URな巫女さんがいるソーシャルゲーム部はいかがですか?

和希

新入生勧誘ガチャ編

第1話 プロローグ~『期間限定 新入生勧誘ガチャ』

 百連高校のチャイムが一日の終わりを告げる午後。

 ぼく、高杉たかすぎ令斗れいとがスクールバッグに帰りの荷物をつめていると、友達の大沼おおぬまみつぐくんが声をかけてきた。


「令斗。今日も神社に寄ってくだろ?」


「うん。行こう行こう」


 ぼくも貢くんも正式な部活には入っていない。

 その代わり、ぼくたち二人は秘密の部活『ソーシャルゲーム部』を立ち上げた。


 もっとも、学校に提出したって認可が下りるはずはない。

 だから、ぼくたちは主に学校の外で活動している。

 時々は先生の目を盗んで学校で活動することもあるけれども……。

 

 さて、その活動内容はというと。


 まず、学校が終わったとたんにまっすぐ下校し、帰り道の途中にある髪引かみひき神社の境内に立ち寄る。

 そしてベンチに座り、一緒にソーシャルゲームをして遊ぶ。


 それだけだった。

 だけど、ここでの活動こそがぼくの青春のすべてだった。放課後のこの時間のためだけに学校に来ていると言っても過言じゃない。


 ぼくと貢くんは、部活で忙しそうな同級生たちを尻目にそそくさと階段を下り、昇降口へと向かう。

 そして靴を履きかえると、正門を抜け、窮屈な学校の敷地からようやく足を踏み出した。


 貢くんが、すっかり花が散ってしまった桜を眺め、しみじみとつぶやく。


「俺たちももう二年生か。時間が経つのは早いもんだな」


 ぼくもまた青い空を見上げ、あいまいに相づちを打つ。


「そうだねえ」


 心地よい春の陽気と、学校が終わった解放感とで、のどかな気分になってくる。

 けれども、ぼくにはどうしても気になることがあって、一日中ずっと心がそわそわしていた。


「ところで、今日はガチャの更新日じゃなかったか?」


「そうそう。それそれ」


 ぼくは表情を明るくして、大きくうなずく。

 今日更新される新しい期間限定ピックアップガチャのことが、朝からずっと気になっていたのだ。


 今回はどのキャラが登場するのだろう? 推しは来るかな? 可愛い子だったらいいな。

 ……なんて想像するだけでワクワクしてくる。


 ぼくたちは今『戦国アイドル☆オンステージ』(略して『アイステ』)というソーシャルゲームにはまっている。

 戦国武将の血を引く現代のアイドルたちの成長を見守り、絆を結んでいく、いわゆるアイドル育成型のリズムゲームだ。

 プレイヤーはアイドルを育てるプロデューサーとなり、数々のミッションをこなしながら担当アイドルをまぶしいステージへと導き、アイドル界の天下統一を目指していくのだ。


 ぼくたちは神社に到着すると、他に人がいないことを確認する。

 さびれた神社だからか、訪れる人はいつもほとんどいない。

 だから、ぼくたちがベンチに座っていても迷惑になる心配はなさそうだ。


 ぼくたちはスマートフォンを手に持つと、声をそろえた。


「「せーの!」」


 二人して同時に『アイステ』を起動する。

 画面にまずゲームのタイトルがアップに映し出される。

 そして次に、明るくきらびやかな文字が躍り出した。



『期間限定 新入生勧誘ガチャ』



 思わず息をのむ、ぼくと貢くん。

 画面中央にアイドル二人の黒いシルエットが浮かび上がる。

 そして、暗闇におおわれた世界に光が射すように、ゆっくりと色彩を取り戻していく。


 今回新たに登場した二人は――URウルトラレア『武田ツバサ』とSRスーパーレア『北条アイリ』だった。


「キタ――ッ!」


 突然、貢くんが興奮のあまり叫び出した。

 それもそのはず。『武田ツバサ』は貢くんの担当アイドルなのだ。


「よかったねえ、貢くん」


 そう言うぼくの目尻にも小さな涙の粒が。

 なぜなら、『北条アイリ』はぼくの担当アイドルなのだから。


 つまり、今回のピックアップガチャに登場したのは、そろいもそろってぼくたち二人の推しなのである。


