352話 車泥棒

「いきなりえらい目にあったなあ」

「ほほ、楽しかったがの」

「追っては撒いたようだし、言われた座標に行くか」


 ビルから脱出し、とりあえず離れるようにと他の車やら壁やらに色々ぶつけまくったうえに、追ってをどうにかこうに巻いた現状。流石に追いかけられながら撃ち合いをするなんてゲームでしかやった事なかった……って思ったけど、これもゲームだから同じか。


「もう少ししたらドライブも終わりじゃよ」

「それにしたって、いきなりSFにジャンル変更とは」

「拙者の場違い感が凄いのは問題か」


 それにしてもこんなにボロボロになるくらいにいきなり攻撃されて、追い掛け回されてるわけだが、あくまでもこのイベントの導入イベントだとしたら、やられた場合はどうなるんだろう。一応イベント中の死に戻りに関してもチェックしておかないと。


「他のプレイヤーがいないのが気がかりですが……」

「導入はそれぞれマッチした人だけで、じゃないかな。さっき言われた座標に行って話を聞けばそれぞれ好きなようにやってくれって流れでさ」


 忍者がちらちらと後ろを見ているのを横目に、いつもの葉巻を咥えてふいーっと一息入れる。なかなかにスリリングなカーチェイスだったわけだし、一服してないとやってられん。それにしても爺がライダー職で良かった、乗物に強い奴がいるとこういうゲームだと本当に助かる。何て事を考えていたら咥えていた葉巻を爺に取られる。 


「ぷはー……いい葉巻じゃの」

「いいチームであるな」


 そしてそのまま爺が咥えていた葉巻を忍者が奪って一服。私の葉巻だってのに回し吸いしやがって。私はおっさんと間接キスする趣味はねえぞ。


「まだイベント開始って訳じゃないのに何やってんだか」

「いいじゃろう、ほれ、着いたぞ」


 また忍者から葉巻をを奪うと爺がそれを咥え直して車を降りる、と共にぶしゅーっとエンジンから煙が吹いてめでたく廃車となる。それを3人で見届けてから指定された座標に歩いて向かう。

 

「それで場所はあってんの?」

「ちゃんとマップを見て運転したからのう」

「周囲を探ってくるから、何か探しておいてくれ」


 忍者が単独で行動し始め、少し距離を置いて辺りを探り始める。その間に爺と私で指定された座標に辿り着くと特に何もない駐車場というか、マンションの間にある空き地のような所に。

 

「こういう所は私の方が得意だったりするんだよな」


 ほう?と声を掛けられながら、空き地の入口にしゃがみ、トラッカーを使って辺りを探り始める。やっぱりこういう時に持ってて良かったトラッカーって思うわ。いつもの様に目から残光を走らせつつじっくりと確認していくと、何かの違和感を覚え、空き地の一角……というよりもマンションの壁に痕跡がある。


「此処だな」

「児雷也は待たんのかえ」

「口笛なり指笛吹いたら来るんじゃないの?」


 どういうプレイヤーか知らんし、ああいうがっつり職に合わせてロールをしているっての考えれば結構そんな感じで、片膝立ちでしゅたっと降りてくるきがする。

 そんな事を考えつつ、痕跡があった壁をぺたぺたと触っている後ろで、爺が指笛をぴーっと吹いている。何か色々出来るなあ、たまーにいるんだよな、リアルでもやたらと器用に何でもこなして新しい物が好きな老人。完全にそういうタイプの爺さんだわ。

 しかもその指笛で文字通り、忍者はこっちに来て「何か?」という様に片膝立ちで爺の所に座っている。忍者っていうか忠犬だな、ありゃ。


「特に周囲には何もなかったから大丈夫だ」

「こっちも見つけたとこだよ」


 ぐっと壁の一部を押し込んでやると、壁の一部が横にずれ、入口が出てくる。なので軽く横にずれて、どうぞという様に入口の方に手を向ける。


「ほほ、さーて、何がでるかの」


 それにしても戦車以外興味ないかと思ったらそんなことないのか。なんだかんだで走ってる最中も一番喋ってるし、想像以上に騒がしい奴だ。とりあえず3人揃ってドアを通って、暫く廊下を進み、突き当りにあるドアを更に通ると大きめのバーがある。

