412話 曲者揃い
「……あれ、見たかったんですよね」
「まあ、な」
「あんまり今は触れない方がいいですよ?」
ちらりと横を見れば、ボス戦が終わり大きく足を広げて煙草を吹かして休憩をしているアカメが1人。明らかに不機嫌と言うのが見て分かる上に、いつもの姿になっているので、他3人が少しだけ遠巻きにそれを見つめている。
アカメ以外の3人は先に祭壇の場所を特定し、とんぼ返りでボス戦をしていたアカメの所に合流したわけだが、しっかりボスは倒しているし、特に問題も無かったはず……の割には不機嫌がすぎじゃないか?と言った感じにちらちらと様子見をしている。
「お前らちょっと話して来いよ……」
「駄目ですよ、ボス戦待機してるんですから」
「威圧感半端ないですね!」
赤髪で、宇宙猫Tを着ていた時とは違う明らかに威圧感と言うかピリピリした雰囲気を放っているアカメがじろっと3人の方を向いてから煙草の紫煙を大きく吐き出す。
『さっさと倒して来い、お前らならすぐいけんだろ』
『ボスの特徴とかは……』
『タンク型装甲持ちのボス、ボスを小型化した雑魚は4体まで時間湧き』
今までと違うそっけない態度を取りながら、すぱすぱと煙草を吸い続けているアカメ。こうも機嫌1つでここまで態度が変わるのかと思う3人。結構暗い雰囲気になっていたところ、ボスエリアに侵入出来るようになったので、アカメと同じようにするっと3人が侵入してボス戦を始める。たまたま3人侵入出来た……訳ではなく、他に1人別の場所から侵入するが、もう1人が入ってこない。
「さくっと倒さないと、アカメさんもっと機嫌悪くなりますよ」
「それぐらいイラついたんだろ、原因が何かは分かんねえけどな」
「……どうやら、アカメさんがマジ切れしてボスをなぶり殺したらしいですね!」
「だからそこのマジ切れした理由が問題なんだろうが」
サンダースの頭をぺしっとシャールが引っぱたき、戦闘準備を進める。人がいないならいないで、もう一度アカメを呼んで、と思った所でもう1人入ってきたので5人パーティが完成。中央に集まり、いつもの様にシャールがガンを飛ばしているのをアオメが抑えつつ、どう戦うかを相談……する前にサンダースが先に声を上げる。
「ボスと雑魚体がタンクと装甲持ちなので雑魚を引き付けて、装甲や装備の薄い所狙って倒すのがセオリーですね!」
「虫ボスんときも装甲持ちだったんだからいけんだろ」
「ええと、こっちは前1後2向けの編成なんですが、其方の2人は」
1人はサングラスに革ジャンのムキムキマッチョマン、もう1人は銀髪と眼帯、身長並みに大きいライフルが特徴のヒューマン。遅れてきたのは銀髪の方で、マッチョはほぼ同時ぐらいに侵入してきたが、遅れてきた方はかなりマイペースだ。
「俺は前に出る」
「私は後ろだ」
2人とも素っ気ない返事をすると、自分の定位置だろう所にすたすたと向かい、準備を始める。その様子を見れば、シャールも楽しそうに笑うと同じように前に出てボスの出現位置で待機を始める。その様子を見て、残されたサンダースとアオメは呆れたようにしつつ、中1後1として待機。
「おい、足引っ張んじゃねえぞ」
「それは此方の台詞だ」
早速前衛で言い合いを始めているシャールとマッチョ。周りの事なんてどこ吹く風と言った感じで、構えたまま微動だにしないマッチョと、くるくるリボルバーを回しているシャール。待機している2人は動作だけを見ればかなり対照的。
「向こうは騒がしいですが……こっちはこっちで頑張りますか」
「それじゃあ、自分が2人の援護をしますね!」
「邪魔さえしなければそれでいい」
銀髪が地面にライフルを設置し、何度も同じ位置に出てくるボスの出現位置に向けて伏せた状態で構えて待機。こっちもこっちで我関せず、とにかく一発当てたらそれで終わる。そんな気迫を醸し出している。
