第151話「魔王ケイロンの秘策」
タダシは、魔王ケイロンに言う。
「一応聞くが、その滅竜帝ガドーを倒す秘策とは?」
「ん、一応とはなんだ。凄く良い思いつきだぞ、ようはこれを使う」
これまでの発言があれなんで、この反応はしょうがないのではないだろうか。
魔王ケイロンが差し出したのは、自らの持つディオニュソス神に授けられた弓であった。
「
「ああ、この矢を使ってな。一度だけだが、神すら滅ぼすほどの威力を持つ矢が撃てるんだ」
めちゃくちゃ凄い秘密兵器じゃないか。
「だから、そんなのがあるなら早く言ってくれ!」
「ほんとの最終兵器だから使い所が難しかったんだよ」
そう言われると……。
「なるほど、それはそうかもしれない」
タダシでも、一度だけしか使えない攻撃があれば慎重にはなるだろう。
外れたらそれで終わりなわけだから。
「さっきのタダシの世界樹を見て思いついたんだ。あれなら、滅竜帝ガドーの動きを止められるわけだろ?」
「うん、それはできると思う」
世界樹の枝を爪で切ってはいたが、かなり苦労している様子だった。
思いっきり挟んでやれば、身動きを止めるくらいのことはできるはずだ。
「そこで、この神殺しの矢を使うわけだ」
神を越えようと修行してきて、神に準じる力を持つという四竜帝でも神殺しの矢なら倒せるかもしれない。
「なるほど、反対する理由はない。他に作戦もないし、それでいこう!」
「おお、タダシ王。よろしく頼む!」
魔王ケイロンとタダシはガッツリ握手して、二人で滅竜帝ガドー討伐に向かうことにした。
※※※
あとに残された
「行ってしまいましたな。最後は王の戦いで決まるとは、我ら軍人は寂しいものです」
拡散超弩級砲などという超兵器を使ってですら、タダシ達の領域には至れない。
ヤマモト提督は、それが少し寂しかった。
商人賢者シンクーはいたずらっぽく言う。
「逃げなくていいのかニャー」
「ふふ、ご冗談を。シンクー殿も逃げるつもりなどありますまい」
「タダシ陛下は、絶対に勝つからニャー」
ヤマモト提督達を安心させるように、シンクーは言う。
「どちらにしろタダシ陛下が負ければ、この世界は終わりでしょう」
そうであるなら自分は勝利を信じて、今この場でできることをやるだけだ。
ヤマモト提督は油断しないようにとクルーに命令して、砲撃で傷ついた砲身の修理などを急がせるのだった。
※※※
タダシと魔王ケイロンがでてくるのを待ち構えてきたように、ゆっくりと滅竜帝ガドーがやってきた。
その姿は、鋭い爪も角も全てが捻くれている巨大な黒竜だ。
ただ力のみを追い求めて、全てを力のみでねじ伏せてきた呪われし破壊の竜。
竜というよりも、神というよりも、まるでその姿は悪魔のようであった。
「貴様が、タダシか。久々にこんな外界まで来たのだ。まさか、先程の攻撃で終わりというわけではないだろう」
耳をつんざく耳障りな声。
「その割には、お前の部下達は全滅したようだがな」
滅竜帝ガドーも、表面の鱗は焼け焦げており煙が上がっている。
少なからずダメージを受けた様子である。
「部下? ああ、あの古竜どもは部下でもなんでもない。力の強い者にくっついて回る、小うるさいハエよ」
一匹一匹が街を焼き尽くす程の力を持つ古竜をハエと言った。
「お前も古竜なんだろ、仲間ではないのか!」
「ハハハッ、仲間なものか。力なき者に価値はない」
滅竜帝ガドーの考えは、それだけでわかった。
そんな考え方だから、戯れに都市一つを潰したりもできるのだろう。
「滅竜帝ガドー! 俺は、お前を許さない!」
「嬉しいなタダシ。そこまで怒れば、お前も本気で来てくれるだろう。神を殺したというその力、存分に見せるがいい」
滅竜帝ガドーの鱗がバリバリと剥がれて、新しい鱗の生え揃った姿へと変わる。
脱皮か。
どうやら、改良された拡散超弩級砲の熱線ですら、滅竜帝ガドーの皮一枚を剥ぐしかできなかったようだ。
「だったら……」
フェンリルのククルから降りたタダシは、魔王ケイロンに目配せして世界樹の種を撒き散らした。
「タダシ! 今度は、こちらから行くぞ! 滅竜閃剣爪!」
タダシは、滅竜帝ガドーが上空から鋭い攻撃を繰り出してくる瞬間を狙って、魔鋼鉄の鍬を振り下ろして世界樹を生やした。
「出し惜しみはなしだ、全力でいく! 世界樹よ、伸びろ!」
滅竜帝ガドーの巨体に向かって、世界樹の若木が伸びていく。
植物が発芽する際の生命エネルギーは、時として硬い岩盤をも砕く!
