第195話 すくい(瑠衣)

「――お疲れ様、瑠衣」

「……さくにゃん」


 いつの間にか合同体育で朔良と勝負をしていたようで、体操服を着ていた。

 まったく記憶がない。

 この突拍子のなさは、夢でも見ているのかもしれない。

 でも、とりあえず朔良が勝ったらしいから、それにふさわしい言葉を贈らなければ。


「おめでとにゃ。やっぱり、さくにゃんは強いにゃ!」

「ありがとな。でも、無事に勝負できるかどうか……不安だったんだ」

「……どういうことにゃ?」


 朔良は、スポーツ万能な割に身体を壊しやすいと聞いたことはある。

 しかし、今の朔良はちっとも苦しそうではない。

 むしろとても気持ちよさそうだ。


「実は、途中で足ひねったかもって思ってな。あれはヒヤヒヤしたぜ」

「……そ、そうなのかにゃ……」


 どの競技で勝負していたのかはわからないが、足はほとんどのスポーツにおいて重要なものだ。

 そこで怪我をすれば、確かにまともに勝負できなくなるだろう。

 でも、なんともないようで瑠衣は安心した。

 きっと朔良も……というより、朔良の方が安心しているだろう。


「でも、ほんとにお前と勝負できてよかったぜ。美久里も葉奈も弱いからな」

「え、そ、そうなのかにゃ? はなにゃんは割とできそうなイメージだったんだけどにゃ……」

「いやいや、あいつ全然だめだぜ。球技やらせると必ずボールがどっか飛んでくからさ」

「あー、なんとなく想像できるにゃ……」


 葉奈が球技をしているところを想像すると、自然と笑顔になった。

 きっと、美久里も葉奈と似たようなものだろうと思う。

 瑠衣は紫乃とよくペアを組んでいるが、紫乃もできる方ではない。


 そう思うと、まともに勝負できそうな子は少ないかもしれない。

 柚と萌花は手強そうだけど。

 それでも、朔良は瑠衣に勝負を挑んだ。

 そのことがなによりも嬉しくて、頬がだらしなくゆるんでいるのがわかった。


「また勝負しようにゃ、さくにゃん!」


 瑠衣はそう言って、朔良とかたく握手した。

 次はどんな勝負をしようか。

 そう考えるだけで、瑠衣の心はトランポリンのように弾むのだった。

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