第152話 さんぽ(朔良)

「紫乃ちゃん、葉奈ちゃん、待たせてごめんよー」

「大丈夫だよ〜、僕たちも今来たとこだから〜」

「焦んなくてもいいっすよ」


 朔良と紫乃と葉奈は、学校近くの駅で待ち合わせをしていた。

 だが、どこへ行かされるのかなにをするのか……またなにも聞かされていなかった。

 いい加減断ろうかとも思えてくるが、朔良は二人に妙な仲間意識を持っていて、特に用事がなければ断れないでいる。


「じゃ、揃ったことだし早速行くっすか!」

「おー!」


 葉奈がそう拳を上げて叫ぶと、紫乃も葉奈に倣って拳を上げた。

 朔良は微妙に、この二人のノリについていけないでいた。

 ため息をついて、この後の予定を尋ねる。


「で、どこ行くんだよ?」

「ただの散歩っす」

「……は?」


 葉奈はにこにこしながら答えるが、朔良は怪訝な顔つきになる。

 いや、元々ここに着いた時から似たような顔つきではあったが。

 しかも、紫乃も葉奈と同じくにこにこしている。

 ついに紫乃が洗脳されてしまったか。


「朔良、なんか失礼なこと考えてないっすか?」

「はぁ!? なんであたしの心勝手に読んでんだよ!」

「……ほんとに考えてたんすね」


 あんなに口角が上がっていた葉奈が、今度はレアなしょんぼり顔になる。

 ほんとに葉奈には読心術でもあるのではないだろうか。


「それはともかく、なんで散歩なんだよ」

「あー、それっすか。うち、ずっと家に引きこもってることが多いんすけど、やっぱ運動も大事かなって。だから二人も巻き込んでジョギングでもしようと思ったんすよ!」

「それなら、ランニングとかの方がいいんじゃねーの?」

「は? うちが運動嫌いなの、朔良もよく知ってるっすよね?」


 なんか逆ギレされた。

 葉奈のわけのわからなさは世界一なので、それはもう仕方ないと諦める。

 しかし、散歩なら確かに一人でするよりは友だちとかと一緒の方が楽しいだろう。

 このメンツなら、創作話に花が咲きそうだ。


「ま、いっか」

「おー、朔良ちゃん最後はいつも折れてくれるから、僕そういうとこ好き〜!」

「はいはい。どうせあたしは折れやすい女ですよ」


 紫乃がぎゅぅっと腕を組んできたが、それを軽くあしらう。

 そうしないと、嫉妬するやつがいるから。


「あーっ! ずるいっす! うちも混ぜるっす!」


 案の定、葉奈はそう言い、紫乃と腕を組む。

 そうして、紫乃が朔良と葉奈に取り合いされているような構図になった。

 この状況は一体なんなのだろうか。

 朔良は二人の速度に合わせて歩きながら、呆れ気味に思う。


「あ、ねぇ見て。せーちゃんと緋依ちゃんが出会った神社みたいなところがある!」

「ほんとっすね。いやー、感慨深いっす」

「でも神社ってどこも似たようなもんだろ……」

「そんなことねーっすよ、朔良! 神社っていうのは――」


 謎のスイッチが入ったらしい葉奈は、神社について熱く語りだす。

 朔良と紫乃は最初あまり聞いていなかったが、葉奈のトークスキルと熱意に押され、いつしか聞き入っていた。

 これも散歩の一つの楽しみ方……なのかもしれない。

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