第103話 魔導具エールサーバー
No103
魔導具エールサーバー
突然の提案で浜焼きをすることになった。今回は俺の数少ない友人を集めて近くの浜辺へと来ていた。
参加者はアンリエッタさん、執事のシバスさん、メイドのメイリーンさん。冒険者ギルドの受付嬢シンディさん。細工屋のレイラさん。アンリエッタ邸の料理人数名とマレルさん。
他にも誘える人はいたのだが、その人達は仕事の関係上不参加となった。"餌付け亭" の女将に旦那さん、冒険者ギルドマスターのサーシャさん達がそうだ。
知り合いの冒険者達も誘うかと頭をよぎるが今回は見送った。
「では、皆さん。集まっていただきありがとうございます。今回は浜辺で鉄板焼きを行いたいと思います。題して、"浜焼きを楽しもう!" です」
「セイジロウさん、ネーミングセンスないですよ!」
と、細工屋のレイラさんから早速のツッコミをもらいました。
「ハハハ、申し訳ありません。レイラさんは初の鉄板焼き参加者なので、みなさんが教えてあげてくださいね。最初の食材は私から提供しますが、追加の食材は私の従魔のマダラが捕ってきてくれます」
今回の開催に必要な物資は、マダラの影能力を使って用意した。そうすれば、準備に必要な人員も馬車の数も抑えられるからな。
この中で唯一マダラの存在を知らないレイラさんには、出発の時にマダラを見せて説明をした。
マダラを見たレイラさんは少し驚いていたが、どうやらマダラの噂を聞いた事があるらしく理解が早かった。あとは、浜辺までの道程でギルドの受付嬢であるシンディさんに説明を頼んだ。
「先に混乱が起きないように説明して起きます。知ってる方もいますがマダラの能力の一つである思念が使えます。これは、マダラから皆さんに思念で意思を語りかけられます。が、皆さんが思念を使えるわけじゃありません。普通に喋り掛ければ思念で返してくれるだけです」
と、マダラが実演を皆にしてくれた。サービス精神が旺盛な従魔だ。
『こんな風じゃ。ワレと喋りたければ語りかけるがよい。じゃが、あまり鬱陶しいと噛むぞっ、グルルゥ!』
「って、言ってますがもちろん、そんな事は無いですから.....」
若干、数名ビビってるけど....料理人達やマレルさんにレイラさんが....
『マダラ、脅しすぎだから....せっかく楽しくやりたいんだから...』
『最初に上下関係を教えておくのが鉄則なんじゃ』
『それ、今必要ないから....罰としてお前用のカニは一匹減らすからな』
『なっ! なんじゃと! そんな馬鹿な話があるかっ!』
『ありますぅー! マダラの主は俺でーす!決定でーす! これに懲りたら余計な事をしないように』
『横暴じゃぞ! ちょっと脅しただけではないかっ!』
「はい! では皆さん! 浜焼きを楽しみましょー!!」
▽△▽▽▽▽▽▽▽▽△
アンリエッタさんの料理人達とマレルさんが鉄板焼きで魚介類や肉類を焼いていき、野菜は水洗いして食べたり、天ぷらにして揚げてくれたりとしてくれた。
みんながワイワイ騒いぎ始めた時に俺はアンリエッタさんに呼ばれた。
「アンリエッタさん、どうしました? みんな楽しみだしていますよ?」
「セイジロウさん、例の魔導具のお披露目ですよ! さぁ、説明しますからこちらに」
例の....ついに出来ましたかっ! これでやっと冷たいエールが飲めるぞっ!!
アンリエッタさんに連れられて行くと、そこに台座の上に用意された箱形の魔導具が存在を主張していた。
「では、さっそく試して下さい。このジョッキでどうぞ」
アンリエッタさんにジョッキを渡され、指示されたように備え付けられたコックを捻ると、すでにエール樽がセットされていたのかエールがコックから出てきた。
「おおぅっ! エールが出てきましたね!」
「はい、では飲んでみてください」
と、ジョッキに入ったエールを見つめ...俺はジョッキに口をつけエールを飲む。すると、すぐに冷やされたエールが口に入りこみ喉の奥へと流れ込んでいく。
ゴクッゴクッゴクッ.....ブハアァァァァ....ゲッフ。....失礼、ついね.....
「どうですか、セイジロウさん。ご要望通りですか?」
「えぇ、はい! もちろんです。これは飲料会に激震が走りますよ! 素晴らしい魔導具です」
「ふふふ、気に入ってもらえてありがとうございます。では、セイジロウさんからの合格も貰えましたし皆さんにお披露目しましょうか」
と、台座に乗った魔導具をみんながいる場所まで運びお披露目となった。
「みなさんっ! お楽しみのところ失礼します! えー、こちらの魔導具師アンリエッタさんが新しい魔導具を開発してくれました。そのお披露目と使用方法について説明します」
俺はアンリエッタさんの作った魔導具を簡単には説明し、みんなに試してもらう事になった。なお、魔導具の正式名称も決まった。【エールサーバー】です! 普通が一番だな....
冷たいエールをみんなが飲み始めると、歓声が上がり次々におかわりされていく。鉄板焼きで調理をしてる料理人達やマレルさんにも冷たいエールが配られ、大いに喜んでいた。
そんなみんなが見せる笑顔をアンリエッタさんと隣で見てると、アンリエッタさんが話しはじめた。
「初めて作った魔導具は不評でした。お金と時間をかけて一生懸命に作った最初の魔導具はまったく喜ばれませんでした。それから長い時間を魔導具師として過ごして来て、これほど笑顔溢れる魔導具を幾つ作れたのでしょうか? わたしは、みなさんの笑顔が見れただけで満足です。セイジロウさん、本当にありがとう!!」
アンリエッタさんは瞳に涙を浮かべながらも、とても魅力的な笑顔で俺には礼を言ってきた。
「アンリエッタさん、まだまだですよ。まだまだたくさんの魔導具を作ってたくさんの笑顔を見るんです。それこそ国の、世界中の人達の笑顔を見てみませんか? 私はそれが見たいのです。あなたの力を貸してもらえませんか、アンリエッタさん」
俺はもっとたくさんの笑顔が見たい。もっと楽しく毎日が笑顔と笑いに溢れた生活がしたいんだ。それには、まだ足りない。もっと多くの人と技術が必要だ。俺は、自分の手をアンリエッタさんに差し出した。
「.....えぇ、良いでしょう。わたしもたくさんの笑顔は好きですからね。それに、セイジロウさんと居ればまだまだたくさんの魔導具を作れそうですしね」
俺とアンリエッタさんは互いに手を握り握手を交わした。
『セイジロウっ! 帰ったぞ! ちょこまかと泳ぐ魚は面倒だったが狩ってきたぞっ! さぁ、ワレの為に魚を焼くのじゃ!!』
で、せっかく良い雰囲気をぶち壊してくれたマダラに、どう仕返しをしてやろうかと俺は思考を加速させた。
もしかしたらフラグが立ったかも知れないのにぃっ!! この食いしん坊めっ! どうしてくれようかこの気持ち......
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