第30話ウダルの成長

「やっぱ馬車があると楽でいいな!」


街からそう離れてはいないので道中襲われることなく雑談をしながらアキラたちは目的地であるゴブリンの目撃情報があった場所についた。


「さて、これからゴブリンを探すわけだが、どうする?」

「あ?そんなんアキラが探せばすぐだろ?さっさと終わらせて帰ろうぜ」


出発前にも注意したが相変わらず態度を変えることのないキャリーと申し訳なさそうな顔カーラとクララ。


「ああ、俺はまだ探知を使うつもりないから」

「はあ!?何でだよ!」


アキラの言った言葉に反応し驚愕を露わにしながら振り返るキャリー。


「俺は今回の依頼を今日の朝にウダルから聞いたんだ。俺は商人としても働いてるからな。予定を組み直すのには少し手間がかかる。なのに他にも仕事がある中なんでわざわざ時間を作ってまできたと思う?」


全員が驚きの表情をする。その中にはウダルの姿もあった。


「今日の朝だと?じゃあこの依頼を受けたときは…」

「俺は誘われてなかったね」

「おい、アキラ。迷惑だったのか?言ってくれれば無理に連れてくるつもりはなかったのに…」

「いや、手間ではあったけど大変ってわけじゃなかったし迷惑ではないよ。むしろ誘ってくれてよかった」


アキラがそう言っても表情を曇らせたままのウダル。

そんなウダルの姿を見て、アキラはハァと息を吐き自身がここに来た理由を説明し始めた。


「まあ俺がきた理由を言うとこいつの為だ」


そう言いながらアキラはウダルの事を指差す。

それによってみんなの視線がウダルに集まり一瞬ひるんだウダルだが、それに構わずアキラは話を続ける。


「俺は半年後には旅に出るからな。その時にこいつが俺抜きでも死なないようにする為に今回きたわけだ。今回もこいつの経験になるように監督しに来ただけだ」

「おいアキラ!俺はそんな事してもらわなくてもそう簡単に死んだりしねぇぞ!」

「いやー、どうかな?お前案外抜けてるし、人がいいからちょっとしたことで死にそうなイメージがあるんだよ。…エリナを見てみろよ。頷いてるぞ」

「えっ!?」


アキラに言われた事に驚きながらバッと振り返るウダル。

「どうしたの?」とでもいいそうな顔をしているエリナだが長い付き合いであるウダルには通用しなかったようで少し落ち込んでいる。…落ち込んだウダルの姿が観たいがためにエリナがわざとわかるようにした可能性もあるが。


「……俺そんなに頼りないか?」

「頼りにはしてるさ。でもそれとは違ってなんか気になるって言うか、心配になるんだよ」

「……そうか」


ウダルが落ち込みそれを少し嬉しそうな顔で見ながらアキラのことを睨むと言う器用なことをエリナがやっている。

どうせ後でエリナが慰めるのだろうが、それでも今は依頼で外壁の外に出ているのだからとアキラはウダルを元気付けるために言葉を重ねる。


「まあそれも一種のカリスマだと思うぞ?カリスマってのは要は人を惹きつける事ができるかだからな。自信を持てよリーダー。お前だから俺もエリナも付いてきてるんだ」

「……そうか!」


落ち込みから立ち直り元気になったウダルを見てエリナはアキラに「よくやった!」と言わんばかりに頷くとすぐにウダルに視線を戻した。



「そんなわけでまずは俺の探知抜きでやってもらう」


キャリーたちに振り返る


「ふざけんな!これはお遊びじゃねえんだぞ!もしそれでゴブリンどもを見逃して被害が出たらどうすんだ!」


キャリーの言っていることは正しい。確かに、一匹でもゴブリンを見逃してしまえば被害が出てしまうかもしれない。そうなった場合に責任が取れるのかと言われてしまえばなにも言うことはできない。

ただ今回のキャリーの発言はそれが本心からくるものではなく上っ面だけの綺麗事でしかないのは明らかであり、本人も言っていたようにさっさと終わらせて帰りたいだけである。その為にアキラの『探知』を利用する。それがまごうことなき本心であった。

なので子供っぽいことではあるがアキラは使う気にならなかった。最悪の場合は囚われた人の傷を魔法や薬で治した後に記憶を消してしまえばいいと思っていたのでそれも関係していた。


