第59話 イリスのアピール

 イリストレーナーのダイエットメニューがちょっときつい。

 俺の限界ギリギリを攻めてくるのだが、昨日と違いそこにちょっとしたご褒美が加わったことで、俺は音を上げず頑張っている。


 腕立てをして腕がプルプルしているのだが、さらに木剣を振らされている。


「ハイ後30回です! ルーク様頑張って~♪」


 俺の体は悲鳴を上げ、もう終了したいと訴えているのだが、イリスが一緒に俺の正面で剣を振ってくれているのだ……ビキニ姿で―――


 当然イリスが剣を振る度に揺れる! もうめっちゃ揺れる! 体はきついが、頭空っぽにしてその光景だけを眺めて木剣を振る。揺れる光景だけに集中すれば、まだやれる! というか、もっとプルンプルンを見ていたい! 体は悲鳴を上げているのに、本能がもう少しこの光景を見たいと俺を突き動かすのだ。


 あまりのきつさに、『無理な運動は体に良くない』と言おうとして断念した……だってこの世界には回復魔法があるんだもん。多少無理をしても、中級回復魔法一発掛けておけば、酷いことにはならないのだ。


 とはいえ、当然だが邪念だらけなので剣の修行にはなっていない。でも確実に脂肪は燃焼されているだろう。


「はいっ! ルーク様お疲れ様です! 良く頑張りました! 今日はこれで終了しますね。明日も頑張りましょう!」


「はぁ~、はぁ……やっと終わった。一緒に付き合ってくれてありがとうイリス……お疲れ様……ふぅ~、疲れた~」

「汗で失った水分補給です。これを飲んだらお風呂に行きましょう」


 冷えた水を出してくれる。運動後のお水はメッチャ美味しい!

 体には常温の水が良いのだろうが、絶対冷えていた方が美味いに決まっている。


「ぷはぁ~! 生き返る!」


 汗が滴った床に【クリーン】を掛けてからお風呂に向かう。



 *    *    *



「さて、これがさっき作った液体洗剤なのだが、とりあえず掛け湯をして綺麗に汗を流したら一度湯船に浸かると綺麗に汚れが落としやすくなる」


 4人ほどが入れる浴槽に、イリスと並んで湯船に浸かる。

 俺は腰に拭き布を巻いて入っている。日本のバスタオルのような良い物ではないが、それなりに水気を良く吸ってくれる綿の布だ。


 イリスはそのまま青ビキニ姿だ。

 体が温まったところで、シャンプーで髪を洗う。


「今回は使用法を教えるということなので、俺がイリスの髪を洗ってあげよう」

「えっ? そんなのダメです! 王子様に髪を洗わせたとか知れたら、私、怒られちゃいます!」


「だからそういうのではなく、これは指導だよ。実地指導だから、実際にやってあげた方が分かるだろ?」


 指導とか言ってみたが、シャンプーぐらい口頭で説明しながら俺が使って見せれば誰でも分かることだ。単に俺がイリスの綺麗な髪を洗ってみたいのだ。





「う~~ん、やっぱ香油のせいで泡が立たないな。これは2回洗った方が良さそうだ」


 というわけで、今回はツーシャンだ。


「本来は大匙一杯分ぐらいでいい。2回目はこれぐらいで十分かな?」

「うわ~! ルーク様、これ凄く気持ち良いです!」


 人に洗ってもらうのは気持ちいいからね。俺も床屋さんや美容院で洗ってもらった時は凄く気持ちが良い。


「こうやって爪を立てないで、指の腹で優しく地肌をマッサージするように洗うんだ」


 2回目は香油の脂分と皮脂も粗方落ちていたので、泡立ちよく洗えた。


「今度はルーク様を私が洗って差し上げます!」

「う~ん、じゃあ頼もうかな」


 一瞬迷ったのは、ある想像がよぎったからなのだが……やっぱ予想どおりだった。

 イリスが俺の髪をゴシゴシする度に、至近距離のメロンがプルプルするのだ。腹筋の時とは比べ物にならない破壊力だ!