「ぬおおおおおおお!」
世界樹の怒涛の成長に巻き込まれて、滅竜帝ガドーの動きが止まる。
「魔王ケイロン、いまだ!」
じっくりと狙いを定めていた魔王ケイロンは、その瞬間、神殺しの矢を放つ。
「これで終わりだ!」
その一筋の閃光は、滅竜帝ガドーの巨体を一直線に貫いた。
「ぐあああああああああああ!」
神殺しの矢によって、一直線に胸を貫かれて、暴れまわっていた滅竜帝ガドーの動きが止まる。
そうして、その身体がごうごうと純白の炎で燃え始める。
「これが、神殺しの矢の威力か」
まるで存在自体をこの世界から塗りつぶすような純白の炎だ。
一回限定とはいえ、こんな攻撃を隠し持っていたとは魔王ケイロンが敵に回らなくてよかったとタダシは思う。
滅竜帝ガドーの巨体がみるみるうちに焼け焦げて、ついにボトリと巨大な首が落ちる。
続いて、ボトリボトリと肉体が朽ちていく。
終わったなと思った、その時だった。
「ぐはっ……」
「ケイロン!」
胸から血を吹き出して、魔王ケイロンがバタリと倒れる。
「タダシ以上の強者がいるのかと思えば、この程度か。虫けらが」
魔王ケイロンを切り伏せたのは、禍々しい大きな爪を持った一人の戦士であった。
身体は大きくない。
むしろ身長は、魔王ケイロンやタダシよりも低いくらいだ。
しかし、その猛々しい姿は、人化した竜族のように見える。
「お、お前は……」
「まあ良い。こいつのおかげで、私はついに神化の領域まで到達することができた。役に立ったと褒めてやるか」
「よくも、ケイロンを!」
タダシの怒りに呼応したかのように、その戦士の身体に世界樹の枝が巻き付いていく。
「クックック、いまの俺様にとっては、世界樹ですらこうだ」
男が腕を一振りしただけで、世界樹の枝がまるで蔦でも引きちぎるかのようにブチブチと引きちぎられていく。
その力の異質さに、タダシは全身が総毛立つのを感じた。
「お前は、滅竜帝ガドーか!」
声も形も変わっているが、タダシにはそれがわかった。
ただ自分が強くなることしか考えず、周りをそのための道具としか考えない禍々しい性根までは変わっていなかったからだ。
「古竜はな、強い相手と戦えば戦うほど強くなるのだ。さて、タダシよ……お前は私を、どこまでの高みにあげてくれるかな!」
強い竜族は人化するのだと。
滅竜帝ガドーが言った神化も、似たような現象なのだろう。
先程、燃え尽きて肉が焼け落ちたと見えたのは一種の脱皮のようなもので、この姿こそが滅竜帝ガドーが神化した姿というわけか。
ギリリリリッ――
火花を散らして、タダシは魔鋼鉄の鍬で滅竜帝ガドーの鋭い爪の攻撃を受け流した。
しかし!
続けて左手の鋭い爪の攻撃!
「クッ!」
「フハハハッ! 弱い! 弱いぞ!」
幾度かの攻撃で、パキンッと軽い音を立てて、魔鋼鉄の鍬が崩れていく。
「鍬が!」
「タダシ! こんなもので、俺様と戦うつもりか!」
鍬がなければ、農家であるタダシは戦えない。
「滅竜帝ガドー!」
タダシは、すでに棒になってしまっている鍬の柄を持って守っていたが、ついにはそれも砕け散って腕で鋭い爪を受けることになった。
滅竜帝ガドーは、勝ち誇りながら禍々しき暗黒の爪を振るう。
「神に勝ったというタダシが、この程度なのか? フフフッ……違うか、俺様が強すぎるぅううう!」
「ググッ……」
「そのまま何もできずに死んでいけタダシ! 神を殺したタダシを倒せば、この俺様こそが最強ぉおおお!」
滅竜帝ガドーは気がついていなかった。
いくらその鋭い爪でタダシを切り裂こうとも、タダシの腕には傷一つ付いていないことを。
そして、タダシの身体が徐々に神聖なる白銀の光に包まれていることを――。
※※※
超弩級戦艦ヤマトの舳先まで言って、双眼鏡を覗いて見ていたヤマモト提督が叫ぶ。
「いけない、あのままでは!」
叶わぬまでも、自分達もタダシを助けにいかねば。
そう思って、双眼鏡を置いて腰の銃を抜こうとするヤマモト提督の肩を、シンクーが引き止める。
「大丈夫ニャ。タダシ陛下の勝ちニャ!」
「あれで勝ちですと?」
すでに、魔王ケイロンは倒れている。
そして、滅竜帝ガドーによって、一方的にタダシが攻撃を受けているように見える。
「滅竜帝ガドーは、愚かだったニャ」
「しかし、シンクー殿! 相手は神を名乗るほどの!」
「タダシ陛下がこの地に降り立った時に、すでにその身は半ば神だったニャ。神を自称するちっぽけな竜が、本物に勝てるわけがないニャ」
正確に言えば、その身体は始まりの女神アリアによって創られており、地上に降りた時には半神の状態であったのだ。
そうして、長い戦いの中で神々に愛されしタダシは更にその力を増していく。
冷静に見れば、滅竜帝ガドーの攻撃は、タダシに何の痛痒も与えてないことがわかる。
「そうか。タダシ陛下の身体から発するあの神聖なる光は、神の御力……」
むしろ、タダシ自身が自分の秘めた力に気がついていなかった。
神化した滅竜帝ガドーによって追い詰められたタダシは、それによって更に力を増していく。
滅竜帝ガドーは言った。
古竜は、強い相手と戦えば戦うほど強くなると。
その強大な力は、いずれ神にも至るのかもしれない。
それはいい。
しかし、なぜそれが古竜だけだと言い切れるのか?
「滅竜帝ガドーは、タダシ陛下を本気にさせてしまった。それが、やつの敗因ニャ」
タダシの前で街を焼き払うという酷い真似をしなければ、魔王ケイロンを目の前で倒さなければ……。
せめて、魔鋼鉄の鍬を壊さなければ、タダシを本気にさせなかったかもしれない。
超弩級戦艦ヤマトのクルーが見守る眼の前で、タダシの身体から白銀の光が地上から天空へと解き放たれた。
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