第10話 夜

「……今日泊まっていきませんか?」


いきなり投げかけられた問に、鼓動が一気に早まる。彼女の顔は、覚悟を決めたような、しかし恥ずかしさで顔を真っ赤にしていて。


もしかしたら彼女は……


「俺もう28だよ?」

「今更ですよ……私は大輔さんがいいんです」

「おっさんだし」

「大輔さんはかっこいいです!優しいし」

「……」


考え込んでしまう。否定を肯定で返されて、5年そこらで仕事によって空いた心の穴が、幸せで胸が満たされていく。


「うん、わかった、じゃあそうするよ」

「……はい」


にっこりと微笑んで、彼女は頷いてくれる。

自分の底に沈んでる汚い欲望が、沸騰するように込み上げてくる。


「じゃあお風呂借りていい?」

「は、はいどうぞ!」


お風呂を借りて、シャワーを浴びる。


シャワーを浴びていると、だんだんと緊張感が俺を襲う。自分の気持ちの歯止めが効かなくなるのを感じる。


彼女はどう思っているのだろうか。

考えてさらに恥ずかしくなって、もどかしくなってしまう。


早くシャワーを浴び終わってしまいたい。


風呂から出て部屋の方を見るとひなたさんが布団を引いていた


「俺今日そっちで寝るから」

「いや、私がこっちで寝ますよ!大輔さんはベッドで」

「そう?じゃあそうしようかな」


布団も引き終わり、2人とも寝る準備が整って、2人で並んで座り、テレビを見ていた。

テレビは見ているものの、緊張のせいで内容が入ってこない。感じるのは隣に座り肩に頭を乗せる彼女の重さと、心臓の鼓動だけ。


しばらく無言でテレビを見ていて、いきなり、彼女は床に置いていた俺の手を弄り始めた。恋人繋ぎのように指を組み合わせたり、手の甲を見たり。


ゆっくりとなぞる彼女の指はくすぐったくて、もどかしさが増していく


「大輔さん」

「なに?」


手を触りながら、彼女は話し出す


「私、大輔さんのこと好きみたいです」

「うん」

「年の差はありますけど、彼女にしてくれませんか?」


そう静かに、呟くように彼女は告白した。

答えはもう決まっていた


「俺も、ひなたさんのこと好きだよ」

「はい」

「だから付き合おうか」

「えへへ、はい」


手を握る力が強くなる。照れるように笑った彼女は俺の前に出て、目をつむる。


「大輔さん……んっ」


次の瞬間、俺は彼女を強く求めるように、唇を奪う。

いままで先延ばしにしてきた気持ちを、ぶちまけるように。

長いキスの後、彼女は甘えるような声で


「大輔さん……電気、消しますね」

「うん」


テレビを消して、電気を消す。


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