第81話 返事は保留と討伐依頼

NO81

返事は保留と討伐依頼




 アンリエッタさん達と夕食を食べた後は、メイドのメイリーンさんが用意してくれた紅茶を飲みながら食休み中だ。


 ちなみに、アンリエッタさんはマダラを背にして一緒に寝転がってる。うら若き? 女性がそれでいいのかと疑問に思うが俺より年齢が上なので黙ってる。


 紅茶を飲んでると冒険者ギルドマスター・サーシャさんから話が始まった。


「ではセイジロウ、わたしたちが来た話をしましょう。アンリエッタから話は聞いています。わたしたちは--」


 そこから本格的な話が始まった。話を聞いていくと俺が話した内容よりも、話が大きくなっていた。

 どうやらアンリエッタさんが話に加わった事によって想定以上の話になってしまったそうだ。


 アンリエッタさんは、ルインマスの街で屈指の魔導具師だそうで街のあらゆる場所にアンリエッタさんが開発した魔導具が使われているとサーシャさんは話した。


「えへへっ! マダラちゃんはいい子だねぇ! 毛並みも艶々だよぉ!」

 と、言ってるこの人がねぇ.....人は見かけによらないな。まぁ、これで倉庫にある大量の魔導具や素材の理由がわかったな。


 さらに話は続き、俺が伝えたギルドの食事処の話はもちろん、アンリエッタさん自信も街中に料理店を開きつつ、ガルガニウム国の海上都市内にも店を開きたいそうだ。


 その話に関してはいづれ商業ギルドも加わるらしいが、今は一先ず棚上げにしておくそうだ。


 ギルドの食事処に加えてアンリエッタさんが開く予定のお店の料理メニューに、俺が考えてる料理レシピを加えたいのがこの話の肝になってるとシンディさんとサーシャさんは話す。


 冒険者ギルドでは、俺の持つ料理レシピで収益を各ギルドさらに、ギルド直営の料理店にメニューを載せて独占販売を手に入れるのが目的だと。


 アンリエッタさんは俺が考えた店舗改装案を自身の出すお店に取り込みつつ、料理レシピもいただき独自経営をしたいそうだ。


 正直俺としては料理レシピで小金をチマチマと稼ぎたいが為の話だったのだが....もしかしたら、莫大な商機なのではと欲が鎌首をもたげてるのがわかる。


 手元にある紅茶を一口飲み、

「.....ずいぶんと想像の斜め上に話がいきましたね。正直な事を言うと宿に帰って現実逃避をしたいのですが...」


「そうは行かないわ、セイジロウ。すでに話が知らずに走ってしまっているけで、出来れば冒険者ギルドとしては流れに乗りたいのが本音よ。アンリエッタだって、多分...いえ、すぐに動くわ。そしたら、わたしでは止められないわ」


「それほどですか、アンリエッタさんは?」


「えぇ、すでに数十年も前だけどルインマスを発展させたのはアンリエッタの力があったからこそよ。その時に似てるのよ、今の状況が....もう頭の中は楽しくてしょうがないでしょうね。さらに、マダラという可愛い従魔がいればなおさらね」


「一応、マダラは私の従魔なんですけどね....ハハハ」


「すぐに返事をしてとは言わないけど、返事は前向きに考えるべきだわ」

「そうですね....にしても、どうしてわたしのレシピにそんな興味を持つんですか?」


「あなたがハルジオンの冒険者ギルドで甘味を販売してるのは、業界では有名よ。数ヶ月前には知っていたのだけど、まさかあなただと思い出したのはアンリエッタに聞いてからよ。だから、あなたが考えるレシピには可能性を感じるのよ。どのぐらいの利益かは分からないけど損はしないという自信はあるわ。もちろん、アンリエッタもだけど」


「ハハハ....ずいぶんとまぁ....」

 ちょっと持ち上げ過ぎじゃないか? いったいどんな情報が流れてるんだか.....ちょっとチビりそうだよ....


「とりあえず、そういう話よ。今夜はここで失礼するわ。アンリエッタもあの状態じゃ話も出来ないだろうしね。良い返事を期待してるわよ、セイジロウ」

「では、セイジロウさん。失礼します」


 サーシャさんとシンディさんが挨拶をして退室していった。俺は、マダラにじゃれ付くアンリエッタさんを見ながら頭を悩ませた。


 アンリエッタさん、パンツ見えちゃってるよ?......白っすか.....


△△▽△△△▽△△△


 そして、翌日は"餌付け亭" の旨い朝食を食べてから冒険者ギルドに向かった。


 ちなみに、マダラは影から出している。マダラを出したのは気分もあるが、このままダラダラと影の中にいても何の解決にもならないと判断したのが大きい。


 昨日の話の返事はまだだが、受けたとしたらどうせマダラは表に出すつもりだったのだから、少し早くなったと思えばいい。


「なぁ、マダラ。昨日はやけにアンリエッタさんと仲が良かったな....思念も飛ばしてたんだろ?」

『そうじゃな、少し落ち着きが無いがアンリは気遣いの出来る女なのは分かったからのぅ』


「へぇ、なんでそう思ったんだ?」

『なに、次来た時にはもっとカニと貝類を出してくれると言っておったのでな』

 買収されてるよ.....うちの従魔、大丈夫かな?


