第212話 瑠衣の過去

 ありのままの自分を受け入れてくれる人なんていない。

 と、なにかで聞いたことがあった。

 昔はよくわかっていなかったけど、今ならわかる。

 その言葉が、人間関係の全てを語っているということを。


「瑠衣ちゃんってそういう子だったんだ……」

「え、女の子が好き? どういうこと?」


 困惑されたり、好奇な目で見られるのはまだ耐えられる。

 だけど、拒絶されるとどうにもならない。

 自分は人とは違うのだと、改めて認識させられるから。


 多様性の時代とはよく言うけれど、心の底から理解してくれるのは同じ仲間しかいないのではないだろうか。

 自分と違うものを完全に理解するのは不可能に近い。

 ならば、せめて見守ってくれるくらいは……してくれてもいいのに。


「瑠衣……やっぱおかしいのかにゃ……」


 こうして、自分を責めるのは日常茶飯事。

 そんな時、ふとテレビを見てみると、演劇をやっていた。

 煌びやかでまぶしくて……とても綺麗だった。


 そうだ。なにも、自分をさらけ出さなくていい。

 自分を隠せば、傷つくことはないはずだ。

 みんなに好かれる自分でいよう。


 そのあとは、ひたすら明るく振る舞い、気に入った子にベタベタする瑠衣が完成した。

 これなら女の子とイチャつけるし、一石二鳥だ。

 とまあ、下心満載な表の瑠衣ができあがっていった。


「にゅふふー。次はどの子をターゲットにしようかにゃぁ」


 順調にできあがっていった頃、瑠衣に告白してくれる子が増えていた。

 気持ちは嬉しかったが、どの子もタイプではない。

 にもかかわらず、瑠衣はその子たちをまとめて恋人にし、百合ハーレム生活を送っていた。


「にゃっ!? いい子はっけーん!」

「うわぁ!?」


 瑠衣が勢いよく飛びついたせいで、その子はバランスを崩してつまずく。

 茶色の長い髪、平均的な胸、少しつり目なところ。

 その全てが瑠衣の理想そのもので、言葉を失った。


「いきなりなにすんだよ」


 しかも、少しボーイッシュな口調と仕草。

 全てが完璧で、瑠衣はこの子を落とそうと決意した。

 それが長い戦いになるとは、思ってもみなかったが……

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