episode49:CRSルールと兵卒大会


♯♯♯


 突然だが、五月と言えば何を思い浮かべるだろうか。

 

 母の日に感謝の意味を込めて渡すカーネーションだったり、この時期にしか見られないこいのぼりだったり様々あるだろう。


 僕は、やはりこのゴールデンウイークに合わせたCRSランクアップ大会の春のスタートを飾る兵卒ポーンの大会だ。


 ――――CRS:兵卒ポーン


 CRSピアニストになることで必ず通る道でもあるこの兵卒ポーンでのCRSランクアップ大会は通常とは少し違う点がある。


 それは、現役プロピアニストやストリートで磨いたであろう変わり者のピアニストもどんどん参戦してくるという点だ。


 昔はCRSの知名度を上げるために「誰でも大会に出場できる」とメディアで宣言したせいか、千人を超えたこともあると聞いている。


 長期に渡って審査するだろうし、審査員や観客もさぞ盛り上がったに違いない。

 ……退屈で。


 流石に今では世界的にも有名であるCRS大会でなんちゃってで弾ける程度では余程の恐れ知らずでなければ参加していないだろう。


 それほどに、兵卒ポーンといえど、感動に飢えている観客の数も今では計り知れないのだ。そんな、僕と白雪も会場に到着して、この空気を満喫していた。


「うわぁーっ!!沢山いますねっ!!」


「楽しそうだね、白雪」


「はいっ!だって、またこの会場で演奏ができるんですよ!」


 白雪のワクワクしたような表情を見ると、こちらも口元がつい緩んでしまいそうになる。

 今のこの状況を過去の僕が聞いたらびっくりするだろうな。


 まさかニート候補生の僕が、政府が秘密裏に立ち上げた「Project白雪」の第一被験者になって、契約期間一年という期限を設けて白雪と家族になっているということ。


 一年が過ぎ、契約期間が過ぎた段階で、僕の社会的適正を政府側が分析し、達成と同時に、一億円が報酬として与えられる。


 ついでに言えば、どんな願いでも一つ叶えることができるだなんて「どこのラノベ展開だよっ!」って過去の僕なら鼻で笑うだろうが、現実で起きているのも事実なのだ。


 そして、絶対に戻ることはないだろうと思っていたCRSの世界にまた再び足を踏み入れようとしているんだ。銀色の髪をした小さな女の子、僕の娘である白雪と共に……。


「おい、あれって……」


「ああ……。元騎士Ⅳの音殺しサウンド・キルと、フランスの女帝、クロエ・リシャールが認めたと言われている銀色の白雪姫だ」


音殺しサウンド・キルと一緒にいるってことは、弟子を取った噂は本当だったのか?」


 ちらほらと耳に入ってくる音、弟子を取ったねぇ……。


 あながち間違ってはないけれど、本当のことを馬鹿正直に言うわけにもいかない。

 そもそも信じてもらえないってのがオチだろうけど。


 僕は苦笑いしながら、値踏みするような挑発的な目や不安そうな表情。

 喧騒と自信に満ち溢れた気が混じっているこの景色。

 この空気は、いつ来ても変わらないなと感じる。


 あの頃の僕は、きっとこの空気が嫌いで一人で全ての音を殺してきて、観客を演奏という形で黙らせてきたけれど、人生とは何が起きるかわからないものだ。


 すると、白雪はこの空気を察して何を思ったのか。

 僕の手を繋ぎ、その視線の先に体を向けて大きく息を吸ったかと思えば、大きな声で一言。


「皆さーんっ!!今日は私、早見白雪と早見優人をよろしくお願いしまーすっ!!全力で弾くので、皆さんも頑張りましょうねーっ!!」


 全員が目を見開いて、白雪の方に視線が集まる。

 僕もその一人で、すぐさま白雪の耳元に近づき小さな声で耳打ちをする。


「し、白雪さんっ!?いきなり何を叫んでるんですかねっ!?」


「へ?いや、みんなせっかく楽しい演奏の時間がやってくるのに、暗いことばっかり言っているから明るくしようとヨイショアシストを」


「それ、他人にも適応可能なのかよっ!?」


「はいっ!可能ですっ!でも、そんなことをわざわざしなくても、みんなすっごく頑張ってここにいるんですよね?それなら、きっと人のことを気にせずに全力を出すと思いますよっ!だって名誉あるCRSピアニストなんですからっ!!」


 周りに聞こえるように満面の笑みで僕に顔を向けて言葉を返す白雪。

 改めて思うけど、白雪は本当に凄いな……。


 人の感情に敏感で悲しいくらいに優しすぎるからか、人の感情を音ですぐさま読み取り、自らの言葉の音で誘導して、ここにいる不穏で独特な空気を一瞬にして、明るいものに変えてしまった。



 「全くその通りだ、さっさと最終調整しようっと……」


 「何言ってんだろう、自分のことに集中しなきゃ!」


 「よし、あんな小さな子が楽しもうとしているんだ。俺も楽しむぞっ!」



 おいおい、さっきまでの空気が嘘みたいだな……。

 


「白雪」


「へ?」


 僕は白雪の頭を両手を使って、全力で撫でて褒めることにする。


「ナイスヨイショアシストだっ!!よくやったぞーっ!!」


「きゃーっ、えへへっ!くすぐったいですよーっ、パパっ!」


 僕の肩の力も少しだけ抜けたような気がした……。



♯♯♯



「それじゃあ、おさらいでCRSのルール確認をしておくよ」


「はいっ!よろしくお願いします!」


【~CRSルール~】


 ①「一点~百点」の得点形式で評価が決まり、その得点基準はいかに観客と審査員に「感動」を与えられたかどうかで決まる。


 ②チェスの駒を用いてランキング化されていて、兵卒ポーンルーク僧正ビショップ騎士ナイト女王クイーンキングの六つのランクで構成されている。


 ③ランクアップの条件は、僧正ビショップまでは点数のみの基準、そして僧正ビショップになった暁には騎士ナイトへの一騎打ちの挑戦権を得ることができる。(※原則として、ランクアップに飛び級はなし)


 兵卒ポーン:五十点以上

 

 ルーク:六十点以上

 

 僧正ビショップ:七十点以上


 ④騎士ナイト以降からは人数が決まっており、正式な二つ名が与えられる。


 騎士ナイト:十二席


 女王クイーン:三席(東雲静)他二名


 キング:一席(神楽つづり)


 ④CRSでの演奏曲は個人のテーマによって決まり、曲の選択は本人で考え選び、自由に演奏すること。


 ⑤騎士ナイト以上の推薦があれば、自分のランクよりも上の舞台で演奏することが可能。そのゲスト参加でCRSのランクが上がるということはないが、これにより、次の大会での大きなアピールになる(episode14参照)。


 ⑥キングになれば、叶えられる範囲であればなんでも願いが叶う。


 説明しておいてなんだが、⑥に関しては、謎だ。

 なんでも願いが叶えられる範囲って一体どこまで可能なんだろうか。


 そして、現在のキング、神楽つづりは何を願ったのだろうか。

 そんなことが不意に頭によぎったが、今は頭を横に振って余計な思考を振り払う。


「……とまぁ、大まかに言うとこんな感じだね。何か質問はあるか?なんでもいいぞ?」


「はいはいっ、パパ!質問です!」


「どうぞ、白雪さんっ!」


「おやつの持ち込みは、いくらまでですか?」


「お……おお、意外な質問がきたな。三百三十円までなら許そうっ!」


「やった!ミルクは持ち込みOKですか?」


「口元に零れるとなんだか誤解を招きそうな絵が見えてしまうので、禁止でっ!せめてお茶か水で頼む!」


「パパの好きな食べ物は?」


「カ〇リーメイト」


「好きな飲み物」


「翼の生えるやつか、M〇Xコーヒー」


「誕生日」


「一月二十七日」


「好きな人!」


「音……って、危ねーっ!!はぁ、はぁ……っ、し、白雪さんっ!?」


「音……の続きは?」


「……内緒。白雪のことも好きだよ」


「ふふっ、ありがとうございます!私もパパの事大好きですけど、最初に言いそうだった『音』の続きは本人に直接言ってあげたらきっと喜びますよ、きっと」


「……っ、参ったな。……で?」


「なんでも質問いいって言われたので、前から聞きたかったパパの事を知りたいなって思ったんですっ!」


「そ、そういうこと……っすか」


「えへへっ……。そういうことっす!」


 してやったりとした悪魔的に可愛い白雪の笑顔を見ると、ドキッと胸が高鳴り、頬が赤くなるのを感じる。


 僕は「はぁー」とため息をつきながら、仕方なしに白雪の頭をポンッと軽く叩いてから会場に向かって歩き出す。後を追うように白雪は僕に叩かれた自分の頭を両手で嬉しそうに撫でながらついてくる。



「……白雪、行くぞっ!」


「はいっ!パパ!」



 ――――さぁ、物語を始めようっ!!






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