第135話 火水祭・幕

No135

火水祭・幕



 火水祭の目玉である海上演舞を観た後はアンリエッタ邸の裏庭で鉄板焼きの食事会となった。料理をしてくれるのは、アンリエッタ邸の料理長とマレルさんだ。


 食事会には執事のシバスさんとメイドのメイリーンさんが同席してる。見知った仲なので参加は当然の成り行きだ。


 鉄板焼きが設置されてる裏庭は篝火と灯火魔導具が辺りに置かれ、洒落た空間が作られていた。

 

 俺たちは鉄板焼きで作られてる料理を食べながら海上演舞について話をしていた。

「アンリエッタさんは、今日の海上演舞を観てどうでした?」


 俺は料理長が調理してくれた海老の塩焼きをナイフとフォークを上手く使い海老の身を口にいれた。適度な塩味と海老の甘味が口の中にひろがった。その食感と味を楽しみながらアンリエッタさんの話に耳を傾けた。


「とても素晴らしかったですよっ! まずは、魔法師による魔法の演舞です! 真っ赤に燃える火の玉が上空に打ち上がり、赤の曲線を空に描いていく!」


 俺は、海老の塩焼きを食べると一度、ナイフとフォークをテーブルにおいて、エールで口の中を潤した。


「あれは綺麗でしたね。それに、色々な形を象ってました。炎を纏った動物達はとても幻想的で驚きましたよ」


 アンリエッタさんは、野菜の天ぷらを食べながら俺の話を聞いている。天ぷらを食べるアンリエッタさんの顔は幸せそうだ。


「観客のみんなも魔法が放たれる度に驚いた声や歓声があがってましたし、ずいぶんと盛り上がってましたよね?」


 アンリエッタさんは、天ぷらを食べ終わると果実酒で口を潤してから話した。

「確かに盛り上がってました。わたしもついつい驚きの声をあげてしまいました。去年も魔法師による魔法の演舞はありましけど、今年も見応えは十分ありましたね」


 ほぅ、あれだけの演舞が毎年行われるなら、見応えは十分だな。おれは、マレルさんに肉料理を注文しつつアンリエッタさんの話を聞いた。


「あの火魔法の形を象る魔法はかなりの技術ですよね? それなりの有名な魔法師をギルドが用意したんですか?」


 アンリエッタさんは俺の話を聞いてから、料理長に魚介類の注文してから話を始めた。

「あの魔法師達は、ギルドからの依頼で集めてるんですよ。アーガニウム国内だけじゃなく、グルガニウム国からも来てるはずです。毎年、氷雪季前に大きな街に依頼書を張り出して、この日の為に専用の試験を行って選抜された魔法師だけが【火水祭】に参加出来るんですよ」


「へぇ、それはまた大規模な依頼ですね。まぁ、あれだけの舞台なら腕の良い魔法師が必要になるでしょうね」


 マレルさんが焼き上がったステーキ肉を俺に出してくれた。アンリエッタさんの魚介類もちょうど料理長がアンリエッタさんに用意していた。


 互いに料理が出揃ったので、しばし料理の話に花を咲かせた。

 マダラもマレルさんと料理長が作った料理をガツガツと旨そうに食べていた。


 そして、話は戻り始め火水祭の最後の演舞の話になった。


 俺とアンリエッタさんが最後の演舞の話を始めるとマレルさんと料理長がフラームロギヌスの切り身の調理に入った。


「あの最後の水龍と火の竜の演舞は見事でしたね。私は焦ってしまいましたが...」

「あれは仕方ありませんよ。他の観客達も驚いていましたからね」


「アンリエッタさんは驚いていませんでしたね。やはり去年もあの演舞はあったのですか?」

「はい、火水祭の最終演目は決まって水龍と火の竜が戦うんです。初めて見たときはわたしも驚いて悲鳴をあげた事を、今でも覚えてますよ」


 あれは確かに驚きや悲鳴をあげるよな。突然、海面が盛り上がり水龍が姿を現せば誰でも冷静ではいられないだろ。


「あの水龍は確かにマーマン種達が魔法で作ってると言ってましたね?」

「はい、セイジロウさんも知っているスレイブさんと同じマーマン種の方ですね。マーマン種の方は種族的に水魔法が上手いですよ」


「あれは上手いとかのレベルじゃないですよね......芸術的なセンスを感じましたよ。魔法であそこまで出来るんですね」

「そうですね、熟練の魔法師でもあそこまでの水龍を作るのはかなり難しいとわたしは思います。マーマン種の方でもかなりの熟練者の方達でしょうね」


 と、ここでマレルさんか今日のメインディッシュが出来上がったと声がかかった。


「話を中断させてわりぃなっ! アンリエッタ様もすんません! セイジロウが手に入れたフラームロギヌスの切り身が焼き上がったんで!」


 マレルさんはフラームロギヌスを載せた皿を俺とアンリエッタさんの前に用意してくれた。


「フローラロギヌスは焼いても旨いし、鍋に入れて食べても旨いが今回は新しい調理をしてみたんだ。まぁ、食べながら聞いてくれ。冷めると味が落ちるからな!」

 と、俺とアンリエッタさんは指示に従いナイフとフォークを使って食べ始めた。


 フラームロギヌスの切り身は、衣を纏っていた。見た目は切り身のフライにみえる。ナイフを切り身に入れるとザクザクっと音がした。すると、切り裂いたフライから肉汁が溢れさらに、食欲をそそる匂いがした。


 俺は切り裂いたフライを口の中に入れた。


 っ!!ほほぉ、サクサクした食感に柔らかい魚肉。味は少しの酸味と甘味に肉汁が口の中で合わさっていく。魚肉特有の塩味と何かの酸味と甘味が肉汁と合わさり食がすすむ。


 フラームロギヌスのフライを食べつつ、アンリエッタさんの方を見るとアンリエッタさんの顔は笑顔だった。俺とアンリエッタさんの視線が合わさると互いに無言で一緒に頷いた。


 俺とアンリエッタさんが食事を楽しんでるとマレルさんが料理の説明をしてくれた。

「その顔を見ると気に入ってくれたようだなっ! 今回は、焼きと揚げをした料理だ。まずは、フラームロギヌスの切り身を薄く切り下味をつけて焼く。火がそれなりに通ったらスッパの果肉で作ったソースを切り身に塗り焼いた切り身で挟み込んだんだ。そして、衣をつけて油で揚げたんだよ!」


「なるほど、酸味と甘味がしたのはソースの味だったんですね。とても美味しいですよ」

「はい、凄く美味しいですよ! サクサクフワフワして食感も味も楽しめました!」


「気に入ってもらえて良かったぜ! 別にそのまま焼いて食べても旨いんだが、少し貯めさせてもらったんだ! まだ、切り身はあるから食べれるなら普通に焼くがどうする?」


「「いただきます!!」」

と、俺とアンリエッタさんの声が揃った。


 その後は普通に焼いたフラームロギヌスを食べたがこっちも美味しかった。マダラにもフライと焼き料理を出してくれて美味しそうに食べていた。もちろん、マレルさんや料理長にも食べてもらった。執事のシバスさんやメイドのメイリーンさん達用には取り分けてあった。


 こうして、火水祭の最終日は充実した一日で幕を閉じた。

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