395話 基本と応用

「ああ、やりにくい!」


 さっきあったガンナーの事、馬鹿にしてたけど、此処ヤバいわ。鬱蒼とした森の中、足元は悪いわ視界は悪いわ、トラッカーを使っても乱雑に生えまくっている木やら草やらがあるせいで一回見失うと補足しなおすのに少しラグ出る。


「賢いAIって味方には良いけど、敵だと鬱陶しすぎるわ」


 追いかけられ、迎撃して、走って囲まれないようにしつつ動いている相手だが、大体こういう時の小賢しいのは四足歩行の獣。まだウェーブが浅いから狼タイプの奴が中心で襲ってくるときには3体1組、トライアングルアタックで、先頭の奴がまず突撃、そいつの相手をしている間にサイドから挟み撃ちを仕掛けてくる。

 で、さらに言えばやらしいのが、1匹倒して2匹にした後に手間取っていると追加がやってきてまた3体1組に戻って攻撃を再開してくる。これを駆使して延々と撃破し続ける稼ぎって出来そう。


「って余裕があれば良かったんだけど!」


 茂みから飛びかかって来る狼の噛みつきの攻撃をガンシールドで防ぎ、アデレラで2発。小さく呻いて飛び退いたら、アデレラを投げ付けて鼻っ面にぶつけると共に、銃操作でさらに至近で3発。此処までやったら流石に倒せるのでポリゴン状に消失していくのをちらっと確認し、挟撃してくるのを音だけ聞いて、飛びかかってくる瞬間を狙いしゃがむ。

 そして頭上でクロスするように狼が通り過ぎ、また茂みの方に隠れてがさがさと音を響かせ、回り込んでくるのがよくわかる。つまるところこいつらの攻撃パターンは左右の2匹が「8」の字で動き、1匹がその真ん中を突っ切り、交差点に獲物を押さえつける役割って事か。


「数体倒してやっと把握する辺り、私もまだまだ!」


 2回目のクロスアタック、さっきよりも低く攻撃してくる前兆と言うか、ただの勘で飛びかかって来るのに合わせて仰向けに寝転がり、案の定2匹で攻撃してきた狼が重なった瞬間を狙って忍者刀を突きあげる。


「クソ、外した!」


 が、1匹だけ胴体を掠めるだけで、突き上げ失敗。すぐさま尻尾を使って体を起こしてから忍者刀を構え直し、投げ飛ばしたアデレラを手元に戻してガンベルトに、そうしてまた移動しながらタイミングを計る。この攻撃を与えた事で攻撃パターンを変えてくるかどうかもポイントか。

 素直に1匹ずつ倒せばいいのだが、可能な限り2匹同時撃破を覚えて今後の効率を狙うというのもあるが、思い付いた事はやっておきたい。

 って言うか、1ヶ月以上毎日ログインして自分を動かしているのに、まだ上手に動けない。いや、違うな、AGIを落としたから、その分出来てたことが出来なくなっているだけだ。


「嫌になるわ、ほんと!」


 次のクロスアタックが来るので、さっきと同じように仰向けには寝転がらず、アデレラを抜いて片一方の狼に向けて残った3発を撃ちこんで牽制、狙い通りに飛びかかりを抑え込めに成功。もう片一方はそのまま口を開けて噛みつこうとするので忍者刀を構えて口を貫く。

 と言っても、それで倒せるわけもなく、バーベキューの串焼きの様に口から忍者刀を生やしたまま、反対側の奴とぶつかってキャンキャンと吠える、そこを見逃さない。すぐさま装填スキルを使ってマガジンを落とすと共に、ガンベルトに突っ込んでる金弾入りのマガジンを入れ直して8発連射。こいつらの良い所はアデレラで3~4発撃ち込めば倒せるところよ。ついでに言えばぶつかって倒れている相手には流石に外さない。


「ただ3体倒すのに12発も使うのは効率が悪すぎる」


 空マガジンから装弾済みのマガジンに入れ替え、いつもの消失していくエフェクトを見た後、その場に残った忍者刀を回収し、どかっとそこに座る。動き回ったというのもあるが、少し休憩を入れて回復してから移動したい。


「思い切り忘れてたけど、ガンナーの火力を考えたら一斉射撃のダメージはえげつないわな」


 多人数のガンナーが一斉射撃したらそりゃすぐに制圧できる。職業別に分かれているなら、それに合わせてある程度モンスターの強さも調整しているうえで、防衛の回数が増えれば強くなっていくってのを考えるともうちょっと効率的に倒せないと今後が怪しい。

