第72話 正式に婚約発表しちゃいました

 俺の気持ちが固まったので、ミーファの父であるゼノ国王にコールし、今日の閉会式での婚約発表を了承する。


 すぐに俺の自室にやってきた。ミーファ以上に嬉しそうに見えるのだが……。


「ありがとうルーク君! よく決心してくれた! いやー、実は大臣たちがうるさくて参っていたんだよね~」


 相変わらずフレンドリーで軽い口調だけど、本当に嬉しそうだ。


『♪ どうやらマスターが自国に連れ戻される前にさっさとミーファ姫と結婚させてしまえと大臣たちに急かされていたようです』


 大臣職は1人じゃない。内務大臣や外務大臣、軍務大臣とか一杯いて、その人たちが入れ替わり立ち替わりやってきて催促していたそうだ。


「お父様、大臣たちがルーク様との結婚に反対しているのですか?」

「逆だよミーファ。ルーク君の父であるユリウス国王が『息子を返せ!』って大臣たちにも連絡していたようで、大臣たちは神獣様と古代竜様を何としてでもこの国に留まらせようとそりゃもう必死なんだ」


 やっぱ俺より、大事なのはそっちだよね~。

 古代竜1体でも国が亡ぶと言われている。そんなヤバいのが居る国に戦争を仕掛けるような馬鹿な国はないからね。自国に留めておきたいのは当然だよね。


「あはは、うちの父が申し訳ありません」

「いやいや、立場が逆なら俺も同じ行動をとると思う。それで、閉会式で国として正式に発表するけど良いんだね?」


「ええ、ミーファ姫を俺に下さい。生涯をかけて大事にいたします」

「ああ、娘をよろしく頼む!」


「素敵なお言葉、嬉しいですわ♡」


 横で聞いてたミーファがめっちゃ嬉しそうだ。『生涯をかけて大事にする』と言ったのが良かったみたいだ。




 婚約発表で気になるのは、やっぱ今後の俺の立場や扱いだ。


「それでですね、俺は今後どういう扱いをされるのでしょう? ミーファとの結婚となると、公爵家への『婿入り』の話は流れるのですよね?」


「そうだね。この国にルーク君の家名を立ち上げ、エミリアがルーク君のところに第二夫人として嫁入りという形になるかな。今夜もその件でこの国の主要な職の者たちで話し合いがされるのだけど、問題は領地持ちにするか、王都に屋敷を与え、爵位だけ与えるかという議論になると思う」


「う~~ん、俺は領地経営とか面倒なので、爵位だけ頂ければ良いかな」


「「「ダメです! 絶対領地持ちが良いです!」」」


「みんな急にどうしたの⁉」 


 俺が領地は要らないと言ったら、ミーファだけではなく、エミリアやイリス、エリカやナタリーまで領地持ちが良いと話に割って入ってきた。


「ルーク様の爵位は従魔たちで保障されますが、それでは生まれてくる子供たちになにも残せないのです」


 子供の将来か……。ミーファはもうそんな先まで考えているんだね。


「そうですルーク様! 従魔たちはルーク様と契約しているのであって、子供たちに継承されません。それだと子供たちは自分の実力だけで家名を守らないといけなくなります。ですが、いくら世襲制度があると言っても、爵位が高ければ高いだけ国への功績が必要になります」


 これはイリスの補足説明だ。


「なるほど。領地があれば開拓などをして農地や領民を増やし、食料や人頭税なんかで国に貢献できるって話になるんだね」


「はい。なにも農地にこだわる必要はありませんが、領地があるのとないのでは、爵位の後継世代回数が随分違ってきます。領地がなければ、子供たちが努力して文官や武官職に就くしかないですからね」


 実はルーク君にこの手の知識が全くなかったので、俺は世襲制度をよく知らない。


「正直に言うと、世襲制度のことはよく知らないんだよね。後継世代回数って何?」


「「「……」」」


「ルーク君、爵位に対して国から給金が出るのは知っているよね?」

「はい、流石にそれは知っています。高位の爵位ほど貰える額も大きいのですよね?」


「基本給に関してはそうだね。高位の爵位持ちが従者1人も雇えないとかの事態が起きないように、爵位に対して相応な家臣を雇えるだけの額が決められている。辺境伯とかは魔獣の多い地域や国境に面していて守護に兵がいるので、脅威度に応じた額が加算される」


