501話 覚悟完了

「大将同士、ここで決着ってのはどうだ」

「負けた方が棄権か……まあ、そうだよな、このままやったら私のクランが勝つわけだし」

「その強気な発言も此処までだっての」


 自分の身長以上にでかい斧を肩に担ぎ、相変わらずの猫耳を動かして私の前に立ち塞がるこいつ。現ヴェンガンズカンパニークランマスターニーナ。クランを任せ、私はさくっと別クランを作ってこんな状態だが、私の言いつけ……ってわけじゃなく、戻ってくるまでにでかくするって目標をしっかり見据えて動いているこいつ。さっき倒した新人も結構いい線いってたけど、十兵衛やマイカ、ニーナやらを含めたらちっと物足りないが。


「で、私が満足するようなでかさになったか?」

「さあなあ……戻らないとわからんだろ」


 二人揃って武器を下ろした状態で話す。そういえばこうやってどっしり構えて話すって事はなかったっけか。最初は樽を作るために紹介されて、なんだかんだで続いた関係がこうなってるか。なんだかんだでこいつがいなかったら、計画に遅れが出てたのは事実だな。木工クランだか抜けてうちの所きたんだったかな。


「負けても恨むなよ」

「此処でしっかり決着付けてやる」


 ずしっと音が鳴るような重圧感を出しながらニーナが構える。それに合わせて銃剣AR、2丁拳銃を抜いてこちらも構えてから一呼吸。

 ああいうでか物を相手にするときは思い切り前に突っ込んだ方が安全ではあるんだけど、それの対策をしてないって事はないよな?対人はそんなにやってない奴だから、ちょっと無茶したら意外と肉薄できる気がする。問題があるとしたら、十兵衛の奴がしっかり連絡を入れて私が遠近両用になったのを教えてるかどうか。


「その2本折られた角、根本からもう一回へし折ってやる」

「お前の猫耳、イカ耳にしてやるから覚悟しろ」


 口撃を繰り出しつつ、じりじりと距離を測り、良い所で止まる。遠距離攻撃が出来る分、こっちのほうが圧倒的に有利で先手も取れる、だからこそ下手な動きをするのは悪手だが。なんてごちゃごちゃ考えていたら一気に突っ込んできて一閃。咄嗟に銃を構えて受けるが、甲高い金属音と共に銃口の先が宙を舞う。

 十兵衛と違って攻撃を受けて滑らせるなんて事が出来ず、あの斧の攻撃力と裏打ちされたSTRの差で破壊力が段違い過ぎるのが原因か。


「ちぃ……!」


 銃の機構から先を飛ばされても撃つことに支障はないし、命中率的に落ちるってだけだから問題ない。そんな事よりも咄嗟に防御する範囲が狭まるほうが今の私にとっては問題だ。いや、それ以前にあの一撃を貰ったらいくら強化したスーツや防具でもやばい。しかも私が想定していた倍以上の速さで攻撃を振ってくる。

 十兵衛やマイカ、バイオレットのように手数を回して攻撃するって訳じゃなく、とにかく一撃の強さを求めたのがこいつのスタイルって事だが相性が悪すぎる。


「俺様のほうが強いんだよ!」


 2撃目、振り返しを同じ体制で受けると得物がやられる。最初の一撃が強すぎてさっきの震えと別の痺れが手に伝わってくるのと合わせて、体勢が整っていないのもあるから、ええい。そのまま後ろに食らった衝撃を堪えるのやめて仰向けに倒れて2撃目を回避。そのまま後転して一度距離を軽く離す。


「ニーナが強いのも、十兵衛、マイカ、バイオレット、バイパー、菖蒲、ももえが強いのも知っているし、私はそこまで強くないってのも知ってるわ!」


 起き上がると同時に射撃。2撃目を振りぬいた所だから直撃するだろうと踏んで、予想的中で直撃……した割にはあまりダメージを与えている感じがない。そういえばこのゲームってよくあるHPバーの表示ないんだよな。だからどのくらいダメージが入って倒せるかってのが分からん。

 

「そういうのに限って厄介ってのも知ってるっての!」


 3撃目。直撃したのにも関わらず気にせずに殴りかかってくるのは何か絶対タネがあるはずだ、それをわからない限りこっちが勝てる保障がない。っていうか、ずーっとこんなんだな、私の戦いって。風切り音が今までの比じゃない轟音を響かせながら射撃の切れたタイミングで振るわれる。ハンドガンで受けたら切り落とされる。


「ああ、クソ!」


 銃剣ARを銃操作で手元に、相手の横の攻撃線に対して斜めにねじ込んで攻撃を逸らし、また振りぬいた隙に合わせて撃ちこむ。が、どうも生身に当たってるわけじゃなくて何か別の物に当たっている音がする。それにしてもぶんぶんと横に振ってるだけではあるが圧がえぐすぎる。直撃しない弾丸、強振の破壊力抜群の斧、勝つという気迫。このままじゃ普通に負けるわ。とにかくこっちの射撃は結構入ってるのに、固定ダメージが入らない感じ。っていうかはいってない。何かあるはずなのに、それが何かわからないのにこっちの消費が多いか。

 そして4撃目。横じゃなくて縦方向の一撃。咄嗟というか手癖で銃剣ARを間に挟んで攻撃を受ける。と、いつもの金属音ではないひしゃげる音が響き、くの字に銃身が曲がり、ストックの木製部分がへし折れる。ああ、くそ、やっちまった。


「そうやって防御するのも、悪い癖だな!」

「今思い知ったわ」


 ひしゃげたARを銃操作で使おうとしたが、銃という判別がされないので掴めない。つまるところ銃として判別されないからジャンクと変わらない。っていうか懐に飛び込んで接近戦を考えているのに、ずっと接近できていない。っていうか懐に飛び込むの難しくね?射撃の反撃はしてるけど、うまくこっちに流れを持って行けない。


「もうちょっとスキルを信用するか……?」


 あくまでも動きの補助がスキルのいい所であって、それを活用するには自分でどう動くかを考えないといけない。スキルの補正を信用して無茶な動きができると思って突っ込むか?このまま一定距離で斧を振り撒くられたらどうせジリ貧で負ける、だったら覚悟を決めて……。


「土壇場で残そうと思ってた私と、ありったけをぶつけてるあいつとの差か」


 まだ腹括ってないのは私の方ってことか。


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