429話 ちょっとした思い出話

「流石に3回目となると苦手がどうとか関係なくなるわ」


 アデレラのマガジンを交換し、リロードを済ませた後に大きめに一息。出てくるものが分かればそこまで難しい相手じゃないし、やっぱりこういうゲームって初見性が大事だわ。

 いくら苦手だからって言っても何度も見ていれば人間慣れるもんだなあ……見た目からの嫌悪感って言うか、造形がダメだけど、裏を返せばさっさと倒せば見る事も無くなるし、良い事尽くめか。


「で、もうへばったか?」

「馬鹿いえ、まだまだ……!」


 アルバスがぜいぜいと荒い息を整えている横で葉巻に火を付ける。

 最初はただただ嫌味を言うだけのクソ野郎だと思ったが、そこそこの根性はあるし、ゲームの腕も悪くはない……が、突出して強いって部分が見れないし、多少なりと強い部類のガンナーって評価から抜けない。よくもまあこんなレベルででかい口叩けてたなあってのがボス戦を2人でこなした感想。


「それじゃあ次の行くぞ」

「分かってる……!」


 うーむ、根性だけは一人前だな。

 真面目にガンナーやってりゃ私に出会う事も無かっただろうし、私がどういう事をしてきたか分かる……いや、分からんわ。情報クランに早めに流した情報って匿名だったし、闘技場イベントでようやく本腰入れて顔出し……いや、クラン対抗戦で派手に悪徳プレイヤーを糾弾してるわ。


「それにしても私の事本当に知らなかったんだな」


 ボスエリアを抜けてエリア3に向かいながらそんな事をぽつりと零す。


「いきなり闘技場イベントででかい顔したらそう思うだろ」

「まー、確かになあ……アオメの奴を隠れ蓑にして、うちは分家みたいな立ち回りしたし」

「何でそんな事を」

「お前みたいなのがいるからだよ、相手するのが面倒だし、目立ってゲームプレイ出来ないのは私としてはかなり死活問題なのよ」


 そんな事を言っている間にエリア3に。

 道中の雑魚は苦戦する事も無いし、対処方法も分かっているのでアルバスを引っ張りつつ、ボスエリアにさくっと到達。ただし他パーティが戦闘中なのでそれを見ながら葉巻を咥えて上下に揺らす。この動作をじっと見てくるので、もう一本取り出して差し出してみるが、いらないと拒否られるので素直に引っ込める。


「……本当に最初からガンナーやってたんだな」

「正式版からだけど、まー、序盤はきつかったね、速攻弾切れして銃剣でずーっと戦って、たまたま硝石見つけた所から工夫して火薬量産、先込め銃作って暫くやってりゃプレイヤーに邪魔されたからイベントで粛清して、銃弾作って、ギルド見つけて……思えば2ヵ月くらいだけど濃いプレイしてるわ」


 葉巻に火を付けてからぷぁーっと紫煙を燻らせてちょっとだけ振り返り懐かしむ。改めて思えば此処まで来るのにかなり駆け足だった。このイベントでトップを取れたら……どうするか。いや、ちょっと待てって、まだ取っても無い事に意識を持っていくってあほか。まだイベントも終わってないし、エリア3のボスすら相手してねえっての。


「昔の話ばっかりするのも歳のせいだわ、さっさと倒して順位上げないといけないのが急務だってのに」

「順番が来たようだぞ」

「4と5のボスじゃなきゃいけるでしょ……それじゃあ足引っ張るんじゃないわよ」


 ぬるっとボスエリアに侵入し、臨時パーティを編成してからぐっぐっとストレッチ。パワータイプの相手は距離取って撃つだけだから楽だし、そこまで疲れる事も無いだろうよ。


「速攻で片付けるぞ」


 インベントリから襲撃用の新しいガトリングを出し、いつもの様に展開式タワーシールドを出してそこにマウント。ボスの出現位置に銃口を合わせて待機している間、アルバスからなんとなくな質問が飛んでくる。