「なるほど、家臣もいない貴族とか、民に侮られますからね」

「貴族が平民から敬われなくなったら存在価値もない。税を貰い、魔獣や敵国、盗賊などから武力の乏しい平民を守るために騎士学園に通って戦力を鍛えているんだからね。でも国から給金を出しても、毎年数家は借金で従者を雇えないところもでるんだよね~。そこまで落ちた家は、もう爵位を剥奪するしかない」


「没落貴族というやつですね」


「だね。赤字国家になるわけにはいかないので、国が爵位に対して払える額にも上限がある。つまり、爵位の数にも上限が設定されていて、支給額が多い上位爵位ほど数は少なくなっているんだよ」


「一番多く貰える爵位はなんですか?」


「上からだと大公、公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵、準男爵、勲功爵、騎士爵だね」


「大公と勲功爵ってのは知らないです」


「勲功爵ってのは騎士爵の中で活躍した者に与えられる名誉爵位だね。さらに特別な活躍をした者には準男爵が与えられる。その人個人が得た名誉爵なので世襲はできないけどね。大公も大体同じで、王の兄弟という名誉爵の公爵位の中で、特別活躍した家に与えられる爵位だね」


 ガイル公爵は不正貴族を一掃し、引き継いだ自領を繫栄させた功績は大きく、近いうちに大公になる可能性が高いらしい。


「名誉爵の総称でしたか。それで、俺はどの爵位を頂けるのでしょうか?」


「最初は侯爵の予定だったけど、おそらく公爵になると思う。大臣の中には大公を与えるべきだという者さえいるからね。神獣様や古代竜様、聖獣様の影響はそれほど大きいものなんだ。それに加えて今回の労咳治療の件でしょ。大公の話も現実味を帯びてきたんだよね」


「公爵の数も上限があるのですか?」

「あるね。実はこれが一番悩みどころなんだよね。王家直系の血筋なので、それ相応の生活環境を与えるために支給額が大きいんだ」


「公爵位の数に上限があるなら、国王の世代交代の際に、兄弟が多いと公爵位がもらえない者がでますね。その辺はどうなっているのです?」


「公爵位は最大で20家までだ。実は侯爵位より多いんだよ。そこでさっきの話に出た後継世代回数っていうのが関係してくる。世襲で公爵位を永続的に引き継げる制度だと、どんどん公爵家が増え続けるので、公爵位は叙爵して3世代までとなっている。3世代までは保証されるけど、その間になにも国に貢献していない家は4世代目に降格されることになる。降格度合いはその家の貢献度合いによって決まるので、やはり領地持ちの方が有利だよね」


「国王の即位時に公爵家が何家かできるけど、その間に降格して何枠かの空きができているんですね」


「公爵家の初代となる者たちは王城で高度な帝王学を受けているので殆どの者は優秀だ。だが、甘やかされて育つのか知らないけど、2世や3世が問題を起こして降格や爵位剥奪になることが多いんだ……本当に困ったものだよ」


 現状、この国では公爵家は12家しかないそうだ。


 世襲制だが、公爵位に関しては特に査定は厳しいようだ。

 支払われる額が大きいんだから当然だよね。



 *    *    *



 午後から行った一般の部の『召喚の儀』は3時ごろ終わった。やはり大勢の観衆のいる学園や冒険者ギルドで行う者は少ないようだ。オークとか召喚したらみんなに笑われるからね。一般人は観衆のいない王城や教会に行く人が多いみたいだ。




 現在全校生徒が見守るなか、学園長の挨拶が行われている。


「今年は例年にないほどの豊作な年になった。ワイバーンやドレイクだけでも凄いことなのじゃが、ルーク殿下の召喚した神獣様に古代竜様は世界的にも初めてではないかの。王女殿下の呼び出した聖獣様も儂の知る限りでは過去に3例のみじゃ。では、呼び出されたB級ランク以上の従魔の紹介をして閉会とするかの。まずは儂の呼び出した、ワイバーンのピッピちゃんじゃ!」


 B級以上の魔獣のみ、召喚された順番でお披露目するみたいだ。

 勿論、俺のディアナも竜化して控えている。一際大きくかなり目立っている。


 俺の後ろに誰もいないということは、一般の部ではB級以上の魔獣は召喚されなかったようだ。


『♪ マスター、アラクネーの蜘蛛糸が欲しいです。横にいる召喚者に声を掛けて譲ってもらえないか交渉していただけないでしょうか?』


『蜘蛛の糸なんかどうするの?』

『♪ 使い道は色々あります。糸の太さで洋服や釣り糸などに利用できます』


『釣り糸か、いいね!』


 と言う訳で、アラクネーを召喚した者の方を見る……めっちゃ仲良くなってるし!

