第102話 いつから潜んでた?

No102

いつから潜んでた?





 フローラさん宛に手紙を出した翌日、"餌付け亭" で朝食を食べたあとアンリエッタ邸に向かい倉庫整理へとやって来た。


 いつものように倉庫の扉をメイドのメイリーンさんに開けてもらい魔力灯を点けて作業に入った。

 俺は、腕捲りをして数多ある木箱の中身を確認していく。確認したらマダラの影に入れてから分類した場所へと出しておいてもらう。


 すでにアンリエッタさんが所有する倉庫整理は三ヵ所目だ。作業は効率化され倉庫整理にかかる時間も短縮されてきてる。


「なぁマダラ、明日は休みにして海にでも行かないか?」

『海に行って何をするんじゃ? 魔物でも狩るのか?』


「えっ? 海にも魔物いるの?」

『そりゃおるじゃろ。前の世界でも海には化物はいたんじゃぞ。知らんのか?』

 マダラが言う化物とは妖の類いだろうと辺りをつけて会話する。


「いや、何となく知ってるけど書物の中だけだと思ってたし、前の世界じゃ架空の存在ばかりだと思ってた」


『まぁ、仕方あるまい。目に見える物ばかりではないと言うことじゃ。して、海で狩りをするのか?』

「いや、ただちょっと...暑くなってきたし海にでも行って海釣りとか、浜焼きとかしようかなって思っただけなんだけど....」


 そろそろ気温も高くなってきたから、海開きもかねて泳ごうと思ったけど....海にも魔物がいるんじゃな....浜辺で浜焼きとかしか出来ないかな....


『まぁ、別に良いじゃろ。川や森ばかりでは飽きるからのぅ。で、その浜焼きとは、浜辺で食をすることなのか?』

「うん、釣った魚や捕った貝やカニとかを鉄板焼きで食べるんだよ。他にも肉とか野菜を焼いて食べても良いし」


『ほぅほぅ、なるほどのぅ。悪くないのぅ、では行くとしようか』

「でも、魔物がいるんだろ? だったら別にいいよ....鉄板焼きならアンリエッタ邸の裏庭で出来るし」


『何をバカな事を言っておるのだ? 場所が違えば食材も変わり、味も変わるではないか。それに、まだこっちの海は行っておらんだろ? 魔物がいればワレが狩ってやる。明日は浜焼きじゃ』


 マジか.....どこでヤル気フラグが立ったんだ? 別に場所と名前が変わるだけで味とかは変わらないんだけど....まぁ、魔物はマダラが狩ってくれるから別にいいか。ついでに、魚も狩ってもらって食材費を浮かすか....


「なら、ついでだし皆も誘う? アンリエッタ邸のみんなに、シンディさんにギルドマスターは...ちょっと無理か? あとは、レイラさんに.....あれ? 俺の知り合いって少なくね?」


『別にたくさん誘えば良いと言うわけではあるまい。身近だけで良いじゃろ』

「いや、そうだけど....」

『それより、手を動かさんか。さっさと片付けて食材を買いに行くぞ』


 俺とマダラは、昼食時に呼びにくるメイドのメイリーンさんが来るまで黙々と倉庫整理を行い、明日みんなで海辺に行き浜焼きをしないかとアンリエッタさんに提案した。


「それならセイジロウさん、その浜焼きは明後日に変更は可能でしょうか? 明後日までに例の液体を冷やす魔導具の試作を完成させますから、浜辺で試してみませんか?」

 おっ! それってビールサーバーの異世界版がついに出来るのかっ!?


「おおっ! そうですか、ならそうしましょうか。なら、明日の昼までは倉庫整理をして、午後に食材を買いに行きますよ。シンディさんと、先日知り合ったレイラさんには私から声をかけますから、アンリエッタさんは屋敷のみんなとマレルさんに声をかけてもらえますか?」


「はい、その様にしておきます。わたしは、新しい魔導具の試作を急ぎますね」


「マダラ、急な変更だけどそれでいいか?」

『ワレは浜焼きが出来れば構わんぞ。魔物が出ればワレが狩るし【犬狼】も仕込んでおいてやるぞ』


「あぁ、頼むよ。万が一が有るかもしれないからな」

「あの...マダラちゃんが言った"ケンロウ" とは何ですか?」

 俺と同様にマダラの思念はアンリエッタさんにも伝わっている。その会話の中で聞きなれない言葉にアンリエッタさんは質問をしてきた。


「あぁ、それはですね。マダラの能力の一部ですよ。マダラ、アンリエッタさんに見せてやれるか?」

『問題ない。それに、前から影に潜ませてあるからの』


 そうマダラが言うと、アンリエッタさんの影から狼の形を象った影がスッと音もなく現れた。


「まっ!....あれ? でも反応が何も無いですしツルツルした肌触りですね....」

 アンリエッタさんは、小さく驚き恐る恐る犬狼に触れて感触を確かめた。


『それはただの影じゃからだ。狼を象った虚像じゃ。感情はおろか生命体ですらないからの』


「そうなのですか...ちょっと残念です。マダラちゃん見たいに可愛いのを想像してました」

 アンリエッタさんは少しショボンっとした。期待とは違った感触だったからだろう。


『一応セイジロウの友人じゃなからの。万が一の為に護衛として潜ませたのじゃ。アンリの側近のシバスとメイリーンにも潜ませてある。あと、マレルにシンディもじゃな』


 それは、さすがに俺は聞いてないぞ? まぁ、友人達を警護してくれるのは嬉しいけどさ。

「お前、いつの間に.....許可とか取ってないだろ?」

『そんなのは必要ないし、気付かん方が悪いじゃろ。それに、ただの護衛じゃ。緊急時以外に表には出てこん』


「いや、逆に出てきたら困るんだけど....まぁ、警護してくれるならありがたいけどさ」

『ふむ、せっかく出来た友人じゃからかな』


「ふふふ、マダラちゃんは優しいですね。では、この影の狼ちゃんにはわたしを守ってもらいましょう」

「ハハハ....なんかすいません」

 と、マダラのいきなりの暴露だったが特に害も無いことなので黙殺された。


 そして、昼食も終わり午後も倉庫整理に汗を流す。しばらく倉庫整理をしてからアンリエッタさんに聞きたい事があったのを思い出した。


「あっ! アンリエッタさんに聞くの忘れた!!」

『なんじゃ急に? 浜焼きの事か?』


「いや、違うから....どんだけ楽しみなんだよ......この倉庫の中が暑くなってきたろ?それで、暑さを和らげる魔導具か冷風を出す魔導具があるか聞こうと思ってたんだよ」


『ワレは別に何も感じないぞ。暑さも寒さも対応は意のままじゃ』

「えー、そうなの? ソレって俺には効果無いの? マダラの特別な力で何とかならないか?」


『そんな都合が良いわけなかろうが。セイジロウなら魔法で何とか出きるじゃろうが....冷風を体に纏えば問題ないじゃろ?』


「そんな事出来るわけ......できるのか?」

『やろうと思えばできるじゃろな。ただ、技術と魔力が必要じゃと思うがな』


「だよな....明日聞いてみよ。火水季が迫ってるから、早めに対応しないと倉庫内で熱中症になっちゃうよ」

 と、熱中症対策を考えつつ魔法でどうにか出来ないかと風魔法を試すと、


 ブハアァァァァっ!


 と、強風が巻き起こりホコリやらゴミが巻き上がってしまい、

『仕事を増やすでないわ、馬鹿者がっ!!』

 と、マダラに怒られ以後、倉庫内での魔法は禁止になった。


 これでは、どちらが主なのか......困ったものである。

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