第38話 硬い突起と責任問題

 なにかが体の上に……って、セリスさん?

 さらに両腕に一人ずつ、太ももの辺りにも一人。両腕がソフィアさんに、紅さん。ということは太ももにいるのはロカさんか?


「あら?ご主人さま、今日は早いのね」


「おはようございます、鳳仙さん」


 アプデが楽しみすぎて早起きしたからな。いくつになっても、こういう時に早く目がさめるのは変わらないんだよなぁ。


「いつもご主人さまが起きる時間になれば、何人かは起きると思うから、もう少し我慢してあげてね」


「わかりました」


 まあ、この状況、普通は男として嫌がる理由はないよな。


「避けて、ご主人さま!」


 命がけじゃなければな!


「大丈夫、ご主人さま?」


 危なかった……ただの寝返りが一撃必殺の右フック。流石だなソフィアさん。


「危ない!」


 ぬおっ、今度は紅さんの裏拳か!

 しかし的確に顔面に来るのなら避けられる!


「ご主人さま、無事?」


「ええ、何とか」


「市長。むにゃむにゃ」


 セリスさん?


「市長。それは毒です、こちらの薬を」


 !?


 なんだこの状況!?いきなりキスされたぞおい!

 って口のなかに何か流れこんできた?


「ちょ、セリスさぐほっ」


「大丈夫です、どんな毒にも対応できるように複数の毒を調合してあります」


 いや、意味がわからないよセリスさん。


「毒を以って毒を制すといいますから」


 うん、確かにそう言うよね。ただ制された毒以外の毒のせいかな?目眩がすごいんだけど。


「ごふっ」


 変な咳も出るし、意識が遠退きそうなんだよね。うん、これはダメなやつだな、これは死ぬわ。


「おかえりなさい、ご主人さま」


「ただいま戻りました、鳳仙さん」


「おはようのキスがお休みのキスだなんて、セリスちゃんたら情熱的ね」


 ……情熱的。

 目覚めと同時に大量の毒を流し込まれて永眠させることを、情熱とは言わないと思うんですが。


「んん」


「ご主人さま、急いでさっきの体勢に戻って寝たふりを」


 ?


「セリスちゃんは恥ずかしがり屋さんだから」


 ??


「目覚めたときにご主人さまが起きていたことを知ったら……」


 ???


「恥ずかしさのあまり、何をするかわからないわ」


 !?


 何をするかわからないセリスさん……ソフィアさん達とはまた別方向で嫌な予感しかしない。


「ほら、急いで!」


 いや、急げって言っても。


「みんなはワタシが持ち上げてあげる」


 おお、四人が宙に浮いてる!


「ご主人さま、早く。セリスちゃんが目を覚ましちゃうわ」


「ん」


 まずい!四人の下に滑り込んでっ、急いで寝たふりを。


「あら、セリスちゃんおはよう」


 よし、間に合ったか?


「おはようございます、鳳仙さま。いま、市長の声が聞こえたような気がするのですが」


 !


「夢でご主人さまとお話でもしていたんじゃない?寝言で市長がーって言っていたし」


「今日の目覚めも最高ですし、そうかもしれませんね」


 何とかなった、ありがとう鳳仙さん。しかし、目覚めがよくなる夢が俺の毒殺か。しかも今日もって……。


「そんな事より、そろそろご主人さまが起きる時間じゃない?」


「そうですね、このようなはしたない姿をお見せするわけにはいきませんね」


 確かに。今までがドタバタしすぎてて気がつかなかったが、セリスさん下着一枚だけみたいな服装だ。うん、若干、いやかなり際どい感じだな!


「そうね、その格好は少し刺激が強いかも。ワタシは外に出ているから早く着替えてしまいなさいな」


 は?


「わかりました」


 いや、鳳仙さん?俺、ここにいるんですが。

 衣擦れの音。くそ、無心だ、無心だ、むし……なんか布が床に落ちた気配がああああ!


 開くな俺の目!欲望に打ち勝つんだ!

 開けちゃダメだ、開けちゃダメだ、開けちゃダメだ!


「ふう。鳳仙様、よろしいですよ」


 よし、終わった!

 でも今セリスさんと目をあわせて、ポーカーフェイスを貫く自信が一ミリもない。というか確実に疑われる。


「むにゃ~、おやぶーん」


 大海が押し寄せてきた。だがしかし、ナイスタイミングだロカさん。これなら何とか誤魔化せるはず!って、まずい本当に苦しくなってきた。


「おぶぶぶ、ろ、ロカさん。く、苦しい……」


 くそ、押し退けようにもソフィアさんと紅さんに両手がそれぞれ押さえられてて。


「ろ、ロカさん。もがっ。起きてください、く、くるしおぼぶ」


 だがしかし、そう何度も同じように殺られる俺ではない。唸れここ数日で鍛えられた俺の上半身各所の筋肉達、特に首回りの筋肉達よ!


「もふぉ、もふぉ、もふおおおおおお!」


「ん」


 ロカさんから艶っぽい声が聞こえた気がするが、気にしたら負けだぞ俺!


「むふぉぉおおおおお!」


「あ、ん」


 ってあれ? なんか布の感触がなくなった? 顔にあたる感触がすべすべ感100%だし、口許になんだか硬いものが……。


「くぅーん」


「んん」


 両方の手の指先にもコリコリとした突起物の感触が……。


「市長、それ以上は。いえ、もう既にセクハラではすまない次元かと」


 ……うん。これはあれだね、悪気がとか不可抗力とかそういう言葉はもう通じない次元だよね。


「ご主人さま!」


 な、両サイドからの裏拳! しまっ!?


 ………。

 ……………。

 …………………。



「おかえりなさいませ、市長」


「おはようございます、セリスさん」


 うん、セリスさんの視線が冷たい通り越してる。これはもうあれだ、無だな無。

 まるで俺が空気のようだ。


「あの」


「大丈夫ですよ。英雄色を好むと言いますし、しっかりと責任をられるのであれば問題ありませんよ」


 へ?


「まさか女性の柔肌にあそこまでしておきながら、無罪放免だとでも?」


 なんかセリスさんの纏う空気が黒く……。


「あの」


「なにか?」


 ひいいい。

 黒い空気が槍のように!


「いえ、何でもありません」


「もちろん彼女達の意志が最優先です。ですがもし彼女達が望んだ時は、よろしくお願いいたします、市長」


 ……。


「……はい」

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