 なにが『蜘蛛女とそういう関係は無理です』だよ!

 彼もう既にダメじゃん! 彼女と目が合っただけで頬を赤く染めてデレデレじゃん!


 ミーファの隣にいる彼に声を掛ける。


「君、ちょっといいかい?」

「ル、ルーク殿下、な、なんでしょうか⁉」


 そんなに緊張しなくても……。


「実は君が召喚したアラクネーの蜘蛛糸が欲しいんだよ。相場のお金は払うので、定期的に譲ってくれないかな?」


「申し訳ありません。実は既に何カ所かから声が掛かって、専属で服飾店に売ることが決まってしまっています」


「ご主人、服飾店の話を蹴ってでも、殿下の方に卸すべきだと思うのだけど?」

「だが、もう契約してしまっているからね」


 アラクネーは彼の耳元に顔を寄せヒソヒソ話を始めた。


『♪ あのアラクネー、彼より優秀ですね。彼は子爵家の次男のようで、アラクネーは貴族なら服屋との関係より王族との関係を優先するべきだと説得しています』


 本来下級貴族が上級貴族と縁を持つために、贈り物や貢物を捧げどこも苦労しているのだ。この機会を断るのは貴族なら大馬鹿しかいない。


「ルーク殿下、先ほどのお話、お受けさせていただきます」


 まぁ、当然そうなるわな。王家所縁の者と継続的に関われるのだ、この機会を逃すべきではないだろう。


「それは有難い。よろしく頼む。こっちは有るだけ全部買いたいという話じゃないから、服飾店の方もそのまま受けるとよい」


「お気遣いありがとうございます」


「それで殿下。どんな感じの私の糸が欲しいのかしら?」


 アラクネーと直接話をし、糸の特性や太さを聞き、数種類発注した。

 現在所持していた糸を全部譲ってくれたので、ナビーがめっちゃ喜んだ。


 アラクネーと商談していたら、いつの間にか学園長のピッピちゃんのお披露目は終わっていて、騎士科のドレイクの紹介になっていた。昨日今日の2日の間に色々説明があったのか、『要らない』と騒いでいた平民の彼は誇らしげにドレイクに跨っていた。


 スピネルとハティの紹介の際は、その可愛さのせいか女子たちから黄色い歓声が上がり、ディアナの時は会場全体から大きな声が上がった。やっぱ大きいと盛り上がるよね。


 そして、一部の生徒から『悪戯妖精』だとクスクスと笑われたナビーがまた拗ねて【インベントリ】内の工房に引き篭もってしまった。




 今回閉会の〆の挨拶は、学園長ではなく国王であるゼノさんが行うことになっている。


「皆、三日間お疲れ様。今年は学園以外の召喚の魔法陣からもレアな魔獣が何体か召喚されたと報告がきている」


「「「国王様、どんな魔獣ですか?」」」


 生徒の何人かから質問の声が上がった。


 うちのヴォルグ王国では有り得ないことだ。国王が話している時に割って入り、王に直接質問とかするのは不敬とされている。『何か質問があるか?』と王から声が掛った場合には聞く者もいるけど、それでも躊躇するのが普通だ。


 俺的にはフレンドリーな感じのこの国の方が合っているかもね。


「そうだね、王城ではレッドオーガが、神殿ではちょっと歳がいってる老獣だけど、大きな火竜が来てくれたようだよ」


「「「おお~!」」」


 生徒との会話を楽しげに行った後、いよいよ例の公表のようだ。


「知っている者もすでに大勢いるようだけど、改めて正式に今日ここで公表したいことがある。ルーク君、ミーファ、エミリア、こっちへ」


 呼ばれた俺たち三人は壇上に上がる。


「ヴォルグ王国第三王子のルークは、この度、我が娘の第二王女ミーファおよび、フォレスト公爵家長女エミリアと婚約したことをこの場を借りて発表する!」


 会場からは本日一番の歓声が上がった。一部の男子からは怨嗟の声が上がっているけどね。


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