「うわぁ....お前が残念な従魔で俺は恥ずかしいよ....」

『なら、セイジロウはいらんのだな。ワレがセイジロウの分まで食してやるからの』


「別に食わないとは言ってないだろっ! カニは旨かったんだから俺にも食わせろよ!」

『ワレはセイジロウが残念な主で恥ずかしいぞ』


「なっ!....ったく...で、今日は討伐依頼と採取依頼でいいな? あと、俺はある程度したら魔法の特訓をするからな」

『それで良いじゃろ。ワレはその間に適当に狩りをしてくる。魔石以外は食して良いのか?』


「それなんだけど、マダラは魔石も糧に出来るんだよな?」

『そうじゃ。肉塊を糧にするより魔物の魔石を糧にした方が、より魔力を増やせるからの』


「ならマダラが狩った魔物に関しては好きにして良いよ。旨そうなヤツなら少しわけてほしいけど...」

『なら、そうしよう』


 と、メイン通りをマダラと話ながら歩けば冒険者ギルドへと着いた。やはりマダラは目立つのか、マダラを見た人達はそれぞれの反応をするが、極端に怖がったり逃げ出す人はいなかった。



 俺はマダラを影の中に入れてから冒険者ギルド内に入った。前回、マダラと一緒に入った時にはギルド内の人達を驚かしてしまっているし、やはり従魔を連れて冒険者ギルド内に入るのはマナー違反な気がしたからだ。


「シンディさん、おはようございます。昨夜振りですね」

「はい、セイジロウさん。おはようございます。昨夜は美味しかったですね! また、食べたいなと思いました」


「あの料理は美味しかったですね。それと、あの話の返事はもう少し待って下さい。私なり考えてる事もありますから」


「はい、わかりました。お待ちしてます。それで、今日は討伐依頼と採取依頼ですか?」

「えぇ、街の近くか半日ほどの距離内で依頼があれば受けたいと思いまして...」


「近くは分かりますが、半日ですか? 外での夜営を?」

「いえ、マダラがいますから距離は離れていても乗ればすぐですから」


「あぁ、なるほど。さすがマダラですね。分かりました、では少々お待ちください」


 受付嬢のシンディさんが座席のうしろの棚から紙束を取り出し見せてくれた。


「お待たせしました。こちらが討伐依頼ですね。街から北に徒歩で4時間ほど歩くと沢があります。その近くでグリムベアの目撃があり、その討伐ですね。あとは、沢の近くで睡眠草の採取依頼があります」


「グリムベア....聞かない名ですね」

「グリムベアは体毛が濃い緑色をした魔物で、体長が3メートル程の熊ですね。森に紛れ込み獣や人を襲います。パーティー推奨ですが、マダラとセイジロウさんなら大丈夫だと判断しました」


「ハハ...過剰な判断で....分かりました、依頼はその2つを受けます。資料室で睡眠草を調べたいので見て良いですか?」

「はい、大丈夫ですよ。わたしも一緒にいきましょう。資料を出しますよ」


「ありがとうございます」

 と、シンディさんと資料室に向かう途中で何人かの冒険者の視線を感じた。


 ありゃ? もしかして、目立ったか....シンディさんはそれなりに美人だからなぁ....妬みを買ったか....


 睡眠草を確認した後はすぐに冒険者ギルドを出て、北門からグリムベアが目撃された森の沢をマダラに乗って目指した。


 十数分で目的の近辺まで辿り着いた。もちろん、最短隠密行動でだ。他の冒険者や街人達に見つかって面倒な事にはなりたくないからな....


「さてと、マダラ。グリムベアってヤツを探してくれるか? ついでに魔物なら狩って良いから。でも、人を傷つけちゃダメだぞ、それとなるべく見つかるのもダメだからな」

『わかっておる。ちと、待っているんじゃ』


 マダラは素早く森の中を移動していった。俺はその間に周囲を警戒しながら森の中を歩き、睡眠草や採取できそうな物を探す。


 しばらく辺りを見ながら採取物を探してるとガサガサと音が聞こえ、警戒態勢を取るも現れたのはマダラだった。

『セイジロウ、見つけたぞ。沢の畔で水を飲んでいた。移動する前に仕留めるんじゃ。乗れ』


「分かった、じゃいくか」

 俺はマダラに跨がると同時に魔力を練り上げる。マダラの速度ならすぐにグリムベアと接敵するはずだ。


 するとすぐに沢に着き、繁みから覗くとグリムベアがまだ沢で水を飲んでいた。

『あれか....すぐに攻撃するから近くに寄ってくれ』

『では、行くぞっ!』


「土檻っ!....さらに!...土針葬舞!」


 マダラが繁みから飛び出しグリムベアに近づくと同時に、マダラに股がったまま土魔法で簡易な檻を作り閉じ込め、壊される前に地面から幾つもの土の針を檻の中にいるグリムベアに向かって刺し込んだ。


 しばらく土針に刺されたグリムベアを見るが反撃の兆しもなく、死亡を確認したら土の檻と土の針を元に戻した。


『なかなか手練れてきたのぅ』

「まぁ、地道に訓練してるからな。それに、要所の砦が良い経験になってるよ。好んで戦い気は無いけど、やるときはやらなきゃだからな.....んじゃ、討伐証明だけを切り取るから後は糧にしていいよ」


『では、そうしよう。見つけて狩った魔物も良いな?』

「あぁ、良いよ...ちなみに、狩りすぎて無いよな?」

『心配せんでも大丈夫じゃ』


「なら、場所も良いしここで今日は訓練するかな.....犬狼を影に入れといてくれたらあとはしばらく自由にしていいよ...あっ! ゴブリンとオークは数関係なく狩って良いから。それ以外は程ほどに」


 マダラに指示を出したのは後は、各魔法の一通り訓練と操作力、想像力も同時に検証及び訓練した。陽が暮れる頃にルインマスの北門近くからマダラと一緒に歩いて街中へと入り、冒険者ギルドで依頼完了を伝え報酬を受け取り宿へと帰った。


 行動としては無難な一日だったが、マダラに向けられる視線は、まだ受け入れられたとは言いづらいものだ。こればかりは時間をかけて行くしかないと思うことにした。

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