「その場合は俺が探知を使うさ。何も最後まで使わないとは言ってないだろ。お前はもう少し落ち着いたほうがいいぞ?そのままじゃいつか周りに迷惑がかかるからな」

「うるせぇよ!上から目線でえらそうに忠告なんかしてんじゃねえ!」


アキラに言われても態度を改めるどころか余計に激昂するキャリー。

アキラは肩をすくめてキャリーを無視し、キャリーを止めようとしがみついていたカーナに話しかけた。


「この調子じゃ協力してなんて無理だろうしそれぞれ手分けして捜索。日が真上に来たら一度この場所に集合でいいか?」

「テメぇ!無視してんじゃねえぞ!」

「は、はははいぃ!そ、それでいいです!」

「じゃあ後はその獣の扱いは任せた」


カーナとクララはアキラに殴りかかろうそしているキャリーを必死に押さえつけ、早く行けとアキラに視線を送っている。

アキラがウダルたちの方を振り返ると背後からもはや声になってない叫びが聞こえるが、アキラがそれに構うことはない。


「よし行こうか。ここじゃ落ち着けないし」

「あ、ああ。…あれはちょっとまずいんじゃないか?」

「そう思うか?だとしても今は少し距離を置いたほうがいいだろ」


ウダルは何か言いたそうだったがその場から離れること自体には反論はなかったようで頷き、前を進むアキラの背を追って離れていく


「……なあ、なんであんな事したんだ?」

「ん?なんだ、気づいてたのか?」

「長い付き合いなんだ、当然だろ」

「そうか。……気づいてんなら仕方ないか」


キャリーたちから離れ森の中をしばらく歩いているとウダルから先ほどのキャリーとの事に言及がされた。


「あれは今後、今回みたいに依頼の最中に仲間同士で喧嘩が起こる事もあるだろうからその対処の練習だな」


今後依頼中に喧嘩が起こった場合それが初めてだとうまく対応できずに失敗してしまうかもしれない。失敗だけで済めばいいがそれが命に関わるような追い詰められた時に起こった場合は死んでしまう。

だが依頼中の仲間同士の喧嘩が初めてでなければその場をとりなして危機を脱することができるかもしれなかった。

それで危機を乗り切ることのできる可能性など微々たるものかもせれないが、それでもこの友人が生き残る可能性が上がるのなら、とアキラはあえてキャリーと喧嘩を起こしたのであった。

純粋にキャリーの態度に対する意趣返しの意味もたぶんに入ってはいたが。


「……なあ、アキラ。お前が俺のためにやってるってのはわかってる。でもこのチームのリーダーは俺なんだ!確かに俺はお前より弱いし頼りないかもしれない。だけど!俺はお前とは対等でいたいんだ!こんな教師と生徒みたいな関係じゃなくて。……もっと俺を信頼してくれよ。友達だろ」


「……悪かった。……そうだな。お前だっていつまでも子供じゃないんだよな」


気持ち悪い顔でウダルのことを見ていたエリナが話しかける。


「なにお父さんみたいなこと言ってんのよ。アキラ。私達同い年でしょうが」

呆れたようにエリナ

「ははっ、そうだな。ああその通りだ」


生まれ変わっているため精神の年齢は異なるはずだがそれでもまだまだ自分は子供である事を自身より子供だと思っていたウダルに自覚させられアキラは思わず笑ってしまった。


「さて、今から戻るわけにもいかないし合流時間までちゃんと探すとしよ……。いや、違うな。このチームのこうどうをきめるのは俺じゃなかったな。──どうするリーダー。戻って仲直りをさせるか、仕事をしてゴブリンを探すか」