 腹筋の時はきつさもあって、俺になにも変化は起こらなかったが、今回は無理だった。むしろこれで変化しない15歳男子がいるのなら、すぐに病院に行ってED検査をしてもらった方がよいだろう。


 そう、腰に巻いていた布の一部がテントを張っていたのだ―――


「…………あの……ルーク様……これって?」

「何も言うな……。気付かないフリをするのも優しさの1つだと俺は思うぞ?」


「ふふふっ、私は少し安心というか、嬉しいです。トレーニングの時は全く反応がなかったので、私にはあまり興味や魅力がないのかなって、少し不安になっていたところでした」


「魅力はある。凄くある! ただ、ミーファが悲しむようなことは今はしたくない。正直に言うと、俺は好きな娘は1人いればいいと思っている人間だ」


「えっ……それは……」

「多分周りがそれを許さないだろうというのは分かっている。ゼノ国王もガイル公爵も、他の娘とも婚約とか言ってるぐらいだしね」


「ルーク様は側妻や妾はいらないとお考えですか?」

「うん。ゼノ国王夫妻やうちの家も上手くいってるようだけど、後継を巡って夫人同士で争ったり殺し合ったりする貴族も多いと聞いている」


「はい、確かに良く聞きますし、実際に多いです」

「俺はそういうのは見たくないんだ。仮に俺が二人の女性を好きになったとしても、その二人が仲良くなるとは限らない。むしろさっきも言った後継問題や嫉妬とかで不仲になる可能性の方が高いと思うんだ。好きな女性が争うとこなんて、俺は見たくない。それに腹違いの息子たちが後継で殺しあうとかも絶対嫌だしね」


「なら、夫人同士がとても仲が宜しければ問題ないのですね?」

「えっ? あぁ、うん、まぁそうなるね。でもそんなの結婚するまで分かんないでしょ?」


「例えばミーファ様の侍女のエリカ、彼女ならどうです? 凄くお二人は仲が良いので、そういう心配はいりませんよ?」


「確かに……あの二人なら問題ないかも。まぁ、俺とエリカの気持ちがまず一番大事なので、そういうことにはならないだろう」


「ふふふ、どうでしょう。そして、エリカと私は仲良しです! なにせ親縁ですから、子供時分よりお互いに良く知った仲です」


「それって自分をアピールしているの?」

「はい、勿論です」


「イリスは随分積極的だね」

「はい。だってルーク様ほど好条件の殿方は今後いないと思います。このご縁を逃すと、私はお父様に好きでもないどこかのどうでもいい殿方の元に強制的に嫁がされてしまいます。ルーク様にはゆっくり3年掛けて、私のことを好きになっていただきますね」


 イリスは満面の笑みで俺にそう宣誓した―――


 改めてイリスを見る……可愛い。


 料理も美味しい、性格も申し分なし。

 この数日一緒に生活して不快に感じたことは一度もない。

 イリスって超優良物件じゃないか。ちょっと俺との距離が縮んでお姉さんぶる傾向が出てきたが、嫌な感じではない。


「あはは、3年どころか今ので男なら普通落ちるって。分かった、イリスには今後そういう感情もある相手だと思って接するよ。王家も絡んでいるから、今ここで婚約してあげられなくて申し訳ないけど、もし結婚するとなったら妾ではなく第二夫人としてちゃんと迎え入れるからね。ガイル公爵は後継問題で何かあったらと考えて妾って言ったんだろうけど、侯爵家当主に成れるならガイル公爵との後継問題はまた別の話だしね」


「えっ? 本当ですか! それは嬉しいです! でもエミリア様がいるので第三夫人ですね♪ これでますます引けなくなりました! ふふふっ、絶対結婚してもらいますからね~♡」


 日本では側妻と言えばお妾さんの意味があるが、この世界でのお妾さんは側妻より立場はかなり低く、公式の場で妻扱いにしてもらえないのだ。


 普段は妻同様に連れ歩いていたとしても、社交の場での紹介時には正妻と側妻しか妻として紹介されず、子供が産まれても認知はされるが後継関連の継承権は得られないような立場の存在だ。


