第35話 レッドバロン
プラズマガンには二つの大きな弱点がある。
一つは懐に飛び込まれたら全く役に立たないこと。
そしてもう一つは、人混みでの戦闘に滅法弱いことだ。
「ばか! やめろ! 撃つな!」
「お願い! 撃たないで!」
ショッピングモール内に怒号が響く。
プラズマガンによる包囲網を抜け出してからの
手始めに正面にいたヒーロー二人を素手で昏倒させると、即座に自身のブレードを回収。
続く後続を一刀の元に斬り捨てると、そのまま近くにいたヒーロー達に無差別で襲いかかる。
その間、周囲のヒーロー達は一切攻撃できていない。
当然だ。手にしているのはプラズマガン。
同士討ちのリスクがある人混みでは発砲できない。
(くそ、完全に俺のミスだ……)
次々と倒されていく仲間たちを見て下唇を噛む。
思い切り頭を抱えたレッドバロンは、不甲斐なさから自身の頬を張った。
完全にS級怪人の力を舐めていた。
そうとしか言いようがない。
危険度S級といえど、所詮はバトルスーツの力に依存した一個人。
同じ土俵で戦うヒーロー50人がしっかり連携を取れば、負けるはずがないと思っていた。
しかし、蓋を開けてみればどうだ。
完璧だと思われた包囲網は、ブレードを投げるという力技であっさりと突破され、既に半数近くが地面に沈められている。
戦闘開始から僅か3分。
まだ3分しか経っていない。
近場の基地からヒーロー軍が駆けつけるまでおよそ10分。
このままでは確実に全滅コースだ。
(こうなったら、俺自身が時間を稼ぐしかないか……)
決意を固め、一歩前へ出る。
レッドバロンは三十代後半から芽が出た遅咲きのヒーローだ。
若い頃は全く結果を残せなかったが、血の滲むような努力で強者の仲間入りを果たした苦労人。
それ故に、自身の実力には相応の自信がある。
「こいよ、
そう言うと、背中に背負っていた身の丈ほどもある巨大な鉄盾二枚を両手に持った。
続けて、挑発するように手招きする。
レッドバロンの戦闘スタイルは攻守一体の『シールドバッシュ殺法』。
両腕に装備した鉄の大楯を使って敵を殴り倒すという異様な戦闘法だ。
周囲のヒーローを見境なく襲っていた
(そうだ。それでいい。挑発に乗って来い)
そのまま、ゆっくりと歩みを進めてくる
別にS級を倒せると思うほど自惚れている訳じゃない。先程も己の認識の甘さを反省したばかりだ。
ただ、この場で
「行くぞ! 死ぬ気でかかって来い!!!」
腹の底から上げる熱い咆哮。
だが、その振る舞いとは逆に頭は冷静だ。
(戦闘はあくまで防御主体で行う。目的は時間稼ぎで倒すことではない。隙があっても欲を出して攻撃してはいけない。これは絶対だ)
自分自身に十分に言い聞かせ、視線を上げる。
すると、いつの間にか眼前に真っ赤な刃があった。
まるで、初めからそこにあったかのように。
「ッ!」
すんでのところで首を捻り、顔面への直撃を避ける。
耳の真横を通り過ぎた真紅の刃が浅く肩を傷つけた。
(馬鹿な! あれだけあった距離をたった一歩で詰めてきただと!?)
驚きのあまり、上体を仰け反らせる。
一瞬で肉薄した
両手の盾の隙間を狙った高速突き。
その伸びるような一撃に嫌でも押し込まれる。
「ぐっ」
堪らず後退するレッドバロンに、
左右のブレードを交互に使った連続突き。
次第に上がっていく回転速度に徐々に体捌きが追いつかなっていく。
(こいつ、まだ速くなるのか……!?)
必死になってブレードの切先に食らい付こうとするレッドバロン。
次の瞬間、その体に予想の遥か外からの一撃が突き刺さった。
両手のブレードを頭上に放り投げての回転蹴り。
その場で大きく体を捻った
「ぬわっ」
素っ頓狂な声を上げたレッドバロンは、盾ごと宙に投げ出された。
その拍子に思わず両手の盾を手放してしまう。
カランコロン。
乾いた音を立てた鉄盾が無情にも
(馬鹿な。あのタイミングで回転蹴りだと……)
地面に尻餅をつき、悠々と近づいて来る
その手には空中に放り投げた二本のブレードが綺麗に収まっていた。
あまりにも格が違う。バトルスーツの操縦者としても。一人の戦士としても。
「くそ! 誰か手を貸してくれ! こいつは俺一人の手に負える敵じゃねぇ!」
武器を失ったレッドバロンが必死の思いで周囲に助けを求めると、青褪めた表情のヒーロー達が無言で見返してきた。
皆、一様に距離を取り、ビビって近付いて来ようとしない。
その光景を見て、初めて絶望を覚える。
(まさか俺、ここで死ぬのか……?)
そう思った刹那、感じたことの無いほどの激痛が下半身を駆け巡った。
「ぐをぉぉぉぉ!!!」
気づくと、正面に立った
「誰か! 誰でもいい! 助けてくれぇぅぼぉあえぉあ!!!」
剣を引き抜かれる痛みで後半、声が言葉にならない。
地面でのたうち回るレッドバロンの目に、大きくブレードを振りかぶる
それでも周囲のヒーロー達は動かない。
(まだ、死にたくねぇよ……)
自らの死を悟ったレッドバロンが力なく目を閉じた瞬間、
「サツキ! ダメー!!!」
不意に背後から女性の切羽詰まったような声が聞こえてきた。
(なんだ?)
悲鳴にも近い叫びに、再び目を開ける。
その刹那、視界の端から恐ろしい速度で飛び込んできた白い稲妻が
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