第28話「神々の食卓」

 驚いている民衆に、自分の場合はお供え物をすると神様が直接食べに来るんだという説明にもならない説明をタダシがしているさなか、農業の神クロノスは知恵の神ミヤと英雄の神ヘルケバリツの神像をコンコンと叩く。


「これ、せっかくタダシが料理を振る舞ってくれとんのに失礼じゃろ」


 天から光が降り注ぎ二神が降臨した。


「なんや爺さん、来る来ないは自由やろ。ウチらかて暇やないんやぞ」

「そのとおりだ。そもそも、なんでお前らは勝手に降りてるんだ。特定の転生者に肩入れしてはいけないってルールであろうが!」


「またヘルケバリツはそんな硬いこと言っとるのか。そんな鎧着とるから頭までコチコチになるんじゃ」

「なんだと!」


「だいたい肩入れしてはいかんという取り決めに、農業の加護を受けた農夫は入っとらんわ。ワシを選ぶ転生者がおらんから、その話し合いにも入れてもらえなかったんじゃから当然じゃがな!」

「また爺さんの屁理屈とひがみが始まったぞ!」


 またケンカしてるので、タダシは慌てて料理を持っていく。


「まあまあ、せっかくいらしたんだから食べてくださいよ」


 今にも暴れだしそうな英雄の神ヘルケバリツに、山の幸スープを飲ませるタダシ。


「なんだこれは、美味いな。何が入ってるのかはよくわからんが」

「なんや、天上界一のグルメのウチにも飲ませてみい。タダシにはマジックバッグまで取られたんやから、元を取らんといかんからな!」


 ミヤの方は海の幸スープ飲んで、「これは昆布出汁やな」と言い当てた。


「わかりますか。海の幸スープの方は、ワカメなどの海の具材が入ってますし、出汁に昆布をたっぷり使えますからね」


 タダシにかかれば三日干しておけば昆布も熟成するので、昆布も使い放題なのだ。

 海エルフはやはり海の幸のほうが馴染みが深いようだが、魔牛のテールから取った出汁もなかなかの物だと思う。


「そりゃ。農業神の加護☆☆☆☆☆☆☆セブンスターを持つタダシが作った料理だから当然じゃわい」


 タダシの料理が美味いと、農業の神クロノス様の鼻も高い。


「ほほう、こっちは牛のテールスープやな。いまどきこんな手の込んだお供えをしてくれる信者はおらへんから、感心なこっちゃ」

「ミヤ様、お供え物はみんなしてると思うんですが」


「あーなんかな。近頃はなんでもかんでもお供えすればええと思ってるのかしらんが素材そのまんま奉納したり、果ては腐った料理まで捧げるバカまでいて、ウチらはゴミ箱やないっちゅうねん!」


 なるほど奉納の習慣はあるものの、儀式が形骸化していってしまってるのだろうか。

 また、地上の食糧事情が悪いせいもあるのかもしれない。


「タダシよ。具材のキノコが味わい深くて美味かったぞ。肉料理の方も、なかなか美味しそうではないか」

「このステーキが一番美味そうやな、ウチがもらいっと」


「おいミヤ、お前はタダシに加護を与えてないのに食い過ぎだろう」

「なんやと、ウチはマジックアイテムを取られとるんやぞ。一番上等な肉を食わせてもらって当然やろ!」


 なんだかんだ文句を言いながら、知恵の神ミヤと英雄の神ヘルケバリツも料理を食べている。

 肉料理の方も、醤油はなかったもののウスターソースやトマトソースを作って味付けを工夫してあるので楽しんでもらえるだろう。


「あとは、癒しの神じゃな。せっかくなんじゃから、料理食べていったらどうじゃ」


 クロノスがそう言うと、青い髪をなびかせて癒しの神エリシア様が上品に降臨する。


「あら、わたくしは何もしておりませんけどね」


 タダシが跪いて言う。


「エリシア様には、エリシア草を与えていただいてありがとうございました」

「あれはタダシが自らの運で引き寄せたものなのですが、そうですか。ならば、ご相伴にあずかりましょう」


 用意されたナイフとフォークを使って上品にステーキを食べるエリシア様。

 サラダもあるのにいきなり肉か。


 上品な雰囲気の割に、エリシア様は意外に肉食であるようだ。


「あ、あのエリシア様。いつもお世話になっております」


 この機会を逃すまいと、おそるおそるイセリナが声をかける。


「おや、あなたは……」


 癒しの女神エリシアはイセリナに目を見張り、立ち上がるとイセリナの周りをじっと見る。

 何やら頷いている。


「何かありましたでしょうか」

「……いえ、イセリナは私の信者ですからね。これからも精進なさい」


 エリシアは、ひょいと頭のベールを外すと優しくイセリナの銀の髪をなでてやった。


「も、もったいなきお言葉」


 自らの信仰する神様にお声をかけてもらって、イセリナは硬直している。

 元女王のイセリナがこうなのだ、村の民衆は絶句したまま動かなくなっている。


「タダシ、魔物の神オードは呼んでやらんのか」

「オード様ですか?」


「ほれ、魔獣にも世話になっておるじゃろ」


 クロノス様が指差す先には、フェンリルであるクルルがいる。


「あーそうか。クルルが来たのはオード様のお導きだったのか。失念してました」


 タダシはすぐに木で、ドラゴンの神像を作って祭る。


「グルルルルル……」


 ずるりと魔物の神オードが姿を表した。

 一応場所を考えているらしく、サイズは小さめだ。


 天上界で見たそのままの姿だったら、村なんか踏み潰されてしまう。


「えっと、オード様は何を食べるんでしょう」

「オードは何でも食うぞ」


「グルルルルル……」

「大鍋ごとくれとのことじゃ」


 慌てて持っていくと、頭を突っ込んでガブガブと食べている。


「ゲフッ!」


 凄いもう食べてる。


「計算して多めに作ったつもりだったんだが、これは料理の追加がいるな。頼めるかマール」

「は、はいただいま」


 タダシの指示で料理班が動き出す。


「タダシ、酒が尽きた。このキツイ酒を樽ごと追加じゃ」

「はい、ラム酒ですね。ただいま!」


 酒に料理にと、まず神々を満足させるのに走り回ることとなった。

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