ドニーVS

第12話「VS植物モンスター その1」

「ああ、探すのが大変かと思ったが、こりゃ、明らかだねぇ」


 湖畔近くに広がる森自体が蠢くという異様な光景を眺めながらエリザベスは呟いた。

 その光景を目にしたとき、すでに日が登り始めており、確認する光源は充分であった。


「ユキエ、中の様子わかるかい?」


 エリザベスは自身のスマホを録画モードで森を映しながら尋ねる。


「何これ、すっごい!! なんでこれこんなズームできるの、画像もめっちゃキレイだし!! やだっ! 毛穴まで見えるんじゃない、これ!」


 ユキエにとって異様な森よりも科学の進歩の方が驚異的だったようで、スマホのカメラ機能に驚きの声を上げる。


「ふふん。4K対応だからね。ユキエもきっと気に入ると思っていたよ」


「ねぇ、エリザベス。この戦いが終ったら、これアタシにくれない?」


 エリザベスは少し悩んでから、


「今のは死亡フラグっぽいが、まぁ元々死んでいるユキエならばいいか。買い直せばいいから、やるよ。ついでに契約もそのままつけておいてあげるから、ネットでもなんでもやるといい」


「よっしゃ! アタシ頑張る!!」


 ユキエはガッツポーズをすると、すぐにスマホの画面内で森の中へ飛び込んでいく。


 数分後。飄々と戻ってくると。


「えっと、口とか歯とかある植物がいたんだけど、あれってなんて言えばいいのかな? ドラクエならローズバトラー、FFならモルボル、マリオならパックンフラワーかしら」


 その説明に、バーサスはさっぱり訳がわからず、首を捻った。

 一方エリザベスは、すぐにスマホを操作し、それらを調べ、画像をバーサスへ見せる。


「確かに、すぐに名前は思いつかないが、だいたい敵は分かった。それと、ユキエがゲーム好きというのもね」


 エリザベスは他には何か無かったかユキエに尋ねると、


「そうね。あとは、全身ツタでグルグル巻きになった人が居たけど、残念だけどあれはもう死んでいるわね。他にも敵がいるかも知れないけど、ここに映っている分だけじゃ分からないわ」


「なるほど。植物系のモンスターなら1体ということはないだろうし。周囲一帯全て焼ければ手っ取り早いのだが、そこまでの火力もない……。良し! ドニーだけ助けて一旦逃げよう!」


 その作戦にバーサスは首を横に振った。


「一度始めた戦いから逃げ出すのは戦士の恥だ。そんなことをするくらいなら死ぬまで戦う!」


 バーサスの言葉に、エリザベスは心底面倒くさそうに眉根を寄せる。


「そうだな。なら、ここにもダークエルフみたいに指揮する奴がいるかもしれない。それを狙うのはどうだ?」


「それならいい」


「それじゃあ、まずは索敵だな。ということで、2人に任せた」


 エリザベスはスマホをバーサスへ向かって投げ渡すと、湖畔の安全そうな場所へ腰を降ろす。

 その様子をバーサスは無言で眺めていると、エリザベスは怪訝そうな顔を見せる。


「どうしたんだ? 早く行って来てくれ。目的は敵の指揮官とドニーの発見だ」


「ドニーとは誰だ? 体格や特徴は?」


 その質問に、エリザベスは失念していたと、肩をすくめ、説明を始めた。


「そうか、2人共知らなかったか。ドニーはこの湖畔周辺を守る殺人鬼だ。動植物が好きな気のいい奴だから、きっとバーサスとも話が合うんじゃないかな。特徴は巨漢で不死身だ。確認するには心臓辺りを刺してみるといいんじゃないか?」


 別人なら確実に死ぬ方法なのだが、こういうときのエリザベスは絶対に他の特徴を隠している。今までの経験から、そう確信しているバーサスは、「他にもあるだろ?」と促した。

 

「他かい? そんな大した特徴はないと思うが、せいぜい、歪んだ顔がコンプレックスで常に何かかぶっているってことかな」


 そんな特徴があるなら心臓を刺さなくても済むだろうにと心の中で思ったが、口にすることはなく。


「わかった。行って来る」


 それだけ告げると、ユキエの入ったスマホと共に森へと侵入していった。

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