519話 顔見知り≠弱い
「あー、疲れる……」
ぜいぜいと息を切らして……って訳ではないけど、薫を巻くのにスモーク2本を使って全速力で走ったらそりゃー疲れるに決まってる。戦いの序盤って訳ではないけど、こんなのがごろごろいると思うと辟易する。しかもこっちの得物は折られてるし。
そういえば結局のところ、あいつがどうやって煙草を先を斬ったかわからんかったな。どうせ常人じゃ見逃しちゃうような手刀でも振ったんだろ、そういう事にしておこう。
「大丈夫っすか?」
いきなり声を掛けられ、咄嗟に持っていたままの刀を向けて銃操作ですぐに抜けるようにした所で手が止まる。目の前にはいつもの感じのヤスが良い感じに立っている。確か別動隊として遊撃に向かわせと思ったが、報告か何かか。片付けてからの合流か。
「冗談にしてはきついっすよ!」
「高ぶってる所にカットインしてくるからでしょ」
とりあえず周辺警戒をして、敵がいないのを確認してからいつものように煙草を咥え、火を付けて貰い一服。こんなにも煙草を吸うなんて……リアルでもこんなに酒も煙草もやんないってのになあ……女はそこそこ?
「それで戦況は」
「あー、そうっすね、良い感じっすよ」
「具体的に」
「そうっすね、関口さんがメタリカと相打ち、カコルを倒して、ガヘリスは撤退、他の戦線は戦闘中っすね」
「よくもまあ面子の名前を割り出せたな」
「そりゃそうっすよ、情報収集はお手の物っすから」
そりゃまあ、情報クランにいるわけだから、こういう有名なプレイヤー、クランに関しては面子が割れているのはそうか。それに戦況も逐一報告されていたし、あんまり私の情報と変わりない……変わりなさすぎない?
「それで、どう戦ってる?」
「そうっすね、それぞれ分かれて拮抗してるっすね、まだわかんないっすよ」
「ふーむ……」
遮蔽でもある柱にもたれて深く紫煙を吸い、吐き出す。
こっちの戦力は私、ヤス、アリス、松田、エルアル。判明している相手はガウェイン、ガヘリス、薫、後5人。ちょっとこのままじゃやっていけないか。
紫煙を燻らせ、灰を落としつつ、少しだけ考えてどこを先に行くかを考える。関口の爺がいない今だと、一番戦力になるのはエルアルになる。援護しに行くとしたらそっちか。場所は、つど聞いてそっちに向かうなら問題ないよな。
「とりあえずヤスは戦況を見て足止めと遊撃で遅延をしてくれればいい」
「了解っすよ」
「もうちょっとちゃんと見てほしいっす!」
不意に声が掛かった方をちらりと見ると、走り込んでくるヤスが一人。おっと、これは変装パターンかな?そのまま、今の今まで話していたヤス1を殴り飛ばしてごろごろと転がり、取っ組み合いの殴り合いが始まる。ははーん、これはよくある俺が本物だ、いいや私が本物だって押し問答をする奴だ。
「姉御!こいつは偽物っす!」
「いいや、そいつこそ偽物っすよ!」
うーん、恰好も一緒だし、顔も声も何から何まで一緒だしなあ。
こういう時には言い合いをするけど、二人揃って言い合いしながらの殴り合いを続けている。さて、これからどうするかな。ヤスはヤスで使えるプレイヤーだから、こんな小競り合いで腐らせるのはもったいない。
「こういう時の定番はどっちかを私に決めるんだろうけど、その手間も時間も勿体ない」
相変わらず不毛な殴り合いを続けているのを見ながら大きく煙草を吸い、吐き出してから、グレネードを1本取り出して点火。土煙を上げてやんややんやと殴っている所を見てから少し経った後。殴り合いをしている所に爆破ぎりぎりのグレネードを投げつけ、気が付いたところでドカン。
土砂や土煙、爆風を受け、横に流れる紫煙を見つつ、煙が晴れるまで待つ……前に、土煙を切り裂きながら刀が飛んでくるので、横っ飛び。
「姉御、無茶するっす!」
「お、偽物はあっちみたいだぞ」
咳き込んでいるヤスが近寄り、対面には刀を逆手に持ち直した。おしゃべり忍者こと1~10。どこぞの怪盗のようにべりべりと破れた顔のマスクを引き剝がして尻についた火をぱんぱんと消している。
「リーダーは相変わらず抜け目ないっすね!」
「それが売り、だろ」
銃を構え、逆手で刀をもう片手で印を組んでいる一二三を見ながら煙草を吐き捨てて、ちらりとヤスを見てから行動開始。おしゃべり野郎だけど、実力のある忍者職ではあるし、前にパーティを組んだ時よりも強くなっているのは確実。
「諜報活動してたのは向こうも同じって事か……んじゃ、任せていい?」
「無茶いうっす!」
「あれを倒せないと?」
「……そうとは言ってないっす」
にーっと笑い。自分の得物をヤスが抜いているのを見て少し下がる。
「此処で共闘しないってのが私たちらしいよなー」
「こんなおしゃべり野郎に負けるわけないっす」
「こんな使いっぱしりに負けるわけないっすよ」
似た者同士、嫌悪するってこういう事なのかな。
「良いか、此処であいつを取りこぼすとやばい、確実に仕留めろ」
「了解っす、姉御の命令は絶対っす」
そういいつつ見えない所でヤスのベルトに各種グレネードを詰め込んでやり、持っていないアイテムを追加させてから、二人で倒すかどうかを少し考える。
『2人で片付けるか?』
『後のことを考えれ、こっちの方が不利っすからね』
『一旦離脱して、そっちに注意が行ったら戻るぞ』
『了解っす』
全く、役者だよなあ、私ら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます