第43話「VSオーガ その1」
オーガは森を抜けると、湖畔へと出た。
すでに太陽は完全に沈み、代わりに月のきらめきが湖に反射する。
オーガは木々から距離をとり、続いてくる者を待った。
この季節特有の生暖かい風が、オーガの一分の隙もない筋肉を優しく撫でる。
足音が1つ。それもゆっくりと近づいてくることから、オーガはゴブリン・ロードでないことを悟った。
「全員殺したのか?」
低くドスの聞いた声で、オーガは問う。
「たぶんな。エリザベスから生き残れたなら、あのゴブリンはお前より強いはずだ」
バーサスはゆっくりと森から姿を現す。
月明かりが、山羊骨の面とその異形の肌を照らし出した。
「ずいぶん仲間を信用しているようだな」
「信用? いや、全然していない。いつ寝首をかかれるか分かったものではないしな。ただ、我が認めた者が弱い訳がないだろ」
淡々とバーサスの中ではただの事実のみを語り、近くの岩の上にスマホを置く。
「ユキエはここにいろ。ここからは我とあいつの1対1だ」
「はいは~い。頑張ってね~」
ユキエはひらひらと手を振ってバーサスを送り出した。
「では、戦おうか」
バーサスはライフルを構え、オーガは両腕に力を込めた。
※
オーガは腰蓑一枚、あとはその隆々とした筋肉とそれを支える魔法だけで強者となった。
余分なものは何1つないオーガと武器と仲間で武装したバーサス。
真逆のような2人の戦いはバーサスのライフルから銃声によって幕を開けた。
幾重もの銃弾が発射されると、オーガは左手を突き出し防御の構えを見せる。
とても左腕1本では、ばら撒かれた銃弾を全て止められないと思われたそのとき、オーガの左手の甲に魔法陣が青い光を放ちながら浮かびあがる。
「ふんっ!!」
オーガが左腕に力を込めると、まるで盾のように腕が広がり、硬質化する。
その左腕によって銃弾は容易に弾かれ、オーガの身にキズ1つ付くことはなかった。
これがオーガの魔法。肉体を変化させる、肉弾戦をサポートする魔法であった。
「先ほどは、どこから来るか分からなかったから、防げなかっただけよっ! そしてっ!」
今度は右腕に魔法陣が浮かぶと、バーサスと距離があるにも関わらず、拳を突き出した。
グンッと腕が伸び、さらに拳は2mは越す大きさへと変貌する。
「これは避けられまい! ゴブリンも拠点の広場も、邪魔が何もない場所ゆえの魔法よっ!」
バーサスは、まるで予知していたかのように、腕が到達する前より、全力で横に跳び、ギリギリでかわしていた。
「なっ!?」
「それは一度見た。次またやるようなら、今度は右手をいただくぞ」
スパッ!
いつの間にかバーサスの右腕から剣が出されており、オーガの右手には裂傷が刻まれ血が流れ出ていた。
「くっ! 貴様、このオーガを本気にさせたなっ!!」
オーガの両足にも魔法陣が浮かぶと、バネのように足を折り畳むと、その足で地面を強く蹴った。
空高く跳躍したオーガは、腕を伸ばし、一方的に攻撃するはずだった。
「空でどうやって凌ぐか見せてもらおう」
バーサスはライフルで狙いをつけ弾丸を撃ち込んだ。
「ふんっ! 無駄なことを!」
オーガは左手を盾にしガードしつつ、右手に魔法陣を浮かべる。
そのとき、何かがオーガを包み込んだ。
「な、なんだ? 左腕の盾で前が見えん!」
盾により、死角が多く出来た隙を付き、バーサスは絞め殺し用のネットを投げつけていた。
身動きの取れなくなったオーガはそのまま何も出来ずに、地面へと落ちる。
次第に締まっていくネットにオーガは両手・両足を硬質化させて対抗するが、そこに追い討ちで弾丸が浴びせかけられる。
「うおおおおっおおおっ!!」
なんとか、そのどれもに耐えるオーガだったが、このままではジリ貧だと危惧し、バーサスに1つの提案を持ちかけた。
「お前の強さは良く分かった。だが、所詮武器による強さだ。
その言葉にバーサスは仮面の下で笑みを浮かべる。
「そうだ。どうせ勝つなら、このオーガに刃を突き立てて勝ちたいだろ! 楽しみをふいにしたくないだろ! 1対1の肉弾戦だ!」
その言葉でバーサスはライフルを捨てた。そして、右手の剣でオーガを包むネットも切り裂いた。
「いいだろう。1対1だ!」
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