第127話「大地に根を張る」☆

 神々の戦い、世界の命運を決める世界最終戦争ラグナロクを前にして、タダシ王国では、海岸線の防衛とともに大事な国家事業があった。

 タダシの側に立っている神々の大神殿を建てることだ。


 世界最終戦争ラグナロクが神々の戦争であるため、本拠地に信仰力を集める大神殿を建てるのは大事なことだ。

 すでにタダシ王国の王都の周りには、魔族の神ディアベル様の大神殿と、創造神アリアの大神殿が建っている。


 どうせなら美観も考えて、王都の周りを囲むように残りの農業の神クロノス様、鍛冶の神バルカン様、癒やしの神エリシア様、知恵の女神ミヤ様、英雄の神ヘルケバリツ様、魔物の神オード様の大神殿を建造していった。

 王都から見回すと、その壮麗さは素晴らしい物がある。


 そうして、今回もタダシ王国の民が総出で集まって豪華な料理を捧げた。

 今は厳かな神々への祈りも終わり、大神殿と同じ高さの様々なフルーツで飾り付けた巨大ケーキが運ばれて大きな盛り上がりを見せているところだ。


 戦乱で不安になっている今だからこそ、タダシ王国の民はこの大祭に心を癒やされ、夢中になっている。

 今は神々が降臨し、タダシの妻や子供達に新たな祝福が授けられるところだ。


 タダシも当然、その場でともに祈りを捧げようとおもったのだが、サキュバスシスターバンクシアに話があると呼ばれて王城まで来ている。

 もちろん、この大事業を見事に成し遂げてくれたサキュバスシスターバンクシアを褒めてやらなきゃなと思っている。


 思っているのだが……。


「……タダシ様。何を身構えてらっしゃるんですか?」

「いや、大仕事を終えたご褒美とか言って、シアに精気を吸われる展開かなと思って」


 相手は、欲望底なしのサキュバスだ。

 そんなバンクシアをめとってしまったのだから、タダシもいきなり喰い付かれるくらいはしょうがないかなとも思っている。


 しかし、バンクシアはペロッと赤い唇を舐めると、自らのお腹をゆっくりとさすって妖艶に微笑む。


「うふふっ、そういうのもいいかもしれませんが、今は吸精の必要はありません。だって、私のお腹にはもうタダシ様の御子がいますから」

「そういえばそうだったな」


 ちょっと前に、魔族の神ディアベル様にフジカとバンクシアは、もうタダシの子を身ごもっていると宣託されたのだ。

 今は自分の信者である魔族の民のために敵側に付かざるを得なくなっているディアベル様だが、タダシ達が魔族を救えばきっとまた力を貸してくれるに違いない。


「実は、私のお腹の中の御子に、ディアベル様の強い神力を感じるのです」

「もしかして、生まれる前の子供にも加護って与えられるものなのか?」


 バンクシアは、静かに頭を振る。


「それは、聖職者たる私にもわかりかねます。本来加護というものは、十五歳になって成人してから私達のような地上に置ける神々の代理によって与えられるものなのです」

「うちの子はすぐもらったけどな」


 タダシがそう言うと、バンクシアは呆れたように言う。


「だから、それですよ。その常識を覆せたのは、神々に愛されるタダシ様の御子だからなんです。ディアベル様も、置き土産として私のお腹の子に加護を残していってくれたのかもしれません」