「ガンナーって何でこうも自分勝手な人が多いんでしょうか」
「アカメさんも中々の傍若無人でしたね」
「……パーティ慣れしてないのと、ソロで動く方が強いからだよ」
サンダースがぽつりと零した事に中後衛の2人が揃って反応する。
「だから急造のパーティだと噛み合わせが悪いんだ、上手く回しているパーティは現状貴様らの所しか知らない」
「……見ていたのですか」
「私の事、スカウトしないか?これ以上先に進んで『勝つ』には限界なんだ」
スコープを覗いて微動だにしない銀髪がそんな事を言うと、サンダースとアオメがぴくりと反応する。
「アカメ、T2Wにおける正式版ガンナーの最初で最後の1人、初回イベント全体11位、クラン対抗戦2位、レースイベント1630位、闘技大会1位、使う獲物は多種多様、ガンナーの現状を作ったプレイヤー……そうだろ?」
「ちょっと詳しすぎじゃないですか?」
「有名人と言う事だ……出たぞ」
そういうとボスが出現し、地面に着地。轟音と土煙を上げ、自分で土煙を獲物で払っているタイミングで銀髪がすぐに引き金を絞る。発砲音の轟音と共にしゅるしゅると風切り音を発した弾丸がボスの兜を思い切り弾き飛ばす。じゃこっとコッキングレバーを引く音と共に、通常の物より大きい薬莢がゴロンと音を立てて転がる。
「……凄い威力だ」
「後ろで守られてっからだろうが、いくぞ!」
体勢を崩したボスに対してシャールとマッチョも動き、射撃しながら押し込みを始める。相変わらずのリボルバー連射と高速装填で回転率を上げた射撃攻撃。その隣で、高速でコッキングレバーを前後し、ショットガンを射撃しまくるマッチョ。攻撃方法は違えど、連射しての弾幕を張るという部分に関しては一致しているため、がんがんとボスを押していく。
「さて、僕達は雑魚を引きつけますか、2匹ずつで良いですね?」
「了解です!えっと……」
「ベギー」
「それではベギーさん、援護射撃をお願いします!」
「ああ」
サンダースとアオメが二手に分かれ、ボスの左右から湧いてきた雑魚を引き付けている間、ベギーがそれぞれ雑魚とボスに対しての援護射撃を始める。
暫く煙草をすぱすぱと吹かして気分を落ち着けている間にボスが出現、あいつらが戦い始めたのを肴にしつつ観戦。さっきの戦闘、あまりにもイライラし過ぎて本気で切れてしまったし、なんだったらうちのパーティ連中にすら少し当たったのは悪い部分が出たので、落ち着かないと。
「それにしても本気でイラっとしたのは久々だわ」
感情が高ぶるとああなるのは悪い癖だ。常に頭は冷たく、心は熱くしないといけないってのは分かっているんだが、抑え過ぎたのが原因か?
トカゲの奴もいたが、射線ちょっと塞がれたくらいで狼狽えやがって……私が抜けたからってあいつ腑抜けただろ。今度会ったらもう一回説教してやらないと。
「それにしてもえげつない立ち回りしてんな、あいつら」
ぷあっと紫煙を吐きだしてから状況を見る。
最初の一発で兜を吹っ飛ばしたのもあるが、前2人の弾幕が異常に厚いのでボスを釘付けにしているし、後ろがしっかり雑魚を引き受け、強力な援護射撃を出来るようにしている。つまり、何だかんだで良い感じにまわっているという事だ。ああ、これもまたイライラする原因だよ。こんな事ならもうちょっと私が主体となってさっきの戦闘を引っ張った方が良かったって事じゃないか。
「……結局クランを抜けて強くなったと思ったらそうでもないって、どうなんだろうな」
ため息と一緒に紫煙を吐きだしながら、少しだけ俯く。
あれこれと考えて反省するのは全部終わってからにしよう、とにかく今は勝ちを狙わないといけないから、余計な考えはやめないと。
「ふー……とにかくあいつらがボスを倒すの待つか」
どうせ余裕だろ、あの様子だったら。
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