509話 奇策とテクニカル

『両翼の状態は』

『押され気味っす、流石に数が多すぎるっす』

『ヤスは一回こっちに戻ってこい、グレネードやるから関口の爺を助けに行け』

『エルアル姉妹はどうするっす?』

『あいつらはカバーし合えるから大丈夫のはずだ』


 新しいマガジンをアリスの裏で装填しつつ、ちらっと状況を確認。ももえの奴も向こうは向こうでこっちの行動に対応している。FWSをしっかり避けたってのも成長している証。流石に切り札が過ぎたか?まあ、腐らせるよりは全然いいな。


「グレネード貰いにきたっす」

「あんたから見て両翼の状況は」

「そうっすね、プレイヤーの質的な部分で言えばこっちの方が上っす、ただ数が多いのがネックっす」

「あくまでも、ももえのファンって域を出ないわけね」


 見た感じの感想を聞きながらインベントリからグレネードを出してバトンリレーのように手渡してやる。火は付けれるみたいで、案外生活系魔法って知らないところでみんな取ってたりするもんなのかな。


「それでもぽつぽつと強い人はいるっす、そこで時間とダメージを貰うって感じっす」

「囲まれなきゃ何十人いようが正面4,5人だし、連戦できるかどうかってところか」

「そうっす、幸いな事に包囲網ではないのが不幸中の幸いっす」


 最初のタイマンで上手い事左右に分かれて、こっちから喧嘩を売っておいて有利な状況になったのが良い所か。しかもそれで数を減らせてたってのもでかい。どっちにしろ状況が物凄い悪い……わけではなく、実は結構いい線行っている状況だったり。


「あとそうだ、私の事なんだが」

「さっきのログアウトっす?」

「……どうも私のプレイスタイルとゲームの嚙み合わせが悪いみたいでな、無茶したらまたああなる」


 ゲームって言うか、人間の限界的な部分?VR技術の発展であれこれ、色んなゲームが出たけど人間側の方がそれについてないって本当だったんだな。どっちにしろ前よりも無茶は出来ないから、しっかり立ち回る、やっぱり人間初歩的なことが大事だよな。


「それじゃあ援護は任せる」

「任されたっす」

「おっと、ヤス殿、これもどうぞ」


 地味にアリスの回復ばっかりやっているのもあって地味に印象が薄いんだよなあ。なんだけど、地味ながらに強力な回復を巻けるってのはなかなかに凶悪。もうちょっと人との距離感を計れるなら結構いい所に行けると思うんだが、まあ無理だな。


「私の後ろと横は頼むわ」

「了解っす」


 そしてここからどう向こうを切り崩すかが問題になる。しっかり私の立ち回りを理解しているから、さっきまでの甘い射撃でぽこぽこ倒せるわけではない。ちゃんと前に防御向けのプレイヤーを配置して射撃が通らないようにしつつ、後ろからは一斉射撃でアリスを狙ってくる。それでも、射撃するのにあたってつるべ打ちしてこないのはまだまだ甘いんだけどさ。


「アリス、松田、少し下がるぞ」

「両翼とヤス殿にもいいますかな?」

「いや、こっちに引き込めるならそれはそれでいい」


 相変わらず前で盾を構えているアリスを引っ張り、少しだけ下がりつつ、援護射撃で向こうの前面を少しでも削る。


「ガトリングくらい持ってくりゃ良かった」


 単発火力で言えばライフルや拳銃は高い方だけど、こう、相手が多い場合は掃射出来る方が圧倒的に便利なんだよなあ。火力も弾幕もやっぱり手数が多い方が出しやすい。そういえばバイパーの奴、全部特殊弾にするなんて言ってたけど、頭悪い奴だわ。


「たの、しそう……」

「ああ、楽しいね、私は恵まれてる」


 またアリスの横から正面を見て、状況整理。向こうの弾幕がかなり厚いが、まあ、そこまでって感じか?一点集中で攻撃を貰ってるけど、常に回復を入れてるからすぐにはやられないし、こっちから少しずつ削っているから松田の負担も減っているはずなんだが……。


「あとどれくらい持ちそうだ?」

「そうですな、さっきの一撃でだいぶ楽になったとはいえ……持って5分ほどですかな!」

「アリスの方は」

「まだ、大丈夫……」


 そうなると私の腕が重要になってくるな。前面を撃って減らして後ろを倒すか、先に後ろを狙うか……いや、回復は松田に任せるとして、MPも結構余裕があるからちょっと戦い方を変える?一撃の威力を出して向こうに届かせるのはちょっと難しいか?


「ま、やってみるか」


 考えて失敗したら次に生かせばいい、考えて何もやらないよりは全然良い。まあ、今回のことで言えば失敗したら負けるってだけよ。負けるのは嫌いではあるが、負けたら負けたで……。


「いいや、甘っちょろいな、私も」


 ふすーっと紫煙を吐き出してからARから大型拳銃に、距離減衰は確かなかったけど、ぶれるからあんまり拳銃で狙撃の様な事はしたくないんだけど、あんだけプレイヤーがいるんだし、誰にかしらには当たるだろう。

 もう一度深く息をして、いろいろな攻撃音が響く中で集中。久々にヘッドショットのスキルをONにしたうえで、アリスの横から体を回転させながら飛び出し、撃つ瞬間に銃を捻る。銃声と共に弾丸が発射され、綺麗な弧を描きながら前面にいる連中を飛び越えて奥のプレイヤーに直撃する。通用はするけど仕留めきれないから、ここからは連射と根気だな。


「もうちょっと……曲げたほうが良いな」


 跳弾も組み合わせて不意打ちってのも考えたけど、それをやるのはもうちょっとあとだな。

 まずは数を減らし継戦時間を延ばして泥沼化させたろう。


「自分の事ながら、こんなことになるとはなあ」


 今度闘技場でしっかりタイマンしてやろう。

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