 

「いよいよもって裏社会って感じ」


 そんな事を言っていればそこにいたガードに通され、奥の個室に案内される。テーブル一つ、大きめのL字に配置されたソファが一つ。そして向かいにはこれまたお決まり……でもない、ラフな格好をした男が一人、酒のグラスを転がしている。


「よくやってくれた、これからは仕事を回してやる」

「これは……どういう事で」

「つまりイベント参加してあそこから此処まで来る間がプロローグなんだよ、イベントはこっからが本番ってこと」


 あれこれ話をしている間に忍者の質問に答えておく。あまり運営側の考えや流れを汲んでおくってあんまり好きじゃないのだが、このゲームじゃそういう「察しろ」って感じの所があるからいいだろう。


「それで次の仕事だが、とりあえずはねえ、好きにしな」

「はいはい、りょーかい」


 軽く返事をしてから爺と忍者をぐいぐいと押してその場を後にする。やんややんや言われているがとりあえず一旦外に出たいってのもあったので、さくっと話を切り上げておく。


「仕事の時は連絡してくれりゃいいわ」

「当たり前だろ」


 とにかく一旦落ち着きたいのでバーを後にする時にもう一声貰う。


「ようこそ、最低の街へ」


 



 空き地に戻り、もう一度一息ついてから壁にもたれる。

 

「これで後は、この最低な街で楽しめって事かな」

「具体的にはどうすればいいのか」

「ああやってかの?」


 爺が指を向けた先には他のプレイヤーが魔法を撃ち合いつつカーチェイスをしていたり、路上で切った張ったしながら暴れまわっているのが見える。


「つまるところ、どこぞの車泥棒と同じような事をするんじゃないかしらねー」

「しかしそれでは無法地帯と変わらないのでは?」

「そうとは限らないみたいよ?」


 騒がしい通りの方では警察のような部隊が現れると、暴れていたプレイヤーをしょっ引いたり、ボコボコにして死に戻りさせている。


「多分だけど、こっちから何かしらアクションを起こして、罰則のある事をしたらああいう風に追いかけられるって感じ」

「手を出さなければ一般人と同じ、警察に保護される……って所かの」

「とにかくここで話しても仕方がない、どこに行く?」

「そうじゃのう……」


 2人で悩み始めているのを横目に歩道に出て、辺りを見回している間にやってくる車に向けて2発ほど発砲して、運転していたNPCを離脱させる。

 特に高級でもなさそうな普通の乗用車


「とりあえず運転しながら考えようや」

「……やはり悪魔であるな」

「そういうルールなのじゃろう、楽しまんと損じゃよ」


 それにしても一応国産のゲームだからか車は右ハンドルなのは御国柄よね、ドア開けたら助手席ってのはちょっと間抜けな絵面だな。どっちにしろたった今車泥棒をしたわけだから、ウインドウに黄色の警告が出てきて警察が向かっていますと出てくるのでさっさと運転しろという様にボンネットをごんごんと叩く。

 向こうの2人にも警告が出たのか、小走りでこっちに向かってくると爺が素早く運転席に乗り込みエンジンを吹かし始めるので、助手席と後部座席にそれぞれ乗りこんでから発進。


「運び屋の爺、偵察の忍者……」

「無慈悲な悪魔」

「暴力のアカメ、かの」

「言ってくれるじゃねえか、おい」


 後ろから響いてくるサイレンをサイドミラーでちらっと見てから爺に加速しろと合図。どノーマルな車の割にはいい加速するな、この車。


「葉巻は?」

「火も頼みたいのう」

「拙者も」

「はっはっは、てめえで買ってこい」


 自分の分だけ咥えてすぱーっと一服。

 

「まずは暫く街の中流してどんな感じか見てみよう、いい車があったらかっぱらって乗り換えな」

「戦車でもあればいいんじゃがなあ……」

「奪う前提で動くというのもどうなんだ」

「足回りは大事だかんね」


 やたらとロックなBGMとサイレンの音を聞きつつ、この最低と言われている街を見てみようじゃないか。

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