「ああ、本当によかったさ」


 人生ここに極まれり、といった調子で貢くんが涙ぐむ。

 つられてぼくもフッとほくそ笑み、指の背で涙の粒をそっとぬぐう。


「令斗……」


「貢くん……」


 感動を共有したぼくと貢くんはぎゅ~っ! と抱き合い、「やったぜ!」と喜びを分かち合った。


 ちょうど掃除にやって来た可愛らしい巫女さんが、


「――ッ!?」


 抱き合うぼくたちに驚いて帰っていく。


 もしかしたら、ぼくたちの関係を誤解されたかな?

 でも、気にしてなんかいられない。


 今日はぼくたち二人だけの『ソーシャルゲーム部』祝祭の日。

 そして、ガチャという過酷な戦いの火ぶたが切って落とされた日でもあるのだ。


 『新入生勧誘ガチャ』の期間は今日から7日間。

 この7日間のうちに新カードを引かなければ、次に復刻される1年後を待たなければならない。

 とてもじゃないけど、そんなに長い時間なんて待っていられない!


「ぼく、ちょうど無償ジュエル3000個持ってるから10連引けるや」


「待て! 早まるな令斗!」


 ぼくが10連ガチャのボタンを押そうとするのを、貢くんが慌てて制す。


「はっ! そうだった!」


 ぼくは冷静さを取り戻すと、立ち上がった。


 ぼくたちは制服のワイシャツの空いた第一ボタンを留め、ネクタイをきちんと締め直し、跳ねた髪をなでつける。

 そうして身なりを整えると、次に神社入り口付近にある手水ちょうず舎へと急いで向かう。

 そこで丁寧に手を洗い、今度はうやうやしく賽銭箱へと歩を進めた。


「ガチャを回す前に、ちゃんと神社に課金して神様にお願いしなきゃね」


「落ち着け令斗。課金じゃなくてお賽銭だ。俺たちはまだ課金すると決まったわけじゃない」


 ぱん、ぱんと手を叩き、深々とお辞儀する。

 手を合わせ、固く目を閉じ、願い事を口にするぼくと貢くん。


「どうか無課金で『北条アイリ』が引けますように」


「たとえ令斗が外れても、俺だけはURが引けますように」


「貢くん、それはひどいんじゃないかな」


 こうしてすべての準備が整うと、ぼくたちはベンチに戻った。

 再びスマートフォンをにぎりしめる。


「では、改めて。お願いします、来てくださいっ!」


 ぼくは震える指で10連ガチャのボタンを押した。

 毎日ログインしてコツコツ集めてきたジュエル3000個が一気に消え去ってしまう。

 代わりに、画面の中央で抽選機がカラカラと回りはじめた。


 抽選機から落ちてくる丸い玉を、息をのみ、じっと見守る。

 白、白、銀、白、銀……CコモンRレアのカードばかりで、虹色のURや金色のSRはまだ出てこない。


 ぼくは半信半疑の神様に、ここぞとばかりに必死にお願いする。


「神様、お願いです。これが最後の10連なんです。アイリを出してください。なんでもしますから」


 すると、最後の10個目でついに金色の玉がこぼれ落ちた。


「わわっ!?」


 興奮が高まり、思わず声がもれてしまう。

 たちまち画面がまぶしく光り出す。

 そして、白い光のなかから美しいアイドルがついに姿を現した。




 ――SR『制服の日の思い出 北条アイリ』



 夕日が差しこむ教室で、19歳のアイリが優しく微笑んでいる。

 赤い光に照らされてまぶしく輝く、亜麻色の長い髪。

 身にまとっているのは、高校時代のセーラー服。

 制服のリボンはほどけ、ブラウスは第二ボタンまでが外れ、豊かな胸の谷間がのぞけている。

 アイリは恥ずかしそうに頬を朱に染め、もじもじと、上目づかいに訴えかける。


『プロデューサーさん、これもアイドルのお仕事なんですか? 私にイケナイこと、教えないでくださいね?』




「ファ―――ッ!」


 今後はぼくが叫び声を上げる番だった。




( 次回:「巫女さんのお願い」 )

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