「何故実績を公表しないんだ」

「したところで意味なんか無いでしょ、どこ行っても指差されて○○の人だーって鬱陶しいだけよ」


 ガチャガチャとマウントの具合と弾の入りをチェックしながら返事を返す。


「知ってる奴がたまーに、憧れでした、目標でしたって言ってくる方がこっちとしても楽だし。まあ可愛く見えるもんでしょ」

「そういうものなのか?」

「だから私が積み重ねたものをあんたが自分の功績だというのは構わんって話なのよ」


 葉巻を揺らし、少しばかり目を細めながら遠くの方を眺める。言ってるこれは本心であって嘘偽りはない。自分が作った道を誰かが通った所で目くじら立てて怒る事ってないわけで、寧ろお前らが使ってるのは私が作ったものだぞ、ってこっそり覗いて悦に浸る方が好きだ。いつの時代、何処に行ってもそういう模倣されるもんだし、それこそ有名な証ってもんよ。


「実績を積み重ねて色んな奴に自慢したり、特許だーってでかい顔するよりゲームを楽しみたいのよ」


 細く長く紫煙を吐きだし、吸い切った葉巻を吐き捨てると共にエリア3のボスが土煙を上げて着地。すぐさまガトリングを撃ち始めて先制攻撃を浴びせていく。


「それだけでいいのか?」

「いいねー、現状好き勝手出来る資金と強さ、私が出来ない事をやれるプレイヤーが数人……いい環境じゃん?」


 ヒットストップを与え続けながらそろそろ切れる残弾を見てから、アルバスに合図してリロード隙をカバーしろ指示を出して、すぐにがちゃがちゃ次のマガジンを入れて掃射再開。他のプレイヤーもいるけど、こっちがこういう攻撃をしているのを見てか、しっかり射線を開けてるのは偉い。


「もっと自慢したり、でかい顔しても文句は無いだろ」

「それで敵を作るとその敵を潰すのに時間を食われるってのも実証済みなんだわ」


 火薬で儲けてた時が一番それを食らってたなあ。

 そういえば一時期商人連中を片付けたおかげでちょっとしたお礼のメールなんてものもきてたっけか。区画整備で売り上げが上がりました見たいな事も暫くあったかな。何て事を思っていたら雑魚が寄ってくるのでそっちの排除をしろと合図を出しつつ色々取り出す。


「先駆者はえーっと、なんだっけ、常に捨て石だっけか……そういう立ち回りなんだよ、私は」


 そうして雑魚の足止めをしている所、サングラスを掛けてからフラッシュを投げ込んで炸裂。アルバス含めた他プレイヤーと雑魚、ボスの視界を封じてからバリバリとガトリングを撃ちまくる。視界視認するボスにはよく効くわ、これ。

 

「こういうアイテムや戦法もガンナーの戦い方の1つだって広まると良いわけだし?」


 周りの事を気にせずに私が良ければ良しって立ち回りしているのだけはあんまり真似するもんでもないけどな。




 結局このフラッシュとガトリングでのハメ殺しでエリア3のボスは余裕撃破。当たり前だけど初見の時の方が苦戦してたわ。って言うか明らかに連携取れる5人で苦戦してたの何だったんだろうか。やっぱ初見の時が一番大変ってだけか。


「次のゴーレムは雑魚潰ししないとなあ」

 

 ガトリングやシールドを片付けて、手慣れた手つきでボックスマガジンに弾を込めながら3回目のゴーレムをどうするかと考える。そういえばあいんつとももえは先行してたんだっけか。


『エリア4に入るけど、そっちは』

『まだゴーレム出てこないから雑魚潰してるー』

『もうきたのはやない?』

『じゃあ合流するか、後1周くらいはしておきたい』


 担当砦は違うだろうしボス周回終わったら後は個人で勝負か。


『襲撃が始まるまでは仲良しこよしでいこうじゃないか』

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