第52話「ドニーVS魔王」

「ふむ。余のペットを殺すか。なるほど、現地人ローカルにも面白いモノがいるようだ」


 魔王はそう呟きながら、ゆっくりとドニーの前へと降り立つ。


「だが、その程度では余には勝てんっ!」


 かざした手の平に一瞬だけ金色の魔法陣が現れると、光の帯が伸びる。


「ッ!!」


 それは音もなく、ドニーを突き刺した。

 魔王はそのまま手の平を横に動かすと、光の帯も横に動き、ドニーの体を切断していく。


「ガァァッ!」


 ドニーはそんな攻撃は無視し、魔王へと殴り掛かった。


「なるほど。やはり不死者か」


 魔王はドニーの拳に慌てる様子もなく、空いた手を掲げる。

 すると、そこに透明な壁でも現れたかのようにドニーの拳は見えない何かを叩きつけて止まった。


「不死者となれば、魔法は少し相性が悪いのぉ」


 ローブの中に手を入れると、とてもその中には入りきらないであろうロングソードが姿を現す。


 そして一閃。


 ドニーの腕がボトリと地面へ落ちる。


「腕、なんで? でも」


 残った腕で、ドニーは再び拳を繰り出す。


「愚かなりっ!」


 再び剣閃が走ると、反対の腕も地面へと落ちる。しかし、その程度ではドニーは止まらず、続けざまに頭突きも繰り出していた。


「ぬっ!」


 魔王は不愉快そうな声を漏らすと、老人とは思えぬスピードで後ろへと飛びのいた。


「早い。見た目。違う」


「こんなに早く余の本来の力を見た者はおらぬ。誇ってよいぞ」


 魔王は一瞬でドニーの目の前に現れると、足を切り取る。


「ウッ!」


 両足を失ったドニーは無様にも地面へと転がる。

 勝利を確信した魔王はニタリと口元を歪め、「冥途の土産に教えてやろう」と前置きしてから自身の力について話し始めた。


「余には2つの理外を超えた力。チート能力がある。1つは膨大な魔力と全属性を扱えるチート魔法。そしてもう1つが筋力をもやすやすと超える膂力と様々な武具を使用できる技能を発揮するチート体力よ。最強の体と魔力を持つ余に勝てる存在など、この世、いや、異世界とて存在せぬわ!」


 冥途の土産と言うだけあり、魔王はしゃべり終えると、ドニーの首を切る。

 そして、その首を持ち上げると、ビニール袋を取った。


「ふんっ、なんと醜い不死者よ。貴様は確かに死なぬかもしれぬが、死なないことと戦えることはイコールではない。体を散り散りに飛ばし、頭は常に燃えづづける業火にでもくべてやろう。死ねるのが先か、狂うのが先か試してみるのも一興よ」


 魔王は指先に金色の魔法陣を浮かべると、風が指先に収縮していく。


「まずは、右腕から――」


 ドニーの腕を飛ばそうとした、その時、


 ゴンッ。と鈍い音を立てて、魔王の顔に何かがぶつかった。


「なんだっ!?」


 不機嫌な表情を見せる魔王の視線の先には1台のスマートフォンが転がっていた。


「ドニーにこれ以上酷いことはさせないんだからね!! このアタシが来たからには覚悟しときなさいよ!!」


 スマホからユキエのハイテンションな声が鳴り響いた。

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