397話 ハードなマラソン

「クソ、全然減らねえ!」


 2個目のボックスマガジンを撃ち切ると共にばしゅうっと煙を立てる様にガトリングの空転音が響く。折角200発も撃ちこんだってのに、全然目の前のモンスター群が減っていない。何だったら私の近くにやって来るのだけをどうにかこうにか抑え込んでいただけとも言える。

 最初の爆破で「凹」型になった後に撃ちまくったら角が取れていった状態にはなったが、分断や真っすぐ通り抜けれるほど倒せていないのは単純な火力不足か、200発全部直撃するわけじゃないし、倒した奴が消失していくまでにそいつに当たれば貫通もしないので、文字通り肉壁で奥にまで届かないのが原因ではある。


「こんなに手ごたえが無いと自信無くすわ」


 ガトリングをインベントリに投げ仕舞い、撃ち終わると共に徐々に接近してくるモンスターに向けてPウサ銃で迎撃。とりあえず一番近い奴のを押さえれば追いついてくる事は無いので、ひとまずは安全ではあるのだが、終わりが見えないってのは中々に苦痛だな。

 トカゲの奴がガトリングを作ったのも私が教えたからだってのに、その作った物を使いこなせないのは情けない。こんな所を、私を知っている奴が見ると幻滅しそうだ。

 それにしたってどうしたらこの状況を打破……しなくても良いのか。結構走っているし、マップをチラしたらそろそろ砦に到着するからそっちに連中に任せれば行けるか?

 いや、ちょっと待てよ、このまま砦に突っ込んでいく訳だけど、あいつら地平線から見えた瞬間に一斉射撃での飽和攻撃をするから、私の背中を思い切り撃たれる事になるやんけ。


「ああ、でもこのゲームFF無いから撃たれても問題はないのか」


 これなら死なないからセーフ……でもないか、攻撃による衝撃は発生するから撃たれた事で落下、モンスター群に吹っ飛ばされて死に戻りってのもあり得る。イベ中はデスペナが無いから移動に時間を割かれるだけだが、戻る前には終わってそう。

 

「だからって味方に撃たれるのはそんなにいい気分じゃねえ」


 そう思っていると、思っていた通り砦側の方から銃弾が飛び始める。地平線に敵が見えたらとにかくぶっ放すって方針がここに来て私の障害になるとは思わないっての。ちゅんちゅんと顔の横を銃弾が過ぎるわ、機体にカンカンと当たる金属音はするわ……おい、装甲べこべこになってるじゃねえか。


「クソ、当てた奴見つけてぶん殴ってやる!」


 こうなったら後ろに撃ちながら砦の方に自力で走って逃げるか。撃たれるたびにダメージは来ないけど、減速掛けられて変な加減速ついたり、脚部に当てられて転倒する可能性を考えたら降りよう。

 そう判断してポッドから身を乗り出した状態で反転し、砦側に向いてから少し無理して加速からの急停止、ポッドから射出するように前にすっ飛ばされていくので、どうにかこうにか体勢を維持したうえで着地からの前転、起き上がりの時に尻尾を使って体を起こし、必死こいて走り始める。

 後ろからの地響きを背中に受けつつ、Pウサ銃を銃操作で後ろに向けて音が一番近づいた所にとりあえず2発撃ちこみつつ走り続ける。


「幾ら無限に走れるからって、これはこれできっつ……!」


 音が近づけば2発撃ち、余った1発は適当に近いであろう所にぶっ放す。戦争物の映画でこういう撤退戦と言うか、銃弾を搔い潜って味方の陣地に戻るのってこういう感じなんだろうな。

 ちゅんちゅんと銃弾が掠める音、いきなり爆発が起きて土煙と土砂を被ったり、モンスターの残骸のような物が近くに落ちたりと騒々しい。

 

「もう、襲撃の時間ちゃんと考えて移動する……!!」 


 撃ち切ったPウサ銃を銃操作で並走させながらクリップを弾き飛ばし、じゃきっと押し込んで装填。そのままMPが切れるまで銃操作を使い続けながら撤退戦を続ける。自分で引き金を引かずに撃てるってのと、しっかり空間に固定できるってのが良い所。

 

「ま、MPすぐ切れるんだけど!」


 すっからかんになると共に、ベルトを肩にずしりとPウサ銃の重さが圧し掛かってくる。両手持ちライフルって結構重いな。

 とにかく砦の全体図が見えている所までどうにかこうにか走り、追撃の手も一斉射撃のおかげで此方には届かず、近づけば近づくほど弾幕は厚くなるのでウイニングランの様に砦の中に入りこむ。少しクールダウンの様に速度を落として、ある程度中に入った所で足を止めて一息。 

 とりあえず回復入れて、反撃を使用かな、と


「あんた、何処から来たんだ……?」

「あいつらが沸いてくる所から」


 たまたま近くにいたプレイヤーが不思議そうな顔をして声を掛けてくるのでそれに返事をしつつ、HPMPそれぞれのポーションを飲んで回復。ついでにインベントリを開いて現状の物資の確認も同時に済ませる。

 連鎖爆弾は1発だけしか用意してなかったし、ガトリングも用意していたマガジンも撃ち切って使い道は無し、ボックスマガジンに入れる程、。3種グレネード、銃弾はまだ余裕はあるのでこのウェーブをクリアするまでは持つだろう。ついでに機体に関してはモンスター群に巻き込まれて暫く出せない状態になっている。


「誰が先導してるのか知らないけど、前より押しとどめてる距離近くない?」

「そうだな……ちょっと全体的に撃ちすぎているって状況なんだ」

「ずっと砦に?」

「大半はそうだ、あんたみたいに周辺に出ているのもいたが」

「だったら知らなくてもしゃーないか……拠点で銃弾の補充が出来るから、このウェーブ乗り切ったら行った方が良いね」

「お、そうなのか……じゃあ後で情報共有しておこう」


 パーティ会話を始めたのか、少し黙っているのを眺めつつ、Pウサ銃、アデレラのチェックも済ませて防衛ラインの方に向かう。


「ダンジョンアタックして、追いかけられて走って、辿り着いたらすぐ防衛……自分でやっているとは言え、忙しすぎる」


 1人増えた所で戦力が大幅に上がる訳ではないが、参加しないって選択肢はないからすぐに戦列……ではなくて、高台に登ってPウサ銃を構えて上から撃って細かくポイント稼ぎ。ただやっぱり下で一斉射撃をしているだけあって、上で細かくだとそこまでよろしくは無い。ソロでランクを上げるってなるとやはりダンジョンアタックが勝てる要因になるか。

 そんな事を思いつつクリップが弾き飛び、いつもの金属音が響いた所で1つ心に決めた。どうせ砦の方に来ても全員で撃ちまくって倒されるというのなら、森のダンジョンに籠ってひたすら戦果を上げようと。


「そーなってくると、やるこたぁ……継戦能力か」


 イベントマップの条件化、何処までやれるかが私の順位を決定するだろうな。

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