第48話 オリジナルスーツ

 バトルスーツ展示会は日本バトルスーツ業界を牽引するライバル三社、東浦コーポレーション、西園寺グループ、南宮寺財閥が共同で開催するビッグイベントらしく、会場には多くの客が訪れていた。


「ほら、あのバトルスーツの胸元を見ろ。三本爪で引っ掻かれたような赤いマークがあるだろ?あれが東浦コーポレーションのエンブレムだ」

「へー」


 兄の説明を聞きつつ、正面に飾られた展示品を眺める。

 黒とオレンジのダーティーなバトルスーツ。

 確かにその胸元に恐竜の爪痕のような紋章があった。

 

「東浦コーポレーションのバトルスーツはどんな特徴があるの?」

「うーむ。簡単に言うと、防御特化って感じだな。強力なプラズマフィールドを展開して安全に戦えるから駆け出しヒーローに愛用者が多い。有名なヒーローでは“ネイチャー”なんかが使用してるな」


(え? この荒々しいエンブレムで防御特化なの? これもう一種の詐欺でしょ……)

 ズンズンと歩を進める兄の後に続き、隣のブースを訪れる。


「ここは西園寺グループの展示スペースだ」

(おっ、西園寺さんの実家!)

 これまで以上に興味が湧き、金の五芒星が刻まれたバトルスーツをじっと眺めた。


「西園寺グループのバトルスーツの特徴はなんと言っても圧倒的機動力だな」

「機動力?」


「そうだ。ジェットブースターがとにかく優秀で、小回りが利く上に最高速度が他社製の物とは比べ物にならないんだ」

「へー。やっぱり、それぞれの会社によって個性があるんだね」


「ああ。だから、カタパルト式スーツの作製を依頼をする時は、どこの会社がより自分の個性を上手く引き出してくれるかを正確に見極める必要がある。そこもヒーローの技量よ」

「へー。因みにお兄ちゃんのお勧めはどこのスーツなの?」


 気になったサツキが興味本位で尋ねてみると、片眉を上げた兄が即答した。


「ヒーロー軍一択」

「うわ、身も蓋もない……」

 その後もペラペラと話し続ける兄を連れ、幾つかのブースを回る。

 最後に、

 

「ここは南宮寺財閥の展示スペースだ」

紺を基調とした落ち着いた雰囲気のプレハブ小屋を訪れた。


「南宮寺財閥のスーツって初めて見たかも」

「南宮寺財閥のバトルスーツは火力特化のアタッチメントが豊富で、ごつ目のデザインが特徴だ」


(なるほどぉ。確かに言われてみれば、角張ったスーツが多いかも。エンブレムは白いペンギンなんだぁ。なんか可愛いかも)

 兄の言葉に納得したサツキが、バトルスーツを眺めながら横へ移動していると、


ドンッ。

隣で展示品を凝視していた女性客と肩がぶつかってしまった。


「あっ、すみません」

 慌てて謝罪を口にしたサツキが顔を上げると、


「こちらこそごめんなさい」

同じく謝罪を口にした女性と目が合う。


 波打つ金髪が綺麗な色白のレディー。


「あれ? オリビア先生?」

 その見知った顔に思わず声を掛けた。


 すると、

「あら、三枝さん。こんな所で会うなんて奇遇ね。休み返上でバトルスーツの勉強?」

同じくこちらに気づいたオリビア先生が笑顔で尋ねてきた。


「うーん。まあ、そんなところです! 兄と一緒に遊びに来ました」

 そう言ったサツキが、兄の袖を引っ張って紹介すると、


「あれ? もしかして、アマスケくん?」

その横顔を見たオリビア先生が驚いたように声を上げる。


「オリビア修繕技師。お久しぶりです」

 その言葉に振り返り際の兄が気さくに応じた。


「え? もしかして、二人って……知り合い???」

 サツキの疑問に、


「ええ。私達、同じバトルスーツ愛好会、“バトルスーツジャスティスズ!”のメンバーなの」

「入会試験が鬼のように難しいと、バトルスーツマニアの間では有名な愛好会なんだ。スゲェだろ?」

二人がフッフッフッと誇らしげに答えた。


(いや、名前ダサァ……。というか、バトルスーツの愛好会に入会試験なんてあるんだ)

 死んだ魚のような目をするサツキを他所に、


「でも、あなた達が兄妹だったなんて意外だわ。全然似てないんだもの。月とスッポンじゃない」

「え? そうですか? いやぁ、俺ってばカッコ良過ぎて参っちゃうな〜」

「……あなたがスッポンよ」

オリビア先生と兄が仲良さげに会話を続けている。

 しかし、


「ああ!!! そうだー!!!」

 突然、オリビア先生が大声を上げた。

 そのまま、こちらを振り返ると、両肩をがっしりと掴んで興奮気味に捲し立てる。


「この前言ってた、怠惰で金にがめつくてスケベなバトルスーツが作れる人! アマスケくんのことよ!」

 すぐに言葉の意味を理解できず、怪訝な顔をする兄と顔を見合わせた。


「怠惰でがめつくてスケべな人が……アマスケくん? 俺の聞き間違いかな」

「バトルスーツを作れる人が……アマスケくん? 私の聞き間違いかな」

 しかし、徐々に染み込んでくる言葉と、その意味に絶句する。

 数秒後、ハッと我に返ったサツキは、ただ一言ポツリと呟いた。


「え? ……お兄ちゃんって、バトルスーツ作れたの?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る