353話 初卸初戦闘
「荒れてるようで荒れてないわね、この街は」
相変わらず運転を爺に任せながらすぱーっと葉巻を味わいつつ自分のステータスウィンドウを開いてぽちぽちと。あれから結構走っているのだが、今の所はプレイヤーが暴れているのを見るのは日常茶飯事レべル、所々でイベントクエストをやっているんであろう感じの戦闘やら騒ぎがちらほら。
ちなみに追われていたのに関しては一定距離を離すか、30秒~1分程逃げ続けると諦めてくれるのが分かった。警察と言っていいのか分からんが、基本的には呼ばない、追われない方が良いので余計な事をしないに限るのだが。
「結構人と建物がごちゃごちゃしてるし、私こんな所で生活できんわ」
「そうかな、都心じゃ普通だと思うが」
「アカメは田舎者かえ」
「んー、まあ隣町まで30㎞くらいはあるわね」
そんな事を言うと少し驚いたような顔をされる。北国じゃそんなもんなんだよ。厳密に言えばもっと近い所もあるけど、一通り物が揃った所に行くまではそれくらい掛かる。そもそもコンビニ一つ行くのに車出さないとめんどくさい所なのは事実だ。
「して、あの依頼主から連絡は」
「特にないわねー……あと、今気が付いたら解散不可のパーティが組まれてるわ」
「一蓮托生って事ですかな」
むさくるしい一蓮托生だこと。
「そのほかイベント関係はっと……あったあった、とりあえず私らは『最低の街』のフリーランスとして行動して、色々イベントクエストをこなしていくと良いってさ」
「ざっくりじゃの」
「他にも派閥が何個かあるみたいですな、一旦別れて情報収集でも?」
「そうねー……『こっちでも会話できるなら?』」
パーティ会話に切り替え、連絡を取り合ってみる。それぞれが相変わらずの返事をしてくるので会話は問題無し。電話だったりトランシーバーなりの色々と連絡するものはあるが、そういった連絡手段を使わずに手ぶらでさくっと連絡できるのはやっぱいいよね。
『儂とアカメは「最低の街」で引き続き情報収集じゃな』
『拙者は他勢力を見てこよう』
『個人の拠点なんてあればいいんだけどなあ、ガレージ付きのやつ。イベント期間がそれなりにあるし、こっちの拠点も作りたい』
そんな事を話している間に忍者の奴が後部座席の窓から身を乗り出してきょろきょろと辺りを見回している。
『勢力争いが大きい戦いの一つだとして、やられるとめんどくさそうだから無理はするんじゃないわよ』
『拙者、これでも隠密特化ビルドなのでな』
そういうと共に、走っている車から飛び出すと風呂敷を広げ、慣性速度を抑え込むと共にしゅたっと麗に着地し、手を振って私達を見送っていく姿を見せる。
「それにしても地味な立ち回りじゃ」
「何言ってんの、こういう地味な立ち回りこそ、後々派手な事に繋がるんだって」
私の場合で言えばFWS以外に派手な事はないし、今までのイベントや自分の準備期間含めてずーっと地道にやってきてるので今更と言った感じ。私の事って結構派手にやってるみたいなこと言われるんだけど、そんな事はないって知っているのは少ししかいないよな。
「って言うか私が派手にゲームやってると思ってるの?」
「そりゃそうじゃよ、自分の噂って知らないのかえ」
「興味ないからなあ……ちなみにどんな事があるのさ」
少しだけ速度を緩めて街の中を流しつつ爺による噂話タイムが始まる。勿論その間もしっかり街の中を観察して、どういう状況か、どんな感じのクエストをやっているのかは見続ける。
「クランを立ち上げて直ぐに大手に喧嘩を売る、一等地のクランハウスを無理やり買った、クランハウスの中でハーレムを作っている、ボス狩りで荒らしまわる、逆らうと運営からアカウントBANを貰う……」
「噂話もそこまで来ると笑い話になるわねえ」
「ちなみにどこまで本当なんじゃ」
「喧嘩売ったのと、ボス荒しは事実かな、他はそんな事ないって感じ」
すぱーっと大きく紫煙を吐きだし、葉巻を持った手を窓の外でぷらっとさせたままに。
「やっぱり長い事やってりゃ噂なり色々出てくるもんだね」
「嫌かい?」
「いやー、話に色々くっついてすげえ伝説的なプレイヤーとして祭り上げられて会ってみたら……って展開は期待したいね」
そんな事を言いながらけらけら笑い、マップを見ていると突発的なクエストが発生しますって感じの「!」マークが出てくるので、そこを指差し行き先を方向転換。
流石に何も無い状態なのでドリフトかましてUターンしたり、無茶な動きをするわけもなく、ゆるーっと向きを変えてそちらの方へと向かう。
