「さあ、なんだったかな。こんな素敵なプレゼントじゃないことは確かよ。それ一本もらってくれる？」

「は、はい。良いんですか、私なんかが頂いちゃって」

「良いのよ。薔薇はね、あげる本数で意味が変わるのよ」

「それで本数を聞いていたんですね！」

「ええ、そうよ。この仕事をしていると色んな人の話を聞けるから、お喋り好きな人には良いかもね。あなたに務まるかしらね？」

「が、頑張ります！」

「ふふ、きっと大丈夫よ。色んなことがあって、疲れちゃったわよね。少し私の家で休んでいかない？」

「い、行きます！」

「ふふ、お酒でも買って帰ろうかしら。狭いアパートだけど、二人で飲むには十分だったからね」

　どことなく寂しげだけど、本当に嬉しそうに笑いながら、私の背中を押して裏口を案内してくれた。

　夕日が暖めるように、室外機や電柱を照らしていた。表の賑やかな商店街とは違う世界のように、静かなセピア色した風景の中で、黒と赤のコントラストを放つ先生が、一人だけ色彩を持っているような、不思議な光景を私はずっと覚えている。

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