第78話 死王“ヘルツリー”
スプンッ。
サイレンサー式のプラズマライフル銃が小さな音を立てる。
左側の門番を射殺する俺の横で、
ゴキリ。
スパイラルがもう一人の首の骨をへし折った。
「行くぞ」
そのまま、草むらの三人に向かって手招きすると、石門横にある通用口から塀の中へと入って行く。
(あっちぃ。このバトルスーツ、もう熱を持ってやがる……)
小さく舌打ちした俺は、バトルスーツシステムを解除してその後に続いた。
今、俺が纏っているバトルスーツには一つ大きな問題がある。
それは――めちゃくちゃオーバーヒートしやすいということ。
冷却装置が脆弱で、高出力&長時間での運転ができないのだ。
(このまま俺が戦い続けて、いざという時に動けないのはやばいな……)
そう思った俺が、
「テツ、スグル、次からはお前たち主体で戦え。俺はしばらくこのポンコツの熱を冷ます」
背後に声を掛けると、
「任せろ! 遂に俺の操縦技術を見せる時が来たな!」
「お任せ下さい! 遂に僕がメモ帳に蓄えた膨大な知識が火を噴く時が来ましたね!」
予想以上に元気な答えが返ってきた。
そのあまりの威勢の良さに、逆に不安になる。
(こいつら、本当に大丈夫か?)
20メートル以上ある巨大な塀の中は、小さな街のような景色が広がっていた。
武器倉庫や戦闘員の宿舎と思われる建物が点々と並び、中央に真っ黒な城がそびえ立っている。
「できるだけ人目につかない道を行く。遅れずに俺に付いてこい」
そう言ったスパイラルが足音を立てずに走り出した。
建物の影と影を渡り、忍者のように移動する。
あまり外部からの潜入は想定していないのか、見張りの数は少なかった。
稀に緑の法衣を纏った巡回兵が視界に入るくらいだ。
その全てを危なげなくやり過ごし、目的の場所へと辿り着く。
そこは、壁や天井が青いコンクリートで舗装された洞穴の入り口だった。
「あの洞穴は城の地下へと続いている。ライトニングが囚われた牢獄もあの先だ」
現在、洞穴の前には槍を持った二人の見張りが立っている。
しかし、まさか自分たちが襲撃に遭うとは思っていないようで、欠伸混じりの談笑を交わしていた。
これはチャンスだ。先程の門番同様に緊張感がない。
「今回も俺が右側の一人をやる。もう一人はお前たちに任せた」
「「おう!!」」
スパイラルの言葉にテツとスグルが深く頷いた。
「ふん、まあ、これくらいの相手ならワシが出るまでもないか……」
オッサンは端から戦うつもりがないらしい。
「今だ!」
スパイラルの掛け声に合わせて、三人が一斉に建物の陰から飛び出して行く。
それぞれがターゲットまで一直線。
見張り二人は、談笑にかまけていた所為で反応が遅れてしまっている。
まさに完璧。これ以上はないという程絶妙なタイミングでの奇襲だ。
流れるように相手の懐に飛び込んだスパイラルが拳一発で昏倒させる。
(まあ、こっちは心配いらないか)
そう思った俺がテツとスグルの方に視線をやると、信じられない光景が目に飛び込んできた。
「うをおおお! バトルスーツシステムオン!」
勇ましい声と共にヘルメットを展開したテツが、
「あでぇ……」
足をもつれさせて盛大にこけた。
何もないところで。
(ん?)
直後に、出発前にボスが言っていた言葉が蘇る。
『――残念ながらうちの事務所でお前の他にバトルスーツを動かせるのはテツしかいない。まあ、動かせると言っても簡単な歩行程度だが』
「あっ、こいつ走れないのか……」
ジト目でスグルにの方に視線を移すと、
「僕のメモ帳にはあらゆる種類の怪人の弱点が網羅されています! 容易に勝てると思わないことです!」
こちらも勇ましい声と共に駆け出し、怪人の前で足を止めた。
そして、ペラペラとメモ帳を捲る。
「ええっと、こいつの弱点は……」
どうやら、相対する怪人の弱点を調べてから戦うつもりらしい。
しかし、
「しまった!? こいつ、仮面を被ってるから何型怪人か分からない!? な、なかなかやりますね……」
スコーン。
すぐに頭を殴られて地面に転がった。
「あでぇ……」
(こ、こいつら、まるで役に立たん!?)
咄嗟にライフル銃を抜き、引き金を引くが、ギリギリ間に合わない。
「敵襲だー!!!」
一瞬早く、辺りに大声が響いた。
直後に、
スプンッ。
額の真ん中を貫かれた敵が地面に崩れ落ちる。
「うーむ、これは非常にマズいな……」
思わず顔を引きつらせる俺の目の前で、
「緊急事態発生。陽動班は直ちに攻撃を開始せよ」
トランシーバーを口元に当てたスパイラルが素早く命令した。
『陽動班了解。直ちに攻撃を開始する』
☆☆☆☆☆
「やれ」
トランシーバーを口元から外したジィーブラの指示で、丘上に並べた戦車の砲台が一斉に火を噴く。
綺麗な弧を描いた砲弾が塀の向こうへ落ち、ひたすら高い火柱を上げた。
「全弾、目標である武器倉庫に命中。塀の内側はパニック状態に陥っています」
砲撃手からの報告を受け、背後のスピード、プリティーウーマンに合図する。
それと同時に、
「みんな遅れずに付いて来い!」
「誰がヘルツリーの首を取るか、早い者勝ちよ!」
100人あまりのヒーローを引き連れた二人が目の前の坂を下っていく。
その勢いのまま、西門の石扉をブチ破ると、敵を呑み込むようにして進撃して行った。
目標は中央にそびえ立つ漆黒の城。
このままの勢いなら問題なく到達出来そうだ。
突然の奇襲に敵は全く対応出来ていない。
(となると、問題は救出班の方か……)
兎にも角にも人質を確保しなければ始まらない。
「頼むぜ、スパイラル」
小さく呟いたジィーブラは、僅かに残った手勢の方を振り向き、ニッと笑った。
「さて、俺達も行きますか!」
☆☆☆☆☆
ブワリ。
西門の近くで巨大な火の手が上がった。
続けて、大勢のヒーロー達が塀の内側に雪崩れ込んでくる。
その様子を怪人“ヘルツリー”は静かに眺めていた。
『No.1』の数字が刻まれた仮面を暇そうにさする。
ここは仮面舞踏会中央にそびえ立つ城の頂上だ。
“王座の間”と呼ばれる巨大フロアに、三つの人影がある。
『No.1』『No.2』『No.3』。
全員が真っ白な祭服を纏い、仮面に刻まれたナンバー以外に見分ける方法はない。
肩を並べ、ぼんやり窓の外を眺める三人の元に、
「ヘルツリー様、敵襲です」
「西門前、地下通路の二カ所から応援要請が来ています。いかがなさいますか?」
朱色の法衣を纏った男二人が大股で歩み寄って来た。
No.4とNo.5。
これで仮面舞踏会の幹部全員が揃ったことになる。
膝をついて傅く二人の方をゆっくり振り向き、祭服の三人が同時に口を開いた。
「「「No.4は地下通路へ。No.5はここに残れ。西門へは私が直接出向く――皆殺しだ」」」
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