 

「やっぱりパーティ組むのが良いか……知った顔で組めそうなのはさっきのヘタレと情報クランの奴だが……」


 問題は1個の拠点を守ってはいるが、担当している砦がそれぞれ違うって所で、担当している砦ヤバくなったらそれぞれ帰らないといけない所がネックか?拠点に一気に帰れるアイテムがあるならそれを使って……と思ったけど、襲撃中に関しては拠点と砦の間にもモンスターが出るから、砦が近くないと1人で突破しなきゃいけない事になるか。


「さて、どうする、かっ!」


 うーんと考えている所、茂みから飛び出してくるので、さっきと同じように仰向けになって回避。上を通ったのは何かわからないが、起き上がるのに合わせて尻尾で加速。跳ねるように立ち上がると、通り過ぎていったモンスターの方を見てトラッカーを再使用。

 さっきと同じ狼型のモンスターっぽいが、すぐ茂みに隠れて移動している。こいつら一度ターゲットしたら倒すまで粘着してくるからなあ、下手なプレイヤーより根性あるわ。


「結局こっちに来ても走りっぱなしだな」


 じっとしている間に援軍を呼ばれると手間なので、こっちも移動して並走しながら相手の攻撃待ちが一番良い。こんな事ならもっと移動系のスキルを覚えておけば良かった。確か忍者って移動系スキルすげえ充実しているんだったかな。

 何て事を考えていたらまたとびかかってくるのでガンシールドで受ける……訳ではなく、見様見真似のシールドバッシュ。ゴンっと鈍い音をさせると共に、少し離れた所に着地してこっちを睨みつけてくる狼。さっき相手してたのよりも大きいな。


「ボスクラスか、厄介だな」


 こういうのはさっさと倒した方が良いに決まっているが、攻撃を受けて直ぐに逃げない辺り、こいつ多分ガチで戦ってくるタイプか。


「倒したらちょっとは良い点数くれないと割が合わんぞ」


 喉を鳴らして唸りを上げている狼が大きく一吠え、辺りに咆哮が響く中、Pウサ銃を腰に構えて銃剣をメインに、単体相手ならこっちの方が立ち回れる。

 ぐるぐると唸っている狼とこっちで睨み合いをしつつ、ゆっくりと腰のアデレラに意識を集中し操作を出来るようにしておいた状態で、こっちから動く。

 銃剣を腰に構えたまま雑に狙って2発。銃声と飛んでくる銃弾を視認したのか横っ飛びで私から見て左に飛ぶ。アデレラを指している右に飛ばすべきだったか。


「ただまあ、主導権はこっちが握らせてもらうが」


 左に飛んだのを見て、更に左側よりに残った3発を撃ち、右に回避を誘導させてからアデレラを銃操作で抜いて回転させたままぶつける速度で至近に持っていく。

 流石にボスクラスだけあってそのまま撃たせてくれるわけもなく、軽く跳躍して1回転すると尻尾を使ってかアデレラを弾き落とす。

 

「よくやる!」


 回転して弾き落とす動作でこっちに接近してくるので、Pウサ銃のクリップ排莢音をさせ、すぐにクリップ装填。じゃこっと突っ込むのと同時に飛びかかり噛みついてくるのをもう一度ガンシールドで受け、少し堪える。ああ、もう涎が付いてしまうだろうに。

 

「ただまあ、タイマンでこっちが畜生に負けるわけないがな!」


 がしがしとガンシールドを構えたまま引っ張ってくるのであまり逆らわずに引いてくるのに合わせて押し込んで、マウントを取る。やっぱり単体性能だけで言えばボスだとしても所詮は畜生よ。

 すぐさまPウサ銃を手放し、アデレラを手元に引き寄せ、そのまま銃口を押し付けて8連射。じたばたと暴れまわるが、流石に全部撃ち込んだらそのままポリゴン状に消失していく。


「やっぱ銃操作、消費えぐいわ」


 ようやく使えるようになってきたけど消費や操作難度がきつい。こんな感じで戦い続けないといけないってなるとかなり大変だな。


「こうなったら銃操作の為だけの銃でも作るかな」


 そんな事を思いながら煙草を咥えて一息。

 まだ全然モンスターも倒してないしダンジョンも進んでない現状を考えると、先がきつすぎるわ。

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