第102話 旅人

「助けていただきありがとうこざいますぅ~」


「いえ、こちらこそ色々と手違いというか、お騒がせしてしまったようで」


 何せ溺れてるところを炎で焼き払ったからな。


「いえいえ、お気になさらずぅ~」


「そう言っていだたけると助かります」


「それにしても、まさかあんなに大きな竜が懐いてるなんて凄いですねぇ~」


「懐いているというか、協力してもらっているといったところでしょうか」


「ほぇ~、そうなんですかぁ~」


 うーむ、言うほど驚いていないというか。


「そういえば、助けていただいたのに名乗ってもいませんでしたねぇ~」


 なんとも独特なリズムで話す人だな。


「わたくしはスミャフともうしますぅ~」


「スミャフさんですか。私はⅩⅣ狼といいます」


「ジュシロウ様、この度は本当に助かりましたぁ~。しばらくは溺死と川流れを覚悟していましたのでぇ~」


 …………。


「干からびてからの死に戻りを繰り返す、砂漠での死の行進と同じくらい大変かと覚悟していたので、本当に嬉しいですぅ~」


「そ、そうですか」


「ああ、でもこの大陸に流れ着くまでの板切れ一枚での漂流も中々でしたねぇ~」


 おおう、こんなところに板切れ航海の同士が。


「何せ二週間ほどは海の上でしたから。海上にいれば干からびますし、水中にいれば魚の餌。嵐に巻き込まれたときは安全装置の無い絶叫マシーンの擬似体験までできましたしぃ~」


 うん、違った、同士どころか大先輩だった。


「ですがどれも良い思い出ですぅ~」


「良い思い出ですか」


「はぃ~」


 これ本気で言ってるポイんだが。


「空腹、乾燥、灼熱、漂流、どれも素晴らしいほどの極限状態でしたぁ~」


 いや、極限状態っていうか、それ全部死に戻りしてるよね、多分。


「そしてその極限の状況で眺める景色は……」


 なんか恍惚とした表情になったよ、おい。


「どれも最高ですぅ~」


 うん、アレだなスミャフさん、おっとり系美人だと思ったが……


「ちなみにジュシロウ様はどんな間際の景色がお好みですか?」


 完全にヤバい系統の人だな。


「いえ、そういったものは特にありませんね」


「そうですかぁ~。では今度ご一緒に大嵐の海でうねる波の頂点から落下しませんかぁ~。とっても素敵な景色がみられますよぉ~」


 いや、しないよ。そんな急転直下な死と隣り合わせな絶叫マシーンとか。


「本当に素敵でしたぁ~。はふぅ~」


 艶かしいため息に一ミリも色気を感じない! むしろ若干の恐怖を感じるよ。

 というかこのままスミャフさんが話を続けると、なんか色々と俺の身が危険な気がする。


 なんとか話を変えないと。


「そ、それでスミャフさんはなぜこのような場所へ?」


「それはですねぇ~。わたくしが旅人だからですぅ~」


 …………。


 は?


「申し訳ありません、おっしゃっていることが上手く理解できないのですが、一体旅人というのは?」


「そのままの意味ですよぉ~」


 ?


「ですから、わたくしのジョブと種族が旅人なのですよぉ~」


 !?

 この人が丸田が言っていた俺と同じ特殊ジョブの旅人か!


「どうかされたのですかぁ~?」


「いえ、私と同じように少し変わったジョブや種族の方とお会いしたのが初めてだったので」


 まあ、特殊じゃないジョブのプレイヤーともほぼ接点はないんだけどな。


「なるほどぉ~、ではジュシロウ様は家庭教師さんなのですねぇ~」


 家庭教師?

 そういえば丸田もそんなこと言ってたような。


「あら? 違うのですかぁ~?」


「ええ」


「となるとぉ……もしかして誰にも知られていない新しいジョブでしょうかぁ~」


 誰にも知られていないか……たしかにほとんど他のプレイヤーとは交流してないし、丸田が俺のことを誰にも話していなければその可能性はあるな。

 というか俺、MMORPGやってるのに他のプレイヤーとほぼ交流ないって……


「ジュシロウ様?」


「っと、申し訳ありません。もしかするとスミャフさんのおっしゃるとおりかもしれません」


「なるほどぉ~。新しいジョブの発見、これはお祭の予感がしますねぇ~」


「祭ですか」


「ええ、以前お会いした方がそうおしゃっていましたぁ~」


 ん?


「ですが不思議なのですよぉ~。その方がお祭だお祭だと騒がれていたので、楽しみにしていたのですがぁ~」


 えーと……


「結局お祭を目にすることはなったのですぅ~」


 祭の意味わかってないよな、スミャフさん。


「スミャフさん、つかぬ事をお伺いしますが」


「なんでしょうかぁ~?」


「スミャフさんはこのゲームの情報交流サイトや掲示板などを利用されたことはありますか?」


「じょうほうこうりゅうさいと? けいじばん?」


 やっぱりか、というかこの反応もしかして。


「携帯とゲームのリンクはわかりますか?」


「携帯とゲームのりんく???」


 おおう、ここに俺並に説明書も読まず情報収集もしない人が。


「それは大切なことなのですかぁ~」


「それはもちろん……」


 ……大切か?

 というか情報収集サイトや掲示板は俺も全く利用してないしな。


 ああ、でも携帯は街のみんなとやり取りするのに使ってるか。


「そうですねサイトや掲示板は問題ないかもしれませんが、携帯とのリンクはゲーム内の知り合いと連絡が取れますし、ゲーム外の人との連絡のやり取りもできますので便利な機能ではあるかもしれませんね」


「なるほどぉ~。たしかにお食事の時間の時に外から呼んでいただけるのは便利ですねぇ~」


「そうですね、ついついゲームに夢中になっているときなどは便利かもしれませんね」


「ふむぅ~。それで携帯とのリンクとはどのように行えばよろしいのですかぁ~?」


「ゲームの説明書に方法が書いてありますので、そちらを参考にされると良いと思いますよ」


「ありがとうございますぅ~。それで早速やってみますねぇ~」


「はい、作業自体は簡単なのですぐにでもリンクするとよいと思いますよ」


 作業自体は俺でも簡単にできたくらいだし、説明書見れば何とかなるだろ。


「ではぁ~、お言葉に甘えさせていただきますぅ~」


 は?


 え? スミャフさんが固まった? 


「あのスミャフさん?」


 ……。


「スミャフさん?」


 …………。


 まさかのログアウト!?

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