「俺の子供達にも、みんなに星を十個配るって話だしなあ」


 特別な転生者であるタダシの子であれば、赤子であってもそれができると言われたのだ。

 今、タダシの子供達は母親に抱かれて、それぞれの神殿で神々の加護を限界まで受けているところである。


 タダシの妻達もみんな呼ばれているのは加護を追加するためと思ったのだが。

 もしかしたら、母親のお腹の中にいる胎児にすら加護の星を付けることが可能なのかもしれない。


「ところでタダシ様、魔王レナ様に戦争が終わったら結婚しようって言うのは不吉だって言われたそうですね」

「シアは耳ざといな……。冗談だよ、冗談」


 つい先程、魔王国に応援に行った時に魔王であるレナにそう言われて、死亡フラグだからやめなさいとツッコんだのだ。

 まあ、死亡フラグなんておまじないのような物で、ほんとにそんなジンクスがあるわけもないけど。


「いえ、さすがはタダシ様! 大変良いお話だと思います。やはり、戦争前に結婚は済ませておくべきですよね。善は急げとそう申します」

「待て……」


「フフッ、なにか?」

「いや、俺の勘違いであればいいんだけどさ」


 なんだか、胸がざわつく。

 このパターンは、またシスターバンクシアがろくでもないことを企んでるような気がする。


 そんな勢いで、まだこの世界での成年にも満たないレナと結婚させられるのは困ってしまうぞ。

 そう疑うタダシの顔を見て、シスターバンクシアは含みのある笑顔で言う。


「私は、こう見えて聖職者ですから、いまだこの地に暗黒神ヤルダバオトの邪悪な力が強いのを感じます」


 急に真面目な話だ。

 まったくシスターバンクシアのペースにはついていけないなとため息を吐き、タダシは腕組みして答える。


「ふーむ。こうして大神殿を建てて、神々が降臨してもなお封印は完全ではないと言うことか」


 シスターバンクシアはその言葉に答えず、指先で天と地を指して歌うようにつぶやく。


「創造神アリア様を始めとした神々は、天上におわします。しかし、暗黒神ヤルダバオトはこの地中に存在します」

「うーん」


 より近い位置にある方が、神力を発揮できるということかな。


「だからこそ、この地上で神々の化身として力を振るわれるタダシ様が、よりこの世界とのつながりを深める必要があります」


 シスターバンクシアがそう言った瞬間、王城に神々が入ってきた。

 タダシの子を二人抱いて、よしよしとあやしながら農業の神クロノスが言う。


「タダシは何をしておるんじゃ。お前の子に加護を与える儀式だったというのに」


 マールの子ミライと、ベリーの子ミズホが、農業の神クロノス様の担当であった。

 二人の赤子の手には☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆テンスターが輝いている。


 他の神々達も、みんなタダシの子を抱いて全力の祝福を終えたところだ。

 タダシがちょっと話をしていたのだと、そう言う前にシスターバンクシアがすかさず言う。


「タダシ様の新しい結婚の話をしていたのです」

「ほう、それはめでたいの」


 突然の言葉に、タダシは言葉を失う。

 シスターバンクシアは、大きな声で「来なさい!」と叫んだ。


 そこに現れたのは、ノエラ隊長以下島獣人が百人、海エルフが百人。

 タダシがこの間任命した親衛隊だった。


 シスターバンクシアは、今にも吹き出しそうな笑顔で言う。


「タダシ様が、このノエラ達にご褒美を与えると言われたそうではないですか」

「えっ、それはそうだが……」


「タダシ様ができることなら、何でもすると」

「ああー!」


 何でもするなどと、安易に言うものではなかった。

 農業の神クロノス様も言う。


「タダシの嫁が増えるのは良いことじゃ。ワシは、豊穣と繁栄の神でもあるから新たな結婚を寿ことほごう」


 シスターバンクシアも歌うように言う。


「タダシ様と、この地の者と結びつきが強くなれば強くなるほどに、私達はともに身も心も強くなれましょう」


 シスターバンクシアと、農業の神クロノス様がともにゴーサインを出している。

 タダシは、ノエラ隊長に聞く。


「お前達は、本当に俺と結婚したいのか?」

「はい! 生涯お側にはべって良いとタダシ様にお許しいただけましたから」


 そういう意味で言ったのではなかった。

 しかし、そう言うノエラ隊長にしなだりかけられて、これはしてやられたとタダシも笑うしかない。


 前々から、魔族の女官達が百人以上嫁入りしているのだから、カンバル諸島の島獣人や海エルフも公平に機会を与えて結婚すべきだという意見は聞いていたのだ。

 上手くかわしていたつもりだったのだが、神々やシスターバンクシアにまで用意周到に根回しされていてはもうかわしきれない。


「わかった、結婚しよう」

「はい! 私達を一生タダシ様のお側に置いてください!」


 戦争前に結婚は、縁起がいいとタダシ自身がそう言ったのだ。

 ワッと集まってきたノエラ達を、タダシはまるでこの世界全てを抱きしめてるように受け止める。


「まあ、なんとかなるよなあ」


 守るべき者が増えれば増えるほどに、自分は強くなれるとそうタダシは感じていた。

 ともかく、こうしてノエラ達との結婚式がすぐさま執り行われて、この土壇場にタダシの後宮はさらに二百人も加増するのだった。


     ※※※


 巨大なウエディングケーキが飾られた神々の祭りは、そのまま結婚式の会場となった。

 神々の見守る前で、二百人もの妻を新たに迎えたタダシ。


 一人ひとりとカンバル諸島の結婚式である初花はつはなの儀を執り行い、次々と甘い口づけをしていったタダシは少しクラッとしてしまった。


「ふう……」


 神前結婚式の司式司祭を務めたシスターバンクシアは、陶然としているタダシに耳打ちする。


「お疲れですか」

「まあ、こんな経験は始めてだから……」


 一度に二百人の女性とキスをするなど、生まれて初めての経験であり、おそらく今後二度とあることではないだろう。

 頬を赤らめてタダシの名を呼ぶノエラ達を見て、とんでもないことをしてしまったと改めて思う。


 それでも、やってよかったとも思う。

 親衛隊である彼女達は、こうして神の代行者たるタダシと血の交わりを受けたことで神々からそれぞれ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆テンスターの加護を受けられることになった。


