目を見開いた。だけど、笑顔は崩さない。


「蘭ちゃんに何か言われた?」

「あ、う、うん……三人で一緒の学校に通いたいって言われた」

「あはは、そっか~。うん、そうだね~。三人で通うなら、学校も楽しそうかもね」


 のほほんと、ノーブルが頷いた。

 何となく、引っかかる言い方だった。

 気になったけど、光の「私もみんなと同じ学校に通いたい!」という一言で、かき消されてしまう。

 

「へ? おまえも!?」

「何よ! ダメなの?」

「ダメじゃないけど……」


 考える秀に、光が意地悪そうな笑みを浮かべる。


「ならいいじゃん。はい、決まりね!」


 答えを口に出す前に、光が強引に仲間に加わってきた。

 秀的に、本当は蘭子に相談したかった――だけど、そんな暇は一切ないまま決定されてしまった。


「あはは、それ凄くいいと思うよ! 四人だと何だか楽しそうだねー」

「へ? まじか!?」

「うん! うん!」


 ノーブルが首を大きく縦に振ったので、秀は素直に喜んだ。手を上げて、体で嬉しさを表現する。 


「じゃあ、約束だぞ! あとで、森にも伝えるからな」


 そう言って、秀が手をかざす。つられて、ノーブルも手をかざした。

 ふたりは、ハイタッチをした。 


「うん、約束しょう。でもまずは、秀と光ちゃんのお手並みを拝見させてもらうよ」

「おう!」

「見てなさい! あっという間に成績を上げちゃうんだから!」


 秀と光のやる気に満ち溢れる声が重なった。

 まだ完全な約束ではないけれど、どうにかノーブルに『一緒の志望校にしょう』と伝えることが出来て――ひとまず一件落着だと、秀は思った。

 光が戦国アカデミーに入塾してきたことで、雰囲気が変わり吉と出たのだ。

 次なる目標は、脱二ノ丸だ。

 さくさく成績を上げて、いざ一の丸へ!


 ☆★


「ホント、信じられないんだけど‼」


 午前中の授業が終了すると同時に、光は不満を爆発させた。

 原因は、ノーブルの居眠りだ。

 授業開始後、ノーブルは机に突っ伏していつも通り夢の中へ。

 それを見て、事情を知らない光は、すぐに「起こしてあげなきゃ!」と使命感に燃えた。

 光は暇さえあれば、後ろから叩いたり、鉛筆で突っついたりしていた――が、ノーブルは全く起きなかった。


「ほへ? 僕、寝てた?」


 ぽや~と、寝ぼけたノーブルの声。顔もまだ夢心地だ。


「寝てたの? っていうレベルじゃなかったんだけど! しっかりしなさいよね‼ 次の時間も寝てたら、今度は鉛筆で刺すから!」


 光はぷりぷりと怒りながら、先がピンと尖った鉛筆をノーブルに見せる。

 凄く痛そうだ。

 怒っている時の光なら本当にやりかねないので、笑えない冗談だった。

 ――その時は、俺が全力で止めなければ! と、秀は心に誓った。


 

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