第173話 なでなで(紫乃)

「あ、あの……」

「ん? なにかな〜?」

「も、もうやめていただけると嬉しいんですけど……」

「え〜? まだ5分しか経ってないよ〜?」


 紫乃は今、美奈の頭をなでなでしている。

 当然紫乃はそれで満足しているのだが、美奈は少し不満そうだ。

 というより、この現状に納得していないのだろう。

 美奈はこういうことに慣れてなさそうだし。


「もうやめてくださいよーっ!」


 美奈は半ば強引に紫乃の手をどかすと、ふしゃーっと威嚇した。

 こういうところが猫っぽくて可愛いと紫乃は思う。

 紫乃がなでなでしまくっていたからか、美奈のふわふわな髪がボサボサになってしまっている。


「美奈ちゃんは可愛いね〜。猫みたいで〜」

「ぐっ……これ以上髪ボサボサになるのは嫌なので撫でるのはもうやめてください、ほんとに……」


 紫乃が手を伸ばしながら詰め寄ると、ジリジリと後退していく美奈。

 一挙手一投足が本物の猫のようで、猫耳と尻尾をつけたら猫にしか見えないだろう。

 ……なにか違う気もするが、それだけ猫っぽいということだ。

 そうこうしているうちに、美奈は隅に追いやられていた。


「へへへ、美奈ちゃん覚悟〜!」

「ぎにゃーっ!?」


 猫みたいな叫び声を上げ、紫乃に捕まる。


「えへへ〜……猫ちゃんもふもふ……」

「もう猫として認定してるのを隠す気もないんですね……諦めましたけど……」


 辟易とした様子でため息をつく。

 これ以上は抵抗するだけ無駄だと判断したようで、されるがままになっている。

 やりやすくはなったが、なにか物足りない。

 確かにこういう大人しくて優しい猫はいるだろう。

 でも、美奈はこういう感じは合わない。


「ねぇ、美奈ちゃん。さっきみたいに拒否ってくれない?」

「なんでですか!?」


 今日一日で、紫乃と美奈の仲は深まった……のかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る