16章

387話 変わったマイハウス

 今日も今日とて闘技場。

 前回の大会から特に大きいイベントも無く1週間ほど闘技場に通い詰め。何だかんだで闘技場のランクも5位まで上がって、ようやく上位陣に食い込んだ。

 名前の知っている所で言えば、ド脳筋のドワイトが3位、トカゲの奴が7位、ジャンキーが18位、紫髪が19位でここで競り合っており、髭親父の奴も25位をうろうろとしている。あ、ポンコツも39位くらいにいたかな。戦闘力で言えばゲーム上でも最強と言えるくらいにはやりこんでいるジャンキーと紫髪が変な所で躓いてるのは互いに殴り合ってランクの入れ替え戦をずっと続けているバトルジャンキーっぷりを発揮している。

 で、私もここに来て軽く停滞状態なのは、手の内がばれているのと前の大会から装備やステータスが一切変わっていないのが大きい。上位に食い込めば食い込むほど自身の研究がされるのでランカー同士の読み合いが発生する。それを物ともしない立ち回りをしているのは脳筋とジャンキー組くらいだな。

 一時期トップ独走だったトカゲが下位に落ちているのや、ポンコツが上に上がれないのも私が停滞し始めた理由が一緒で、どうしても相性差が覆せないのと弱点を突かれると弱い所になる。


「そしてまあ、上の連中が対戦拒否してきやがる……」


 そして上がれない理由がもう1つ、対戦拒否。あの脳筋すら私との対戦を拒否してくる。あまりにも拒否って来るから理由を聞いてやったら「お前とは戦うのは苦労が過ぎる」と言われた。脳筋のくせにしっかり相手見てるってのが腹立つ。


「こうなると暫くランクは上げられないか……ちぇー、根性無し共が」


 いつもの様に揺らしていた煙草をぷっと吐き捨ててアデレラをくるくると回して考える。やっぱり大会チャンピオンって肩書が邪魔しているな。此処まで来たのにトップを取れないのも厳しい。トカゲ辺りと戦った所でランクは上がらないので談合は出来んしなあ。


「暫く離れて他の事でもするかなぁ」


 マッチングしないのでこのまま闘技場から自分の家に転移する。





「おかえりなさいませ」

「持っていろ」


 広大な畑にでかい家、庭には雑多に並べられている作業場。此処に戻ってきたら安心するわ。とりあえずスーツの上着を脱ぎ、ガンベルト等の武器類をマイハウス入口にいるロボメイド4号機『フィーラ』に渡し、そのまま後ろに付いてこさせて2Fの定位置にどかりと座ってから「いつもの」と手を出すと、酒と煙草が乗ったトレイを持ってくる。うんうん、非常に優秀。

 

「来訪者、伝言等はありません」

「ご苦労」


 軽く頭を下げてから私の座っている椅子の少し斜め後ろに立ったまま待機する。高い金払って導入したおかげもあるが、このゲームのAINPCの出来る事の幅がすげえ。材料を渡しておけば簡単な製造ならぽこぽこやってくれるし、掃除の必要はないけど私のガンラックはいつもピカピカ、なおかつサイズと種類別にきっちり分けてくるし、使ってない防具類もきっちり収納されている。こんな事ならさっさと雇えば良かった。

 そんな事を考えつつ用意された煙草を咥えてると共に火を付けられ、片手で酒のグラスを傾けながら久々にメモ帳計画書を出して何をするかなと考える。


「現状できる事が少ないんだよなあ……」


 まだイベントの告知は無いし、やれる事と言えば。


1.闘技場での上位ランク(ただし対戦拒否される)

2.レース場でのランク上げ(やりこみ不十分のため時間が掛かる)

3.レベリング兼用の素材集め(特に弾関係)

4.スキル取得のためのボス狩り


 こんな所だ。

 特に3は定期的にやるものだから、わざわざ入れ込む必要はない。この中ではやりやすいのはレース場か。勝敗でレートが変動して、勝てば増え負ければ減る簡単なルールだが、単純にレース場の上位陣は闘技場の連中よりも頭のネジが吹っ飛んでる。爺の奴に頼んで上位陣のレースに出させてもらったが、マジで頭おかしい。

 勝つ負けるのはそうだが、大前提として「自分はお前より速い」と言うのをひたすらに追求した連中の集まりになっている。アクセルは基本ベタ踏み、機体が吹っ飛ぶか吹っ飛ばないかぎりぎりのニトロ量、ブレーキを踏んだら負け、カーブでオーバースピードは当たり前、落ちて速いなら落ちる。コースアウトじゃなきゃ全部コース、闘技場で戦っている連中の方がまだマトモだ。


「とりあえず質量弾用の金の採掘して来ないとなあ……そろそろ銃弾の数も減ってきたし」

「現時点での素材量を確認いたしますか?」

「いや、いい」


 そう一言放つと、勝手にメニュー画面を開いて操作をし現状不足しているであろう素材のリストを横に添えてくる。こういう先読みしてくるのが賢いAIってもんよ。って言うかこんなに高性能なAI積んでるNPCをほいほい貸出するこのゲームと言うか運営頭おかしいんじゃねえのか?

 

「よし、出てくる」

「はい、持ち出しはプリセット1でよろしいですか」

「いや3だな」

「了解いたしました」


 そう言うとささっと引っ込んで、それぞれ設定しておいた装備やアイテムのセットを入り口横で携えて私のことを待っている。うむ、非常に出来た奴だ。何でもかんでも自分でやるってのも悪くはないんだが、やっぱり補佐がいるってのは非常に便利で楽だ。

 設定していたプリセット3のアイテムセットは、銃剣ライフルPウサ銃をメインにして、対環境装備無しの物。大体どこ行っても動けるようにしている。そうして受け取った装備類を装備し最後にスーツの上着とコートを貰い、それを身に纏ってから一息。

 

「お前はいつも通りで良い」

「はい、いってらっしゃいませ」


 お辞儀をするので下げられた頭に合わせてわしゃっと撫でてから転移して、目的地に向かう。





「本日の業務を開始します」


 広大な畑、その9割が硝石丘として作り替えられたのでそれの管理をまず始める。採取できる物は採取したうえでされていないのはチェック。採取し終わったものはボックス内に入れて一時保管。その次は残り1割に植えてある作物。煙草の葉を集めてこれもボックス内に保管。

 畑周りの収穫管理が終われば地下にいき、酒造樽の中身をチェックしたうえで、出来上がっている物は回収して保管。足りない物が出たら随時チェックし、主が帰ってきたら報告。それが終われば既定の数まで作成しておけと言われている火薬、薬莢、弾頭、雷管を作成したうえでまたボックスに収納。設定されていた作業を全て終わった後はプリセットの補充と用意を済ませる。

 

「業務終了、スリープモードに移行」


 マイハウスの転移地点に、主が設置しておいた椅子に座り、目を閉じて帰りを待つ。

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