第33話 ホンモノ
「へー、サツキちゃんとユナちゃんは小学校からの幼馴染なんだ」
「はい! 二人ともヒーローになるのが夢で、ずっと一緒に訓練してました」
「うわー。そういうのなんかいいね。青春って感じ」
「ふふふ」
サツキ達の案内役を買って出てくれた男性、倉山ゴロウは今年で二十二歳になる若手ヒーローらしい。
とても朗らかな性格で、先ほどからユナと楽しそうに会話をしている。
(この二人、このままくっつくんじゃないの?)
そんな二人を横目に、スマホのカメラを構えたサツキが一心不乱に武器の写真を撮っていると、
「サツキ、さっきから何してるの?」
その様子を見ていたユナが不思議そうに尋ねてきた。
「写真撮影。後でお兄ちゃんに見せてあげようと思って」
「相変わらず、仲良いねー」
「そうかな?普通だよ。普通」
「も〜照れちゃって」
「照れてないし」
ムッと唇を尖らせつつも、武器の撮影を続けていく。
すると、
(あれ? これなんだろう……?)
視界の端に他の武器とは異質の存在感を放つブレードが置かれているのに気づいた。
鮮やかな赤で染められた無骨な双刀。
刃先の部分がギザギザに尖っており、気味の悪い禍々しさを感じる。
真っ赤なブレードを手に取ったサツキが、その刀身をマジマジと眺めていると、
「あっ、やっぱりそれが気になった?」
何故か得意げな倉山が近づいてきた。
「これってもしかして……」
「お察しの通り。それは以前、監視カメラ映像に 収められたアンチヒーローのブレードを元に作られたレプリカだよ」
(へー、模造品なんだ。凄い完成度)
その余りに精巧な作りに感動する。
「実はうちの事務所の社長が
「なにそれ、趣味わるぅ……」
倉山さんの言葉を聞いたサツキが、思わず顔を顰めていると、
「あっ、噂をすれば」
パッと表情を輝かせた倉山さんが背後を振り返った。
釣られてサツキもそちらを見ると、イベントスペースの入口横に漆黒のバトルスーツを纏ったフルフェイスの男が立っている。
その元に、
「社長ー! お疲れ様ですー! 遂に全身のレプリカが完成したんですね! おめでとうございます!」
真っ赤なブレードを手にした倉山さんが駆け寄っていった。
(あれが
危険度S級の怪人を模したレプリカだからだろうか。偽者だと分かっていても胸が圧迫される様な威圧感を感じる。
「なんか……本物みたい……」
その得も言われぬ気持ち悪さにユナがポツリと呟いた。
直後に、
「社長、このブレードを握れば完成ですね!」
笑顔の倉山さんが真っ赤なブレードを手渡そうとする。
その様子を遠目に見ていたサツキは、すぐにおかしな点に気づいた。
(あれ? あの人、なんでもうブレード持ってるの?)
よく見ると、漆黒のバトルスーツを纏った男の手には既に二本の長剣が収まっている。
先程見たものと同じ血のように真っ赤なブレード。
「同じレプリカを二本作った? そんな事って……」
隣に立つユナも違和感に気づいたようだが、笑顔で駆け寄る倉山さんに気づいた様子はない。
その異様な光景に、無性に嫌な予感がして、思わず叫んでいた。
「倉山さん! 止まってください! その人、なんか変ですよ!!!」
漆黒のバトルスーツを纏った男が右腕を大きく振り上げるのがスローモーションで見える。
次の瞬間、
「え?」
笑顔のまま固まる倉山さんの横っ面に、深紅のブレードの柄尻がめり込んだ。
☆☆☆☆☆
薄暗い部屋の真ん中で一人タバコを蒸す。
古びたソファに腰掛けた俺は、目の前に並べられたコレクションを静かに眺めていた。
ハンガーラックいっぱいに掛けられたバトルスーツ。丁寧に磨かれたガラスケースには多種多様な武器が所狭しと並べられている。
その数、実に100点以上。
ここは都内近郊に借りたレンタルガレージ。
俺にとっての楽園だ。
これまで手に入れた戦利品を全て保管してある。
ソファの上で静かに目を閉じた俺の足元では、画面の映らなくなったポータブルテレビが賑やかなバラエティーショーを流していた。
『いや、師匠! そりゃないでしょー。勘弁してくださいよ』
『勘弁するのはお前だ!』
『ワハハハ』
テレビから流れる楽しげな音声に自然と口角が上がる。
(あー、癒される……)
実験用の豆電球一つの暗闇に心地良い微睡が広がっていた。
目を閉じたままタバコを灰皿に押し付け、二本目を取り出す。
そのまま、手探りで火をつけようとしたその時、不意にテレビの番組が切り替わった。
『只今、臨時ニュースが入りました。現在、都内近郊のヒューズショッピングモールに
テレビ画面から興奮した様に叫ぶアナウンサーの声が聞こえてくる。
手のひらでタバコを握り潰した俺は、暗闇でゆっくり目を開いた。
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