 それが、前線で戦う彼女達を守る力になる。


「どうぞお気を確かにお持ちください。まだ、始まったばかりですから」


 シスターバンクシアは、万事準備は整えてありますとタダシを導く。

 付いた先は、王城の誇る大浴場であった。


「風呂に入るのか?」

「はい、これからタダシ様は二百人を一遍にお相手されるわけですから、もう湯浴みも一緒に済ませれば効率的でしょう」


 もちろん、このただならぬ雰囲気はただお風呂に入るだけというわけでもあるまい。


「ちょっと待て!」


 一遍に相手をするに必要などないではないかと、そう慌てるタダシの背中に胸を押し当てて、耳元にささやくシスターバンクシア。


「ふふっ、もう待てません。これも全ては神々のお導きでしょう。大浴場の増設が間に合ってよかったです。ここを、神聖なる『結婚と初夜の部屋』とし聖別致します!」


 シスターバンクシアがそう言って、大浴場を締め切ってしまうと辺りは神聖なる輝きに満ちていく。

 タダシの持つ農業の加護の力により、そこはもう時空を超えた豊穣の空間に変わる。


 喜び勇んだノエラ達が、次々に水着を脱ぎ捨てて大浴場へと飛び込んでいった。

 一体何が始まるというのか、それをタダシはただ見ているしかない。


「ほら、ノエラ達の準備が整ったようです」

「これは、一体……」


 カンバル諸島の美しい花々が飾られた大浴場には、甘い花の香と島の女達の匂いで満ちている。

 なにせ二百人だ。


 犬耳と尻尾を持ち、兵士としてたくましい体つきをした健康美を持つ島獣人の女達。

 海で暮らしながらも、透き通るまるで妖精のような白い肌をした海エルフの女達。


 身も心も洗い清めた彼女達が洗い場や湯船で、今か今かと新郎であるタダシを待ちわびてひしめき合っている。

 タダシは一人、立ち尽くす他はない。


「……これを俺に、どうしろと」


 自らも身にまとっていた黒い修道服を脱ぎ捨てたシスターバンクシアが、戸惑うタダシに言う。


「まずは王様も身体を清めませんと」


 そこには、身体中を泡だらけにしたノエラ達が待っていた。


「まさか……」


 そのまさかであった。

 失礼しますと声をかけて、ノエラ達が自らの身体でタダシの身体を泡だらけにして綺麗に洗い上げてくれる。


「タダシ様、どうか私達に身を委ねてください」


 恥ずかしがって身を固くするタダシにそう言って、ノエラは丁寧にタダシの身体を洗い清める。

 こうしてご奉仕されていると、まるで王にでもなったような気分だなとタダシは思って、ああそうか自分は今や王であったのかと苦笑する。


「タダシ様、何を笑っておいでなのですか」

「いや、なんだか夢のようだなと思って」


 おおよそこの世のものとは思えぬ、天上のような光景だ。


「私達も、夢のように感じてます。この日をずっと待ち望んでいましたから」


 タダシの身体をお湯で流しながら、感極まった声でノエラはそう言う。


「あ、ああ……」


 シスターバンクシアは言った。


「ほら、タダシ様。いくらこの場が聖別された場所とは言え、皆を待たせてはいけませんよ」


 タダシは、ドンと背中をシスターバンクシアの豊かな胸で押し出された。

 タダシの妻にして忠勇なる親衛隊。


 はつらつとした島獣人と、艷やかな海エルフの妻達がひしめき合う湯船へと生産王は足を踏み入れる。

 タダシが二百人もの妻を娶った、伝説の一夜。


 夜の生産王としての力をほしいままにしたタダシは、この地に住まう女達と身も心も深く結びついた。

 その行いは、まさに空前絶後。


 常人の限界を遥かに飛び越え、さらに神の代行者としての限界すらも突破したタダシは、新たなる神力をその身に宿すこととなるのであった。

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