『よう、最低の街は満喫してるか?』
「メッセージが来たわ」
『ちょっとした問題があってな、うちの構成員を助けに行ってほしいんだ』
あー、でたでた、一方的に中身を言って、こっちの返事を待たずに発生するタイプのクエスト。その指定された所に行った大体詳しい事をもう一度聞かされたりするんだよね、こういうのってさ。
『助けに行くところに他の連中がいるが……まあ、適当にあしらってくれ、車を用意するのを忘れるなよ』
「だってさ」
「じゃあ、突入は任せるかの」
「何処にいるかってのがポイントよねー……ビル系の大きい建物だと1人だと厳しいかも」
「児雷也は偵察中だからのう、必死こくしかないじゃろ」
「あんたは乗物無いと弱いし、必死こいていくかあ」
すぱーっと葉巻を味わい、いつものように紫煙を吐きだしてぼーっとしている間に目的地にたどり着く。
『拙者も合流した方がいいか?』
『いや、どうにかするからいい』
『で、あるか』
ヤバい所かなーと思っていたら、大きめのモーテルって感じの所に辿り着いている。こういったモーテルって日本じゃ見れないし、外国のゲームを参考にしている感じはある。もうちょっとわかりやすいとL字の2Fアパートって感じ。
とりあえず車を止めて、私だけ降りてから銃のチェック。折角作って新造したのを早速使う事になるとは思わなかったけど、使わないって選択肢はそもそもないか。
「おー、凄いな、画面に目標地点が強調されるようになってる」
「儂はどうするかね」
「エンジン掛けたまま近くに待機かな、あとは状況見てアドリブ」
「あれだけ色々調べておいて、ざっくりじゃのう」
「ざっくりだからいいのよ」
ガチガチに作戦決めてあれこれするってのも嫌いじゃないし良いんだが、有る程度は臨機応変に動ける方が何かあった時に信用が出来る。
「おお、そうじゃ……葉巻くれんかの」
「買ってきなさいよもー」
インベントリから減ってきた葉巻を2本取り出して車に上半身突っ込んだままで受け渡し。嬉しそうにそれを咥えると火をくれというので、いつもの様に生活火魔法でぱちりと火を付けてから上半身を車から出してふいっと。
「じゃ、逃げる時は頼むわ」
「おお、任されよう」
ボンネットをゴンゴンと叩くとモーテルの近く、逃げやすそうな経路の所を探し始めるのを見送ってから、自分のガンベルトに銃を2丁提げたうえでマシンガンを手に持った状態で指定された部屋に向かう。
そのモーテルに敵がいる訳でもなく、モーテル2Fで真ん中の部屋っていう逃げる気ないのかって思う部屋に辿り着いてノック。こっちに敵意が無い事と助けに来たことを伝えると素早く中に入れられ、ドアに鍵を。
「俺を助けに来たってマジか、他の地域の連中はいなかったか?」
「別にいなかったし、さっさと逃げ……」
何て事を言っていれば表で車が何台か止まる音がする。なるほど、接触するとスポーンするって事か。うん、よくある奴だな。
部屋のドアを少しだけ開けて周りを確認、廊下の部分に2人、1Fの駐車場に3人程。車が3台見えたからあと4人くらいはいそうだ。
「一通り片付けてくるから、それまで隠れてな」
「頼むぜブラザー!」
見知らぬ奴にブラザー何て言われても気分が乗らねえし、なんだったら私は女だっての。
とりあえずドアの近くにしゃがんで用意していたマシンガンを仕舞ってから提げていた銃の一つを取り出してふいーっと一息ついてからコッキングからのマガジンに弾を入れて+1も忘れない。
名称:G12オイレ 武器種:短銃
必要ステータス:STR5 DEX20
攻撃力:+5 命中:+25 命中時固定ダメ:25
効果:単発 装弾数5発 金属薬莢 マガジン 手動式
付属品:サイレンサー(着脱不可)
詳細:非戦闘相手への弱点攻撃で確定クリティカル、固定ダメージ+250
結局アタッチメントを作って付けるよりも最初から消音効果のある銃を作る方向にしてみたらあっさりと作る事が出来たって奴。完全に不意打ち用の一品なので現状ではおあつらえ向きではあるんだが、少しでも敵に見られると戦闘状態になるから追加効果全部死ぬって言うトレードオフすぎる銃。ついでに言えば手動でコッキングしないといけないので連射も出来ない。
「ま、なるようになるかな」
10人位ならどうにかなるだろ、うんうん。
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