第159話 ひろう(萌花)
「うー、身体が痛い……動かしにくい……」
合宿を終えた翌日。
学校に行くために準備をしようとするも、萌花は筋肉痛で動けなかった。
全身がズキズキと痛み、立っているのもやっとだ。
「休みたいけど、筋肉痛で休むわけには行かないですよね……」
その時、ふと卓上カレンダーが目に留まる。
今日の日付を見てみると、数字が赤色になっている。
これが意味することは……
「え、今日って休み……?」
そのことを認識すると、萌花の顔が急に真っ赤に染まった。
「あああああぁぁぁ! 恥ずかしいですね!? でもこのまま学校行かなくてよかったぁ……!」
萌花は家を揺らすほどの大音量で叫び散らした。
安堵と恥ずかしさと自分の記憶力の不安が入り交じって、萌花のテンションはおかしくなっている。
その時、萌花が叫び終わるタイミングを見計らっていたかのように電話が鳴る。
「は、はい。萌花ですけど」
『あ、萌花ちゃん。やっほー。でも萌花ちゃんの番号だってわかっててかけてるんだから名乗らなくてもいいんだよ?』
「す、すみません……つい。それで、なんの用ですか?」
電話をかけてきたのは美久里だった。
もしかしたら、萌花が間違って学校に行くだろうと見抜いて連絡してきたのかもしれない。
美久里も察しがいいということか。
なぜか萌花はそう決めつけて美久里を評価した。
『それがねー、夏休みにみんなで海行こうって話になってたじゃん? 萌花ちゃんの予定はまだわかってなかったからどうなのかなーって』
「あー、なるほど……その話ですか……」
あやうく、早とちりして美久里にお礼を言ってしまうところだった。
危ない危ない。
「夏休みも勉強に手は抜けないのでちょっと忙しそうなんですよね……でも息抜きも大事ですし、みんなで遊びに行くの楽しそうですし……」
『よーし、じゃあ行こう!』
「え、まだ行くとは……いえ、行かないとも言ってませんけど……」
萌花はかなりしどろもどろになっている。
正直、早いうちに大学の受験勉強とかをやっておきたいという気持ちがある。
でも、大学に入って進路がバラバラになったら、一緒に遊ぶことが少なくなってしまうかもしれない。
どちらを優先するか……
『うぅ……萌花ちゃんと一緒に行きたいのになぁ……』
「行きます。一緒に遊びましょう。いえ、遊ばせてください」
美久里が震えたか細い声で今にも泣きそうに感じたから、萌花は食い気味に遊びを優先することにした。
やはり、青春時代を楽しむことが最優先だ。
うん。そうだ。そうなのだ。きっとこれが一番だろう。
「コホン……ということなので、具体的な予定を聞かせてもらえると嬉しいのですが……」
萌花は食い気味で応えたのが今更恥ずかしくなったのか、咳払いしてからそう口にした。
美久里がどんな表情をしているのかわからないが、声を弾ませて喋っているから、きっといい笑顔を浮かべているに違いない。
『そうだなぁ……私は海で焼きそば食べてみたいなって思ってるんだー!』
「そっちの予定じゃないですよ! 何日に行くとか何時集合とか……!」
「あ、そっちか。ごめんごめん。楽しみすぎてつい……」
微笑ましいというかおバカというか。
とにかくほっこりした気持ちで休日を過ごせたのだった。
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