512話 決勝という名の前哨戦

 ももえと戦って1週間後の準決勝。まー、歯ごたえのない奴らだった。

 準決勝まで残ってるからどれだけ強いかなーって思ったけど、何ていうか、数の暴力で突っ込んでくるタイプだった。1週間もあれば余裕でFWSは撃ち直せるので開幕でぶっ放したら7割くらい吹っ飛ばせたので後はもう、端からぷちぷち倒していくだけで終わった。

 そういえば私以外のケルベロス見たことないんだよな。ガンナー自体の数は増えているはずだから、ももえの所に何人かって思ったけど、主流じゃない派生らしいから、あんまりいないって言ってたか。知ってる奴は警戒するんだろうけど、初見のわからん殺しには強いよな、本当に。

 そんなこんなで私が躊躇いもなくFWSをぶちかますっていう相手からしたら、ただただむかつくだけのクソゲー押し付けれるのは強み。そもそも対人戦である程度弱体化されてるとは言え、やけくそで実装したスキルなだけあって強くていい感じ。


「順調に来ると怖いよなあ」


 前の試合を少し振り返りつつ、何時ものように煙草を唇で揺らし、あたりに紫煙を燻らせる。決勝ってのもあって実況解説がやんややんやと煽っているのを聞きつつ、ちらりと横や後ろを見る。ヤスが集めた今のクランメンバーがいつもと変わらずの感じで準備をしている。

 実際このレベルの人数だったらもうちょっとしっかり作戦を練ったり、連携がどうとか考えるんだろうけど、あんまり縛り付けても良い感じに動けないだろうから、自由にやった方が良いのは変わらず……と、言いたいんだけど、此処で負けるのはちょっと頂けないし、ヤスに任せよう……って、今まで通りだな。


「良いか?」


 座ったままぽわっと紫煙の輪を吐き出しつつ、一言声を掛けると、手を止めてこっちに意識を向けてくる。一応私のことを認めてくれてるっぽい感じなのがいいよね。


「これで最後、終わったら解散するのも、分かってるよな?」


 何を今更と言った感じに、それぞれが返事を返す。ちょっとだけ寂しそうにしているのはアリスかな?


「結果がどうあれ、お前らと一緒にやれたのは面白かったし楽しかったよ」


 何個目かの輪を吐き出しつつ、そんな事をぽつぽつと。


「最後には解散するし、先に礼の言葉でも……」

「姉御……」

「なんて、私がそんな事言うと思ってる奴、いないだろ」


 半分ちょっと残っていた煙草を一気に吸い、吸い口まで燃やしきってから吐き捨てると共に、紫煙を大きく吐いて立ち上がる。


「この試合で最後じゃなくて、本当の最後はお前ら全員と決着をつける事だからな」


 振り向き、全員の顔を見てにんやりとギザ歯を見せつけ笑う。

 そう、私が最強だって見せつけるにはこの試合で勝ったうえで、もう一度こいつらをボコって完全に誰が一番上かを決めるのが、本当の終わりになる。


「姉御、マジで言ってるっす?」

「そりゃそうだろ、最終決戦は身内で派手にドンパチやりまくって誰が強いか決めるんだ」


 大きく腕を広げながら楽しそうにし、一人一人に指をさして「全員敵だぞ?」と一言添えてやる。


「確かに、お主と決着はついてなかったのう」

「うん、次は勝つ」

「勝つね」


 うちの戦力頭が戦った時の事を思い出したのか、目つきが変わったのが分かる。あんまり好戦的じゃないヤスとアリス、松田にも視線を移すと、こいつらに勝つのもまんざらでもない。って顔をしているような気もする。


「それにしても対人プレイヤー全員より強いというのも闘技場もあるからなんともですなあ!」

「そういうのは野暮ってもんっす……まあ、勢いでそっちもいきそうっす」

「わ、私も、勝ちたい……」


 ギラ付いてるのは良い。惰性でこのままやるよりはよっぽどいい事だ。

 

「相手がどんなにいようが、どんなに強かろうが……こんな前座で負けるわけにはいかないだろ?」


 そう言われればそうと、全員が納得したところで待機している部屋の片隅が光始める。いわゆる選手入場って事だな。それじゃあお先に、と言ってから転移の光に入り、前哨戦に赴く。







「やあ、アカメさん、縁がありますね」

「やっぱおめーだと思ってたよ」


 転移された先、かなり大きいコロシアムのような所に出ると、反対側に見慣れた奴が立ってこっちを見ている。この手のイベントで最後に相手になるのが犬野郎って事は最初から分かってた。紅茶バカだと思われがちだけど、なんだかんだであいつのクランってこのゲームにおける最大最強なんだよね。上手い事、ぶつからなかっただけだけど、此処まできたら何かしらの運命か?作為的にも感じるけど。


「口にすると安っぽいですが、ゲーム開始からの運命ですね、赤い糸でも繋がってるかと」

「糸くらいで私の事を繋いでおけると思ってんのか」

「聞いたところ、これが終わったらクランを解体すると……負けたらうちに来るというのは?」

「どいつもこいつも私の事、好きすぎるだろ……じゃー、私が勝ったら何してくれるんだ」

「そうですね……私の資産全部ってのは」

「急に現実的」


 かなりの金額、溜め込んでるのは確かだろうけど、金があった所で使い道が薄いってのが問題……だと思ったけど、ガンナーって金がかかる職だから全然ありだな。


「じゃあ、しっかり預金全部下ろしておけよ」

「やはり良いですね、アカメさんは」


 珍しく口角を上げてにやりと笑う犬野郎を見つつ、奥にいる連中をチェック。人数は10人くらい、こっちに合わせたのか、下手に人を増やすよりもしっかり連携取れる人数として調整したのか。どっちにしろ強敵には変わりない。

 

「泣くなよ」

「そのセリフそのままお返ししますよ」


 二人揃ってくつくつと笑っているアナウンスが響き、試合開始……の前にマップ中央に壁が一つせりあがっていく。どうやら運営の用意した陣形なり作戦タイムみたいだが、今更あれこれ言うほどのものはない。アリスが前、後ろに私と松田、両翼にエルアル関口、遊撃にヤス。


「まずは優勝、あとから、わかるな?」


 全員が頷いていつもの形になると、またアナウンスが響き壁が引っ込んでいく。

 さて、勝ちに行くか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る