第二楽章 ー始まりの音ー

episode4:Project白雪


 白雪にもらった白い封筒に入った手紙を、中身が傷つかないように鋏で切る。


 傾いた日差しが窓から差し込み、もうすぐ夜になる様子は僕の未来を予感させるように感じたが、呼吸を整え深呼吸をし、内容が記された手紙の中身を見ることにする。



 「――――早見優人様」


 貴方は、日本政府が管理するニート候補生更生プログラム「Project白雪」の第一被験者に選ばれました。尚、秘密保持の為以下の契約を守ってもらいます。


 一 Project白雪は政府が試験的に実施するものであり、原則決して情報を故意に漏洩してはならない。情報が漏らしてしまった場合、賠償金として一億円を払ってもらいます。但し、担当が良しとすればそれは漏洩と認められない。


 二 契約期間は一年を予定しております。その間の生活費等は自身で賄うこと。これに対し、一切の拒否権は認められません。


 三 契約期間が過ぎた段階で社会的適性をこちらで分析し、一億円が報酬として与えられるとともに、こちらで叶えられる願いであればどんな願いも一つだけ叶えることを約束致します。


 四 「白雪」についての苗字は貴方と同じ「早見」を名乗らせてください。書面上での手続きなどはこちらで全て行います。


 五 仮に思わぬ出来事で今の状況がバレてしまった場合、その方にも協力してもらわなければならないことを肝に銘じておいてください。


 以上、後ほど責任者から説明がありますので、詳しい話やご質問等御座いましたらお気軽にご質問ください。


 補足ですが、白雪は貴方の予想していた通り、捨て子ネグレクトです。近年日本では育児放棄が増えており、どこの施設も現状手に余る状況で、今もなお増え続けています。


 このProject白雪の成功が、今後日本の子供達の未来がかかっているといっても過言ではありません。真剣に向きあって結果を出していただけると幸いです。

 


「……っ、なんだ、これ……っ」



 渦巻く様々な感情。呼吸が荒れ、頭を抱えながら、手紙をクシャッと握り潰す。封筒の中身を見たあとで見なければよかったとさえ感じていた。今後の僕の行動一つで、今後の日本の子供たちの未来が決まるだと?


 書いてある内容が内容だけに言葉にならないほどの重みをこの紙切れに感じてしまう。ドクンッ、ドクンッ、と心臓の音が大きくなって全身を支配する。


 頬に伝って汗が何滴か流れてくるのが自分自身で分かった。すると、心配そうな声で白雪が、僕の片方の手を強く握って引っ張り、声をかけてくれた。


「……パパ、大丈夫ですか?これ、どうぞ」


「えっ?」


「……えっと、パパがくれたミルク飲んでしまいましたので、冷蔵庫からお水を入れてきました。勝手に開けてごめんなさい、顔色が悪そうだったので」


「あ、ああ……っ。ありがとう、少し混乱していただけだ。大丈夫だよ」


 僕は白雪がコップに入れてきてくれた水をすぐさま飲み干し、大きく深呼吸をする。こんな小さい子に気を使わせてどうする。


 目を閉じて、まずは状況の整理からと思いもう一度手紙を広げて、内容を確認しようとする。


 すると、見計らっていたかのように部屋中に「ピンポーン」とチャイムが鳴り響いたと同時に、ドア越しからドンドンッ!!と、ドアを大きく叩きつけながらハスキーな女性の声が聞こえてきた。


「やぁ、早見少年よ!手紙は見てくれたかなーっ?」


「あーっ、この声しーちゃんの声ですーっ!!」


「……ほう。あのが、手紙に書いてあった担当責任者か」


 しかし、この声どっかで聞いたことがあるような気がするな……。

 もう少しで思い出せそうで思い出せない。

 喉に骨が引っ掛かった感情に思わず眉間に皺が寄る。


 「すみません、今空けます」と言って、玄関のドアを開けると、そこにはよくテレビで見るよく知った顔の人物が立っていた。


「しーちゃんっ!」


「よっ、白雪。元気にしてたかな?」


 白雪が勢いよく飛びつくのを知っていたかのように、膝を曲げて受け止め抱き上げる。そして、白雪を抱きかかえながら僕の方に顔を向ける。


「……久しぶり、早見少年。覚えているかな?」


「道理で聞き覚えのある声だと思ったよ」


 いつ見ても変わらない特徴的な赤色の長い髪。

 

 黄色い二本のカラーヘアピン。

 背丈が高く豊満な胸が目立つ、シンプルな真っ白いシャツと黒のロングスカート。


 その恵まれた容姿とスタイルの良さからも知られる今CRSクラスで大注目の人気ピアニスト。


「今は女王クイーンでしたよね。今世界中で注目を浴びているあなたをテレビで見ない日はないですよ」




 ――――狂姫きょうき東雲しののめしずかさん。



 


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