第60話 覚悟(side ????)
「英雄殿、全員集まったようです」
未知の土地への移住だと言うのに、これだけの人が集まるとは。流石はファウスティーナ様。
父上がアッキレーオ様の暴挙をあえて止めなかったのもわかる気がする。彼女がここに残れば下手をすると、いや確実に国が割れてしまう。
それにしてもファウスティーナ様を連れ出すのがまさか陸の人間だとは。
一度前科のある方ではあるし、彼女らしいと言えば彼女らしいのかもしれないが。
「え、英雄殿?」
「りょ、領主殿?」
あのような奇っ怪な動きをする者、本当に大丈夫なのか?
「ら、ラモーンさん、これを皆さんに」
「これは?」
「私の領地に移住していただくための契約書です。内容をよく読んで、問題ないと判断された方に署名をもらってください」
「この内容は……」
「もちろん無理強いするつもりはありません」
無理強い?
一体どのような内容なのだ?
「住む場所を含め様々な設備に関しては、これからになりますので多少の不便もあるかもしれません」
「わかりました、まずは私が」
ファウスティーナ様!?
「ファウスティーナ様!」
「やっとあの窮屈なお城から外に出られたのですよ。私はもうあそこには戻りたくないですから」
ここにいる民達を安心させるため……か。
「ファウスティーナ様」
「グラツィエッラ、そもそも私は王なんて柄ではないのは貴女も知っているでしょ? わざわざ、あんな面倒くさいことをやってくれて、住むところも提供してくれる」
…………。
「ですが」
「それに私の見立てでは英雄殿は困っている人を見捨てるなんて、薄情なことしませんでしょうし。そうですよね、英雄殿?」
「もちろんファウスティーナさんの期待に応えられるよう、努力させていたできます」
「ほら、英雄殿にしっかりとお約束もいただきましたし」
流石は王。いや、元王。しっかりと民達の安全を約束させるか。
「わかりました、では私も」
「はぁ、では私が行かないわけにもいきませんね」
良い連帯だ。これでここに集まった民達もその契約書とやらについて了承しやすくなったはずだ。
そしてこれが契約書か。
ふむ、条件は三つ。二つ目の領地から出られる範囲が指定されているのが
よくわからんが、それ以外は普通の項目のようだが。
『契約書を確認いただき、ありがとうございます』
な!? 契約書から声が……。
契約書自体が魔道具ということか?
このような高度な魔道具がここにいる全員に配られているのだとしたら……。あの男一体どれだけの財力をもっているのだ。
『ただいまから、最終確認をさせていただきます』
む、最終確認だと?
『あなた様は我が主の元で生きていく覚悟がおありでしょうか?』
生きていく覚悟? なんのことだ?
『申し訳ありません、覚悟なき者。どうぞお引き取りくださいませ』
な! どういうことだ?
『申し上げた通り、覚悟なき者は我が主の領地のはふさわしくございませんので、お引き取り願った次第でございます』
覚悟、私に覚悟がないと言うのか?
父上に与えられた使命を全うしようと言うこの私に!
『申し上げた通り、覚悟なき者は我が主の領地のはふさわしくございませんので、お引き取り願った次第でございます』
「おお、この魔道具すごいな。署名用のペンも出してくれるのか」
な、署名用のペンだと?
ということは強引に手持ちの筆記具で署名したところで、意味をもたない可能性が高いな。
これは不味いな。
どうする? 考えろ、こいつはあの男の下につく覚悟を聞いている。
…………。
そうだな、父上からの使命など関係ないな。
私はファウスティーナ様をお守りしたい。たとえそれがどのような者の下につくことになろうとも。これが私の覚悟だ!
『あなた様の覚悟を拝見させていただきました。署名をお願いいたします』
ペンが出てきた。
どうやらあれで問題なかったようだが……本当にあれでいいのか?
『問題ありません。あなたは何かを守る為に、我が主の元に下るという覚悟を示されました』
だがしかし、もしかしたら私が裏切るかもしれないだろう!
『その際には我が主が判断を下しますので、問題ございません』
…………。
『署名をおねがいします』
まあいい。これでファウスティーナ様をお守りできるのであれば。
『署名を確認いたしました、ルチア・ドランドン。新しい生活をお楽しみください』
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