511話 師弟とは
「いい加減拗ねるのやめーや」
口を尖らせて拗ね続けているももえを隣に、煙草をゆっくりと吸いながら目の前で繰り広げている戦闘を眺める。
「……だって、真っ向勝負で倒せると思ったのに、すぐ自爆するし」
「あそこまで私を追い詰めたのは誇っていいぞ」
「それでもー」
「前に十分私の事、ボコったろ」
ふはーっと紫煙を吐き出しながら、楽しそうに戦闘をしている関口の爺、相変わらず泣き言を言っている松田、無言ながらにしっかり立ち待っているアリス、付かず離れずのエルアル、暗躍してグレネードを撒いているヤス。それぞれの戦いを眺める。
「どっから集めたの、あの連中」
「うちのマネージャー……って言うか、お前の所、数は多いけどいまいち戦力がないな」
「だってファンメインで構成されてるもん、強い人は両手で数えるくらいだし」
「その強い奴にフラッグ任せてるとは、ポンコツの割に頭使ったよな」
くつくつと笑いながら背もたれに寄りかかり、煙草の灰を落としつつ戦況を見据える。こういう言い方は悪いが、雑兵ごときでやられる面子ではないので、強い奴を上手い事捌ければこっちが勝てる。何だかんだで松田の特製ポーションの回復量えぐいから、死にかけるまで頑張れる。
「ねー、ボス」
「んー?」
「煙草ちょーだい」
半分より少し残っていた吸いさしを手渡し、新しいのを咥えて火を付ける。ちょっと照れてやんの、さっき抱き着いて押し倒したのに比べたら関節キスなんて全然照れないだろうに。
「……けほ、けほ……ちょっとは追いついた?」
「追いつく追い抜かれるってのは同じ道を辿ったらの話だろ?途中から私とは違う道を辿ったんだから気にする必要はないだろうに」
「じゃー、勝手に追いついてないって思う」
ふいーっとももえが紫煙を吐き出しつつ、むせてるのをくつくつ笑いながら横目で見つつ、こっちは紫煙の輪を作って遊ぶ。
「ねえ、これ終わったらどーするの?」
「どーするって、いつも通りだけど」
「負荷かけてログアウトするくらいだし、急にやめそうだなって」
「確かになあ……」
結構終盤の戦いになってきた光景を見つつ、言われた事を少し噛み締める。ガンカタや銃操作、自分の手札を考えたりで状況を考え……まあ、頭が疲れるのも確かな話ではある。
「ボスいなくなったら、さみしいなあー」
「なに、いなくても何とかなるもんさ」
そんな事を言っていたら少しだけ無言の時間が流れ、目の前で繰り広げられている戦闘を見つめる。ゆらゆらと2人分の紫煙が上りつつ、決着がつくのを暫く待つ。
「戻るの?」
「考え中」
「……うちくる?」
「行って何するんだよ」
バカだなーなんてことを言いつつ、決着がついてアナウンスが流れる。
丁度、ももえが煙草を吸い切り、吸殻を吐き捨てて立ち上がる。
「負けないでよ」
「当たり前だろ」
手を振って先に出ていくももえを見送ってから、残っていた煙草を吸いきるまで暫く一人で過ごす。
「自爆するのは聞いてなかったっす」
「思い付きでやったからな」
私のマイハウスでさっきの試合について反省会をしつつ、のミーティング。
と、言ってもいるのはアリスとヤスで他の連中は各々ばらけている。ほんとマネージャーとして優秀だよなあ、何でこっちに着いたのか裏がありそうだけど、裏切ることはなさそうなので問題ないか。
「大丈夫、でした、か?」
「ああ、アリスもよく頑張ったな」
褒める時はしっかり褒める、これ大事。
「たまたま流れを引き込めたっす、正直危ない橋だったっす」
「まあなー」
椅子にもたれながらどうだったかを考える。私が過負荷ログアウトされなかった場合、あんなことにならなかったし、アリスのカットインがなかったら終わってた。って言うかよく自分で判断して飛び出してきたって思うわ。
「運が味方してるって思うのが良いだろ、それに私がいなくて成立するのはわかってたし」
「まあ、勝ったからいいっす……でも、もうああいうのは無しにしてほしいっす!」
「うん、うん……」
自爆一つでこうも攻められるとは思わないっての。って言うか負荷掛かってログアウトしたのを心配するのが筋ってもんじゃないのかね。私結構頑張ってたってのに、そこの部分はどうなん?
「それであと何回よ」
「2回っす、ようやくここまできたっす」
「勝てると思う?」
「勝て、ます……」
予想外の方向から返事が来るとは思ってなかった。ちょっとだけしゃべるようになったのもあるが、どうやらしっかり私のことを信用しているって事なんだろう。真っすぐこっちを見て大丈夫といった感じの顔をしている。
「まあ、大丈夫さ……負けられない理由ってのが私だけじゃないってのをわかってるからな」
後2回、それで私のやってきたことが証明できる。
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