「……依頼をこなそう。キャリーはもう少し落ち着く時間が必要だろうし、こう言ったらなんだけど依頼の方が大事だから。それとアキラは力は使わなくていい」

「……いいのか?」

「ああ。アキラが俺たちの心配をしてくれてるのはわかってるからな。その心配を消せるようにちゃんできるところを見せてやらないとな」


それはまだ被害が出たという報告がされていなかったから下した判断であった。もし既に被害が出ていたのなら『探知』で探すようにアキラに言っていただろう。

今までとは少し違う顔をするようになったウダルにエリナの顔が緩んでいたが、リーダーから指示があったのでアキラとエリナは頷きゴブリン探しのために歩き出した。



「なんの痕跡もないわね」

「そうだね。ここら辺で見かけたとしたら何かあってもいいと思うんだけど……」

「考えられるのはなんだと思う?」


三人はアキラの探知に頼ることなく暫くの間辺りを調べていたがなんの痕跡も見つけることができなかった。


「うーん、実はこの場所じゃなくてもう少し離れた場所で見かけて勘違いしていたとか、か?」

「あとはそもそもゴブリン自体が見間違いとかかな?」

「まあそんな所だろうな。もしかしたらゴブリンの上位種がいて痕跡を残さないようにしていたとかだな」


魔物はその大部分が解っておらずどのようにして発生しているのかもわかっていない。

獣が魔力を取り込み進化した姿が魔物であると一部の学者の間では言われているがそれは正しくはないだろうと大半の学者たちは否定している。

なぜならどう考えても既存の生物の変化とは考えられない魔物がいるからだ。

スライムという魔物を知っているだろうか。スライムは確たる姿を持たずに生きている液体の塊だ。そんなもの、どんな生物が変化したというのか。

もちろんゴブリンのように生殖行為によって数を増やすものもいるがそうでない種もいる。だが、結局のところほとんど何もわかっていないのだ。

だがわかっていることもある。全ての魔物は稀にその存在の『格』が上がることがある。そういったものを『上位種』と呼んでいるが、上位種はそうそう生まれることはない。この星に流れている魔力の流れが歪んでできた『特異点』や『魔力溜まり』、『ダンジョン』と呼ばれる場所に長くいる事によって進化すると言われているがそう言った場所は近づけば分かるものだがアキラ達のいる近くには存在していない。


「いやこんなところに上位種なんていないだろう」

「そうだよね。もしいるいるのならもう被害が出ててもおかしくないはずだし」


結局、三人は原因について考えてみたが新たらしく考えが浮かぶこともなかった。


「とりあえずもう日も登ってきたし、ひとまずカーナ達と合流するか」


カーナ達との合流。それは必然的に同じチームのメンバーであるキャリーとも会わなくてはいけない。自分でやったことはいえ、いささか憂鬱な気分になり足取りが惜しくなったアキラをウダルとエリナは笑いながら背中を押して急かしていた。



アキラ達はカーナ達と合流すると、気まずそうにするメンバーをよそにキャリーはアキラを睨み、アキラはその視線をどこ吹く風と受け流している。


「…あー、なんだ。こっちはなにも痕跡を見かけることができなかったがそっちは?」

「はっ、はいっ!こっちもなにも見つけられませんでしたっ!」

「はんっ!だからお前がさっさと『探知』を使えばよかったんだよっ!」


ウダルとカーナの二つのチームが何時間も探してその痕跡を見つけることができなかったのならまずこの辺りにはいないと言っていい。だが組合の決まりとして見つからなくとも一定時間は探さなくてはいけない事になっている。

しかし何事にも例外はあるもので『周囲を調べることのできる』魔法を使えると組合に認められたものがいる場合はその限りではない。今回であればアキラが何度か場所を変えて探知を使えばそれで済んでいた。

それなのにアキラは探知を使うことなく時間がかかっており、更に時間がかかってしまうのでキャリーは怒りを募らせていた。


「…ん?なんか言ったか?そんなことよりも今後どうすればいいか話し合わないか?」


しかしそんなことは知ったことかとアキラはキャリーを挑発した上で無視する事にした。


「てめぇっ!」スパンッ!

「そうですね!そうしましょう!」


キャリーが言葉を言っている途中でクララがキャリーの頭を叩き話すのを中断させる。


スパンッ!とアキラの頭からも小気味良い音が鳴った。

何事かとアキラが後ろを振り向くとすぐ後ろにウダルがいた。


「今まで探しても見つけられなかったのは発見者が場所を勘違いしていたか、そもそも発見自体が何かを見間違えたのではないかと俺たちは考えている」


「そうですね私たちもそう思います。──どうしましょうか?」


カーナはチラリとアキラのことを見る。

その様子に気づいたウダルは苦笑いしながら答える。


「悪いけどアキラは探知を使わないよ」

「|今日は(・・・)だけどね」


注釈をつけた


「ん?今日はってことは明日は使うのか?」

「ああ。明日は帰らないとまずいしな」


アキラが今回の依頼に出るのにあたって空き時間を作ったがそれは2日だけであり、それ以上だと少々面倒な事になる。

アキラとしては、本当は真剣味がなくなるから明日まで言うつもりはなかった。しかしアキラの目的であるウダルの探索の練習としては必要ないと思えるくらいしっかりしていたし、ウダルの成長は確認することができたので探知の使用についていう事にした。


「まあそんなわけで今日1日は訓練と思って探索してもらいたいんだけど…。いいか?」

「はい!それはもちろんです!」


たとえ終わるのが明日であったとしてもアキラがいない場合に比べれば遥かに早い。それを考えるとカーナたちに。カーナとクララには文句などなかった。キャリーは未だ何か言いたそうではあったが。


「それじゃあ今日はこのまま日が暮れるまで、もしくは何か見つけるまで探索って事で」

「はい。了解しました」

「よし!じゃあ昼食にしようか」

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