第193話 なやみそうだん(柚)

「え? 悩み相談ですか?」

「うん、そう! 相談できそうな子が萌花さんしかいないんだよ〜!」

「葉奈ちゃんとか……は無理そうですね」


 柚は教室に入って早々、萌花に泣きついた。

 萌花はそこまで乗り気ではなさそうだったが、付き合いのいい子だから無下にすることはないだろう。

 一番納得のいく答えを出してくれそうでもあるし。


 まあ、それはさておき、柚はあることについて相談しに来たのだ。

 さっき萌花の口から出てきた名前――葉奈が絡むようなことを。


「え、葉奈ちゃんのことで相談!?」

「そうなんだよ。どうしたらもっと仲良くなれるかな〜と思ってさ」

「……色々言いたいことはありますけど、そこまで深刻そうな悩みじゃなくてよかったです」


 萌花はほっと安堵しているようだった。

 どれだけ深刻な悩みだと思われたのだろうか。


「でも、葉奈ちゃんとはもう充分仲がいいと思われますけど……」

「今のままじゃ不満なんだよー! お願い助けてー!」

「わかった、わかりましたから大きな声出さないでください!」


 萌花があたふたと周りを気にするような仕草をした。

 助けてと大きな声で叫んだからいけなかったのだろうか。

 確かに、それを叫ぶと周りが何事だと思うだろう。

 配慮が足りてなかったと、柚は反省する。


「それで、もっと仲良くなりたい……でしたっけ?」

「そうそう。なんていうか、一番の友だち! みたいなのになりたいんだよね」

「なるほど……」


 柚の目指しているところを知って、具体的な案が出てくるかと思ったのだが……萌花は黙ったままだった。


「え、えっと、なにか言ってほしいんだけど……」

「えっ、あっ、ごめんなさい……! そういうことは得意じゃなくて考え込んじゃって……姉御に聞いた方がいいかと……」


 柚は目を見開いた。

 萌花は何事も完璧で、苦手なものなどないと思っていたから。


「そっか……いや〜、萌花さんの弱みを知れてよかったよ」

「……悩みを相談したかったんですよね?」


 なにはともあれ、萌花との絆を感じられた……ような気がする一日だった。

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