 イリスからすれば妾ではなく、侯爵夫人としてちゃんと妻に迎え入れてもらえるのならそれは当然嬉しいだろう。


 ゼノ国王が侯爵位をくれると言っているのだ。そうなると俺が当主なので、フォレスト公爵家の後継問題はまた別の話になる。


「さ、体が冷える前に次だ」

「あ、いつの間にか治まってます」


「だから、そこは知らないフリをしろって……」

「わ、分かりました」


「次に俺は洗顔するんだけど、これは最後でも良いかな」

「どっちが良いのですか?」


「先に湯船に入って温まっているので、毛穴が開いて汚れ自体は落ちやすい状態になっている。ただ最後に湯船に浸かった時に脂体質の人は汗を掻いてまた鼻周りとかがベタッとしてしまう人もいるので、個人によって洗う順番が違うんだよね。俺は髪を先に洗ったけど体から洗う人もいるでしょ?」


「そうですね、私は上から順番です。なので私も顔を洗います」


「これは小匙1杯ぐらいかな」


 良く泡立てて綺麗に洗う。


「あれ? 洗顔後に全然顔がつっぱらないです!」


「でしょ? そういう風に調整して作っているからね。そして今回はトリートメントをしておこう。これも以前に作っておいたものだけど、傷んだ髪を修復してくれる効果が強いものだ。これは毎日しなくて良い。そして髪に馴染ませ放置している間に体を洗う」


「うわ~この白いやつ凄く泡立ちますね! あわあわです♪」


 ついイリスが体を洗っている姿を眺めてしまう。アワアワにした綿の布が青ビキニの隙間に差し入れられ、ゴシゴシされている光景は目が離せない!


「ルーク様、そんなにジッと見られたら流石に恥ずかしいです」

「いや、つい目が離せなくてね……実に良い眺めだ」


「これまでにも、私の胸とかをチラ見する男子は一杯いましたが、ルーク様みたいにジーっと遠慮なしに見てくる方は珍しいです。チラ見されるよりかは嫌な感じはしないものですね」


「う~~ん、それは相手にもよるんじゃないかな? 今だからそう思えるのだろうけど、公爵家で初対面だった時、トイレに俺を案内してくれた頃だったら嫌じゃないか?」


「あ~~かも知れないですね。あの頃は『覗き魔のオークプリンス』としか思っていませんでしたから。さ、ルーク様、お背中を洗って差し上げます」


「覗き魔……確かにそうだけど、まあいい」


 俺が覗いたんじゃないやい!


 イリスに背中をゴシゴシ洗ってもらった。やはり人に洗ってもらうのは凄く気持ちが良い。


「トリートメントと体の泡を一緒にお湯で洗い流して、最後にコンディショナーだ。これはさっと髪に馴染ませたら、軽くすすぐ程度でいい。完全に洗い流すと保湿成分まで洗い流してしまい、効果が薄れてしまう」


「うわ~~! 嘘、何これ⁉ 髪の指通りが凄いです!」


 湯船で再度体を温めて終了だ。俺はさっと体を拭いて脱衣所から出てあげる。

 脱衣所を出る際に、髪は乾かさないでそのまま出てくるように伝えておく。




「それでだな、今後は香油は付けなくていい」

「でも、それでは髪がバサバサになって傷んでしまいます」


「いいからここに座ってごらん」


 イリスの髪を風魔法と火魔法の併用で、手の平から温風を出して乾かしていく。 


「凄い。併用魔法ですか? 私は風だけしか出せません」

「それほど難しくはないよ。これも魔法操作の練習になるけど、失敗すると火傷するので、イリスはもう少し熟練度を上げてからだね」


「はい。頑張ります!」


 髪が乾いた後にイリスが壊れた―――


「な、な、何ですこれは⁉ うわっ! サラサラです! 嘘! 髪が指に絡まない! 頭に天使の輪っかができています!」


「落ちつけイリス」

「落ち着いていられるわけないじゃないですか! これは一大事です! ルーク様、私ちょっと出かけてきます!」


「出かけるって、もう8時だよ?」

「すぐに帰ってきます!」


 会話も途中で出て行ってしまった。

 トレーニング頑張り過ぎたからマッサージしてほしかったのに……。


 だが本当に直ぐ帰ってきた……ミーファとエリカを伴って―――

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