第17話 男子中学生の毒牙

なぜ二人がこうして遠くから舞を眺めているかには理由がある。

それは黄木が七姉妹会に属していることを隠すためだった。


「そうだろう可愛いだろう。しかし、彼女にはある危機が訪れようとしているのだ」

「うん。そのためにおれを舞ちゃんに会わせないで、桃と橙も実はグルであの場に残したんだよね」

「そう。今舞は男子中学生の毒牙にかかろうとしているのだ!」


男子中学生の毒牙。違和感のある言葉だが、赤坂も黄木もとくに気にしたりはしない。赤坂達の中では男子中学生は悪だった。


「近々舞はその男子中学生とデートするというけしからん状況だ。我々七姉妹会は兄としてその邪魔をせねばならない」

「なるほど!」

「しかし舞に警戒されては意味がないため、この任務は秘密裏に行う事にする。そのため桃山と橙堂を情報収集としてあの場に残し、俺達はその裏で計画する事にしたのだ」


その桃山と橙堂は向かいの棟で舞とケーキを食べている。そして桃山が棟越しに赤坂と目があえば、彼女はウインクをし視力の良い二人はそれを確認した。任務開始の合図だろう。


「ねぇ、なんで桃と橙だけ舞ちゃんとお茶してんの? ずるくない?」

「それは桃山と橙堂が七姉妹会での演技派だからだ。まずは舞から警戒心なくデートの話を聞き出さねばならない。そのため『妹の恋は応援する派』と嘘をついてもらう」

「妹の彼氏がにくくない兄なんていないのにねぇ」


橙堂は容姿実力を兼ね揃えた若手俳優だ。

そして桃山はその女装姿が周囲を偽っているという事になる。今回舞を乗せて話を聞き出すには最適なメンバーと言える。


「聞き出すだけならば筑紫も有効なのだがな。あいつはすでに舞の前で男子中学生への憎しみを露にしている。故に今回の任務からは外した」

「そうだねぇ。紫もおしばいできるけどね」

「それに毒舌いじめっこキャラの橙堂にお姉さまキャラの桃山ならば『妹の彼氏に嫉妬しない』という嘘も信じやすい」


離れて見る限り、桃山と舞の会話ははずんでいる様だった。兄としては妹の恋愛話など怒りくるい相手の男のダメ出しをしたい所だが、さすが二人の演技が完璧なのかとくに疑惑も持たれていないようだ。


「まず二人は舞から話を聞き出す。その後、桃山があえてダサい服をデートに着るように差し出すのだ」

「あ、そっか。まずはファッションで男子中学生をひかせるんだね」


その舞は美術準備室へと入って行った。これからそのダサい格好に着替えるのだろう


「でもいくらデートを失敗させるためだからって、舞ちゃんにダサいカッコさせるのはひどくない?」

「大丈夫、その点は俺も桃山も配慮しているさ」


やがて着替えた舞が準備室から出て来る。その姿は初心者向けのロリータファッションだった。


「おぉっ、かわいい!ふりふりだー」

「そう、フリフリだ。俺と桃山とでロリータ寄りの店をめぐり、一式揃えたのだ。舞が気にするといけないため、桃山が作った事にしてな」


赤坂は達成感あふれる笑顔を見せた。この服装一式にかかった値段や労力は彼ら的には気にならない。


「でもこんなかわいい舞ちゃんをデートに行かせるわけにはいかないよ。男子中学生がほれ直しちゃう」

「ところが一般人はロリータを嫌うものだ。周囲の目を異常に気にする中学生なら尚更だろう。舞がこの格好で行けば男子中学生はどんびきし、デートは失敗におわるだろう」

「そっか。おれら的にはかわいくていいけど普通の男子中学生はそうじゃないんだね」


一般人男子中学生と妹萌男子高校生は違う。そのため赤坂達は喜び、男子中学生が嫌がる服というものが存在するのだった。


「でもやる事ってそれだけなの? おれ役に立ってないよ」

「黄木と橙堂の出番はデート当日に頼むつもりだ。これから桃山達がデート日時と場所を聞く。そこを尾行し、まずは橙堂を向かわせる」

「橙にジャマさせるの?」

「あぁ、そこからは正々堂々とジャマをする。まず芝居のできる橙堂には『舞に好意のある男性』を演じさせるんだ」

「おお、シュラバだ!」

「そう、男二人に女子一人の修羅場だ。しかも片方は若手人気俳優橙堂ユズル。これに臆さない中学生はいまい!」


単純に男を使って邪魔をするより、男が『負けた』と感じる男を使う所がこの作戦のポイントだ。

現在俳優をしている橙堂ならば、しかも演技をさせたのならば、勝てる男はまずいない。


「橙堂のあまりのイケメンぶりに男子中学生は身をひくだろう。勝てるわけのない勝負を挑むはずがないからな」

「そもそも舞ちゃんはなんでおれらがいるのに他の男とデートするんだろうねぇ。おれとデートすればいいのに」

「あぁまったくだ。まずは兄とのデートだろう。各種いい兄揃えているのに何が不満なのか」


解せぬとでも言いたげな赤坂。もし舞がここに居ればきっと的確に突っ込んだはずだ。『そういう所が不満だ』と。


「あれ、作戦はそれでおわり? おれはなにもしないよ」

「あぁ、黄木はいわば保険だ。万が一後輩が橙堂に臆さなかった場合に登場してもらう」


赤坂は綿密に作戦を考えるタイプだ。例え万が一の失敗であったとしても、それをフォローする策を考えているのだった。

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